マンスリーコラム
【ゆるキャリ】第2回 日本人のほとんどが知らない!?苦しんだ過去も立派なキャリアです。「仕事・職歴=キャリア」という誤解
■「キャリア」は「華々しい経歴」ではありません!!
突然ですが、あなたは「キャリア」とはどういう意味だと思っていますか?どうやら日本人の3割以上がキャリアとは「華々しい職務経歴」と誤解しているようです。
もちろん、キャリアの本当の意味は違います。キャリアすなわち「Career」の語源は、「通ってきた道」。ここから「その人の足跡」となり、やがて「その人の生き様」、言い換えれば人生そのものを表す言葉となりました。
ですが、残念なことに日本では本当の意味が伝わっていないようです。
特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会は「相談するということ実態調査(2023年)」を行っています。それによると「キャリアと聞いてイメージするもの」の問いに何と35%の人が「仕事上での役割やポジション、肩書」と答えています。
■ なぜ、日本人は「キャリア」という言葉を誤解しているのか?
さて、この調査の結果、あなたはどう思いますか?「だよね~」という印象や「自分も華々しい経歴のことと思っていた」という方も多いことでしょう。
実際のところ、たとえば昭和の日本では「キャリア組」という言葉がよく使われていました。この言葉、国家公務員などを中心に将来的に組織内の要職につくことを期待されている人々、または実際に要職に就いた人々のことを指していました。
少々、私の少年時代の話をさせてください。私の両親は地方公務員でしたが、1970年代から1980年代の記憶を辿ると「キャリア」という言葉への周囲の大人たちの複雑な表情を思い出します。
その表情を思い返すと、「キャリア組」という言葉には尊敬の眼差しもありました。ただ、同時に羨望や時には「現場を知らない人々」という揶揄も含めて使われていたようでした。
■「キャリア」は気障(キザ)な横モジ
なぜ、「キャリア」という言葉がこんな使われ方をしたのでしょう?「キャリア」という「横モジ」がかっこよく、颯爽としたイメージに見えたのかもしれません。もしかしたら、ちょっと気障(キザ)なイメージもあったかもしれません。
ここから、現場や組織の末端で汗水垂らし続ける下々とは違う人生...、そんなイメージがついてしまったのでしょうね。いずれにしても、「庶民とは違う」、「その他大勢とは違う」というイメージが「キャリア組」にはありました。
こんなイメージを引きずっているせいでしょうか、「あなたのキャリアを相談してください」と持ちかけても良いリアクションをいただけないことも少なくありません。ありがちなパターンとしては「キャリア」を「上昇を目指すこと」と捉えてしまって、「自分には関係のないこと」とシャットアウトされてしまうようです。
■「キャリア」は格差の象徴?
また、格差の象徴のようなイメージもあるようです。「キャリア」という言葉から「格差」を連想してしまって複雑な思いになる方もいるようです。複雑な思いがあると、そのことについて考えようという気持ちにはなりにくいものです。
ちょっと話が変わりますが、私がよく寄稿させていただいている情報サイト「Mi-Mollet」様でもこんな話を聞いたことがあります。「"キャリア"という言葉が付くだけで読んでもらえない」と。残念ですが、これが現状のようです。
このような状況の中でキャリアの相談ってなかなか使いにくいものになってしまっているのかもしれません。
ただ、これは「キャリア」という言葉の使い方としては大きな間違いです。この間違いを引きずって、日本人が正しいキャリア支援を受けにくくなっているとしたら本当に残念なことです。「気障(キザ)な横モジ」ではなく、「その人の生き様」という本来の意味で「キャリア」を捉えていただけたらと思います。
■ キャリアとは愛と尊敬が溢れる言葉です
キャリアとは本来はその人の「足跡」すなわち「歩んできた道」を讃えるための言葉です。決して「華々しい職務経歴」ではなくても、その人なりにがんばって生きてきた証がキャリアです。そこには、本来は一人ひとりの人生へのリスペクトが溢れる響きが伴うものなのです。言い換えれば「愛と尊敬があふれる言葉」、それがキャリアなのです。
キャリアとはこのような意味なので、たとえば病歴も立派なキャリアです。私の例で恐縮ですが、私の心理学者としてのテーマは「うつ病(≒気分が滅入り続け自分の存在を呪う状態)」です。1995年頃、日々うつ病患者の苦悩を理解しようと全身全霊で考え続けたところ、なんと私自身がうつ病(受診はしませんでしたが)になってしまいました...。2000年くらいまで、日々、死にたい(消えたい)気持ちと共にありました。
ただ、この経験は研究者としても、心理療法家としても非常に役立っています。たとえば、カウンセリングにおいでになったうつ病に苦しむ方に、「お辛いですよね...。実は私も経験したことがあって...。」とお伝えすることがあります。そうすると、苦しさを分かち合えると思っていただけるのでしょうか、「ほっ」とした表情になられる方もいます。このように、うつ病で苦しんだ経験が仕事に役立つキャリアになっているのです。
苦しんだ経験が役立つキャリアになる仕事は心理療法の仕事だけではありません。病歴情報管理士や医療事務などでも病気で苦しんだ経験が活きることがあります。
「苦しんだ経験も立派なキャリアになる...」、キャリアコンサルタントはそういう気持ちであなたと向き合う専門職です。昭和のキャリアのイメージでキャリアの相談をしないのはもったいないです。どうぞ、キャリアについて「風邪を引いたら医師に相談する」というレベルで気軽に専門家にしてみてください。
杉山 崇 さあ、あなたの物語を整えよう mi-mollet(ミモレ)
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