キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2024年4月号

【ゆるキャリ】第3回「キャリアを相談したい人」は「マツコ・デラックス」!? その① 相談したら、的確な意見や答えが欲しいもの

■ 相談したい有名人とは?

あなたが自分の在り方や生き方、すなわちキャリアを相談したいとき、どなたに相談したいと思いますか?キャリアコンサルティング協議会は「キャリアを相談してみたい有名人」について調査を行いました(「相談するということ実態調査2023年)」。

対象者は1000人以上という調査でした。ただ、自由回答なので有効回答は112人とやや少なかったです。
したがって、この回答は日本人の特徴を反映しているものではありません。あくまでも今回の調査に協力する機会があった1000人以上の中の「有名人に相談する意志を示した112名」の回答から読み取れることということになります。

それでも国民のみなさんがどのような人に相談に乗ってほしいと思っているのか、その傾向を考える手がかりになります。
また、自由記述でその理由も尋ねていますので、現代社会を鑑みる資料としても興味深いです。ここでは心理学的な解説とともにご紹介していきたいと思います。

■ なんと1位はマツコ・デラックス!?

さてさて、誰があがったか気になりますよね!!結果は次のようになっていました。

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全般の傾向としては知識人と見られている方が少ないのが特徴です。その一方で、各種バラエティ番組で活躍する芸人さんが多い印象です。
中にはカズレーザーさんのように教養を特徴にしている方もいますが、いわゆる芸人さんの親しみやすさが好まれたのかもしれません。
そして、第1位はマツコ・デラックスさんでした。112票の中の8票ですから「圧倒的支持」というわけではないのですが、広くバラけている中での8票はやはり目を見張るものがあります。

■ 相談したら、冷たくあしらわれたくはありませんよね。

では、なぜマツコ・デラックスさんが支持されているのか、ここから現代の日本人が何を求めているのか考えてみましょう。その手かがりとして各有名人を選んだ理由の自由記述を参考にしたいと思います。

実態調査ではテキストマイニング(自由記述の中から法則性を見つけ出す手法)した結果が公表されています(相談するということ実態調査結果)。ただ、この結果だけではわかりにくいので、研究者としての私がさらに「内容分析」という方法で要約したものから考えてみたいと思います。

さて、私が内容分析をしたところ、その人物が「自分にどう対応してくれそうか」というベクトルと、「その人物がどのような特徴を持った人なのか」というベクトルに分かれることがわかりました。

では、まずは「自分にどう対応してくれそうか」のベクトルからみてみましょう。もう一つのベクトルは次回のお楽しみにさせてください。

結果としては

「(私を)尊敬し、親身に相談に乗ってくれて、真剣に悩みに応えて的確な意見や答えをくれる人」

となりました。ここにも、実はさらに2つの要素が隠れています。
1つ目は、やっぱり相談する方は自分に対して真剣で自分への尊敬や親身さが感じられることを求めているようです。相談して冷たくあしらわれたら嫌ですよね。ある意味で、当然のことかもしれません。
確かに、名前が挙がっている有名人はマツコ・デラックスさんをはじめ、冷たくあしらうことはしなそうな方々です。ここは、大事なところですよね。

■「的確な意見や答え」とは「困惑の回収」

そして2つ目は的確な意見や答えをくれること、という要素が見いだせます。これもある意味で当然のことでしょう。相談する方の多くは悩んで迷って苦しんでいるので、その苦悩を軽くしてほしいと願っているからです。相談したのに、何も楽にならないと嫌なものですよね。

実際、私もフジテレビ系列の「ホンマでっかTV」などでご一緒したことがありますが、バラエティのマツコ・デラックスさんは、みなさんが「えー、なんで!?」とか、「どういうこと?」と困惑しているときに話を振られやすいように思えます。
バラエティは基本的に人をびっくりさせることで楽しませようというものです。中にはひな壇の登壇者も視聴者も困惑するような「びっくり」が「ぶっこまれる」ことも多いのです。

