キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2015年2月号

松下村塾に学ぶ キャリア・コンサルティングとの共通点

この度、キャリア・コンサルティング協議会顧問の桐村晋次先生が「松下村塾」から学ぶ人材育成術をテーマに「吉田松陰 松下村塾 人の育て方」(あさ出版)という本を出版されました。今月のコラムでは、その内容とキャリア・コンサルティングとの共通点に触れご寄稿いただきました。
本のご紹介はこちら


今年の大河ドラマは、吉田松陰の妹「文」が主人公です。文の夫は、松陰門下随一の秀才といわれた久坂玄瑞。玄瑞は維新の争乱の中で落命。文は、その後、文の亡き姉の夫であった楫取素彦(かとり もとひこ)に嫁ぎます。楫取は明治以降、群馬県知事となり世界遺産富岡製糸場の発展の基盤を築きました。

松陰の松下村塾では、日本の初代内閣総理大臣伊藤博文、山県有朋、高杉晋作、桂小五郎(木戸孝充)、前原一誠など、幕末から明治にかけて国の基礎を築いた多くの人々が育っています。

しかしながら、松陰が直接に弟子を教えたのはわずか二年あまり。その後、十年を経て明治維新ですから、その間弟子たちが集まって師没後も自分たちだけで学習会を続けたためです。松陰は単に講義し、指導するのではなく、「塾生が相互啓発により自力で成長する教育システム」を生み出していたと考えられます。

松陰は、弟子入りの希望者がくると、「何のために学ぶのか」「どんな自分を目指したいのか」を問い、「一緒に励みましょう」と答えるのが常でした。個人の長所を見抜き、その長所を伸ばすためにキャリア形成支援を実行しました。弟子たちは、武士、農民、町人など様々であり、学問レベルもバラバラでしたが、松陰は一人ひとりに適する書物を与え、「大切だと思うところを抄録するように」勧め、「何故大切だと思うか」を横に座って議論しています。「君」と「僕」という当時としては珍しい師弟関係を作り、師と弟子の一対一の指導をするとともに、グループ討議によって、一人では考えつかないことを集団の知恵を集めることで前進できるという体験学習を進めました。

弟子の一人が入牢させられている時には、品川弥二郎ら三人を呼び、その弟子の母を慰める手紙を工夫して書け、と指示しました。また、兵学の時間では、関ヶ原の地図を広げ、弟子が周りを囲み、「午前八時、徳川、小早川、石田三成はこう布陣している。君が毛利ならどう動くか」と図上演習で発言させながら授業を進めました。本書では、松下村塾誕生の社会的背景を描いた第一章、晋作、玄端、博文らのキャリア・ヒストリーから人の育ち方を追った第二章、松下村塾の人材育成法の七つの特徴を現代に生かす方法を具体的に提言した第三章で構成しています。

松陰の教育は、「傾聴による自己理解への支援」「グループワーク(集団討議)」「なりたい自分に向けての学習への動機づけ」「個性を尊重したキャリア形成支援」が基本です。そこにはキャリア・コンサルティングと共通点が多く、たくさんのヒントを含んでいるのです。

桐村 晋次(きりむら しんじ)

桐村 晋次(きりむら しんじ)

1963年東京大学法学部卒業後、古河電気工業入社。人事部長、取締役経営企画室長、常務取締役を経て、古河物流社長。この間、筑波大学大学院(夜間)カウンセリング専攻修了。神奈川大学経営学部教授、法政大学キャリアデザイン学部教授、同大学院経営学研究科教授、日本産業カウンセリング学会会長を歴任。現在、キャリア・コンサルティング協議会顧問。
主著に「人材育成の進め方」「人事マン入門」(以上、日経文庫)「日本的経営の何を残すか」(共著ダイヤモンド社)など。近著に「吉田松陰 松下村塾 人の育て方」(あさ出版)

コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)

キャリアコンサルタントのさまざまな活動を応援します!「ACCN」のご案内はこちら


マンスリーコラム一覧へ戻る