キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2024年3月号

【ゆるキャリ】第2回 日本人のほとんどが知らない!?苦しんだ過去も立派なキャリアです。「仕事・職歴=キャリア」という誤解

■「キャリア」は「華々しい経歴」ではありません!!

突然ですが、あなたは「キャリア」とはどういう意味だと思っていますか?どうやら日本人の3割以上がキャリアとは「華々しい職務経歴」と誤解しているようです。

もちろん、キャリアの本当の意味は違います。キャリアすなわち「Career」の語源は、「通ってきた道」。ここから「その人の足跡」となり、やがて「その人の生き様」、言い換えれば人生そのものを表す言葉となりました。

ですが、残念なことに日本では本当の意味が伝わっていないようです。
特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会は「相談するということ実態調査(2023年)」を行っています。それによると「キャリアと聞いてイメージするもの」の問いに何と35%の人が「仕事上での役割やポジション、肩書」と答えています。

■ なぜ、日本人は「キャリア」という言葉を誤解しているのか?

さて、この調査の結果、あなたはどう思いますか?「だよね~」という印象や「自分も華々しい経歴のことと思っていた」という方も多いことでしょう。
実際のところ、たとえば昭和の日本では「キャリア組」という言葉がよく使われていました。この言葉、国家公務員などを中心に将来的に組織内の要職につくことを期待されている人々、または実際に要職に就いた人々のことを指していました。

少々、私の少年時代の話をさせてください。私の両親は地方公務員でしたが、1970年代から1980年代の記憶を辿ると「キャリア」という言葉への周囲の大人たちの複雑な表情を思い出します。
その表情を思い返すと、「キャリア組」という言葉には尊敬の眼差しもありました。ただ、同時に羨望や時には「現場を知らない人々」という揶揄も含めて使われていたようでした。

■「キャリア」は気障(キザ)な横モジ

なぜ、「キャリア」という言葉がこんな使われ方をしたのでしょう?「キャリア」という「横モジ」がかっこよく、颯爽としたイメージに見えたのかもしれません。もしかしたら、ちょっと気障(キザ)なイメージもあったかもしれません。

ここから、現場や組織の末端で汗水垂らし続ける下々とは違う人生...、そんなイメージがついてしまったのでしょうね。いずれにしても、「庶民とは違う」、「その他大勢とは違う」というイメージが「キャリア組」にはありました。

こんなイメージを引きずっているせいでしょうか、「あなたのキャリアを相談してください」と持ちかけても良いリアクションをいただけないことも少なくありません。ありがちなパターンとしては「キャリア」を「上昇を目指すこと」と捉えてしまって、「自分には関係のないこと」とシャットアウトされてしまうようです。

■「キャリア」は格差の象徴?

また、格差の象徴のようなイメージもあるようです。「キャリア」という言葉から「格差」を連想してしまって複雑な思いになる方もいるようです。複雑な思いがあると、そのことについて考えようという気持ちにはなりにくいものです。

ちょっと話が変わりますが、私がよく寄稿させていただいている情報サイト「Mi-Mollet」様でもこんな話を聞いたことがあります。「"キャリア"という言葉が付くだけで読んでもらえない」と。残念ですが、これが現状のようです。
このような状況の中でキャリアの相談ってなかなか使いにくいものになってしまっているのかもしれません。

ただ、これは「キャリア」という言葉の使い方としては大きな間違いです。この間違いを引きずって、日本人が正しいキャリア支援を受けにくくなっているとしたら本当に残念なことです。「気障(キザ)な横モジ」ではなく、「その人の生き様」という本来の意味で「キャリア」を捉えていただけたらと思います。

■ キャリアとは愛と尊敬が溢れる言葉です

キャリアとは本来はその人の「足跡」すなわち「歩んできた道」を讃えるための言葉です。決して「華々しい職務経歴」ではなくても、その人なりにがんばって生きてきた証がキャリアです。そこには、本来は一人ひとりの人生へのリスペクトが溢れる響きが伴うものなのです。言い換えれば「愛と尊敬があふれる言葉」、それがキャリアなのです。

キャリアとはこのような意味なので、たとえば病歴も立派なキャリアです。私の例で恐縮ですが、私の心理学者としてのテーマは「うつ病(≒気分が滅入り続け自分の存在を呪う状態)」です。1995年頃、日々うつ病患者の苦悩を理解しようと全身全霊で考え続けたところ、なんと私自身がうつ病(受診はしませんでしたが)になってしまいました...。2000年くらいまで、日々、死にたい(消えたい)気持ちと共にありました。
ただ、この経験は研究者としても、心理療法家としても非常に役立っています。たとえば、カウンセリングにおいでになったうつ病に苦しむ方に、「お辛いですよね...。実は私も経験したことがあって...。」とお伝えすることがあります。そうすると、苦しさを分かち合えると思っていただけるのでしょうか、「ほっ」とした表情になられる方もいます。このように、うつ病で苦しんだ経験が仕事に役立つキャリアになっているのです。
苦しんだ経験が役立つキャリアになる仕事は心理療法の仕事だけではありません。病歴情報管理士や医療事務などでも病気で苦しんだ経験が活きることがあります。

「苦しんだ経験も立派なキャリアになる...」、キャリアコンサルタントはそういう気持ちであなたと向き合う専門職です。昭和のキャリアのイメージでキャリアの相談をしないのはもったいないです。どうぞ、キャリアについて「風邪を引いたら医師に相談する」というレベルで気軽に専門家にしてみてください。

杉山 崇 アゴラAGORA 言論プラットフォーム

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杉山 崇(すぎやま たかし)

杉山 崇(すぎやま たかし)

神奈川大学 人間科学部 人間科学科 教授
神奈川大学大学院 人間科学研究科人間科学専攻(臨床心理学分野演習担当教員)
専門分野:臨床心理学(心理療法・異常心理学・うつ病学), 産業社会心理学・キャリアコンサルティング, 感情・認知パーソナリティ心理学
学習院大学大学院人文科学研究科にて心理学を専攻。在学中から、障害児教育や犯罪者矯正、職場のメンタルヘルス、子育て支援など、さまざまな心理系の職域を経験した。
幼稚園児から高齢者まであらゆる年代のあらゆる心の問題に立ち会ってきた雑草系臨床心理士。並行して人づきあいと心の健康の研究を行い日本学術振興会特別研究員として国費の助成を受ける。
長野大学専任講師、山梨英和大学准教授などを経て、2013年から現職。
現在は、脳科学と心理学を融合させた次世代型の心理療法の開発・研究を行っている。

【杉山崇の目指すもの】
心理学でみなさんがハッピーになるお手伝いをしたくて,心理学研究者/心理療法家を目指しました。
人生は,みんな一人分いただいています。
必然的に,生きていける人生と,生きていけない人生が発生します。
現代社会では,何を生きて,何を生きないか,決めるのは私たち自身です。

自分で決められる現代社会(基本的人権とかいうもの)に感謝するとともに,
自分で決めなければいけない負担も私たちは背負っています。
ここから現代的な格差が生まれてきます。

こんなことを考えていたら,いつの間にか心理療法の仕事にたどり着いて,心理学の研究者をやっていました。
人生を楽しみたおすコツ,世の中をより生きやすくするコツご一緒に探しましょう。

コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)

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