■ バラエティとはびっくり山盛りビジネスです。

そういう「番組として成立させられるかどうか」というギリギリの線の「びっくり」を山盛りにして視聴者を惹きつけなければならないのがテレビのバラエティ番組です。バラエティ番組とは実はそういうビジネスモデルなんですよね。
視聴者もスポンサーも本当にご意見豊富なので、現場の皆さんは大変です。その中でマツコ・デラックスさんは、「ギリギリの線の困惑」の「回収要員」として見事に機能しているように思えます。

ただ、当のマツコ・デラックスさんはかなり神経を使っているように思います。ご一緒した番組ではありませんが、みなさんの困惑が大きい時などは「どう回収したら納得されるか...」と考えている様子が見えるからです。いやあ、役割を果たすのって、私たちも日々頭を悩ませていますが、ここはマツコ・デラックスさんも同じなのですね。

■ マツコ・デラックス、支持の理由は「困惑回収力」 

ということで、今回のアンケートの結果、マツコ・デラックスさんの「困惑回収力」が多くの人に「相談したい」という印象を与えているものだと思われます。多くの方が困惑を回収してもらい「ほっとさせて欲しい」と願っているので、「ほっとさせてもらえる体験」が「意見や答えをくれる」という印象になるのでしょうね。

■ マツコ・デラックスさんへの支持から見えてくる、よい相談とは?

さて、ここからは相談の実務者としての私の感想です。
実は「意見や答え」というものは私たちキャリアコンサルタントが差し上げるという感覚ではないことが多いものです。往々にして本人の感性や環境の変化など人生のダイナミズムから外れてしまうと、納得されないからです。

ですので「意見や答えをあげる」というよりは、「探す、見つける」という感覚が近いかもしれません。しかし、「答えをもらえる」という安心感が生まれるレベルで良い答えを見つけて差し上げることが相談の中で求められているということかと思いました。

おそらく、マツコ・デラックスさんも神経を使いながら、「納得される困惑の回収」を探していらっしゃいます。私たちもその姿勢を見習って「よい相談」を続けなければ...と感じてます。

次回は私の内容分析から見えきたもう一つのベクトルについて、今一度、マツコ・デラックスさんを中心に「キャリア」を考えてみたいと思います。お楽しみに!!

杉山 崇 アゴラAGORA 言論プラットフォーム

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杉山 崇(すぎやま たかし)

杉山 崇(すぎやま たかし)

神奈川大学 人間科学部 人間科学科 教授
神奈川大学大学院 人間科学研究科人間科学専攻(臨床心理学分野演習担当教員)
専門分野:臨床心理学(心理療法・異常心理学・うつ病学), 産業社会心理学・キャリアコンサルティング, 感情・認知パーソナリティ心理学
学習院大学大学院人文科学研究科にて心理学を専攻。在学中から、障害児教育や犯罪者矯正、職場のメンタルヘルス、子育て支援など、さまざまな心理系の職域を経験した。
幼稚園児から高齢者まであらゆる年代のあらゆる心の問題に立ち会ってきた雑草系臨床心理士。並行して人づきあいと心の健康の研究を行い日本学術振興会特別研究員として国費の助成を受ける。
長野大学専任講師、山梨英和大学准教授などを経て、2013年から現職。
現在は、脳科学と心理学を融合させた次世代型の心理療法の開発・研究を行っている。

【杉山崇の目指すもの】
心理学でみなさんがハッピーになるお手伝いをしたくて,心理学研究者/心理療法家を目指しました。
人生は,みんな一人分いただいています。
必然的に,生きていける人生と,生きていけない人生が発生します。
現代社会では,何を生きて,何を生きないか,決めるのは私たち自身です。

自分で決められる現代社会(基本的人権とかいうもの)に感謝するとともに,
自分で決めなければいけない負担も私たちは背負っています。
ここから現代的な格差が生まれてきます。

こんなことを考えていたら,いつの間にか心理療法の仕事にたどり着いて,心理学の研究者をやっていました。
人生を楽しみたおすコツ,世の中をより生きやすくするコツご一緒に探しましょう。

コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)

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