キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2024年2月号

【ゆるキャリ】第1回 そして、ブータンは幸せの国ではなくなった:相談のプロが提案する意外な幸せを守る方法とは?

■「幸せ」は一人ひとりの生き方と心のなかに

突然ですが、あなたは「幸せ」って何だと思いますか?

私の本職は心理学者です。幸せは心のなかにあるものです。私はみなさんに幸せになってほしくて心理学者になりました。

そんな私ですが、幸せの科学的定義は未だによくわかりません。これは研究や努力が足りないからではありません。
研究を重ねれば重ねるほど幸せは一人ひとりの価値観や感性が関わることがよく分かってきたのです。つまり、幸せは科学者が定義するものではなく、一人ひとりその生き方の中で見つけるものなのです。

そこで、私は一人ひとりの幸せな生き方をご一緒に見つけるために、心の科学だけでなく、生き方(キャリア)の科学も研究するようになりました。そして、生き方の科学はキャリアコンサルティングという形で、国家資格キャリアコンサルタントが相談活動を通してみなさまに提供しています。

■豊かな社会では幸せの阻害要因も豊かなもの

さて、現代社会は豊かな社会です。現代社会で豊かになったものと言えば、情報、エンタメ、食べ物、学びの場、そして人生の選択肢...などなど、本当に多くのものが豊かになっています。
ですが、実はこの豊かさが危険なのです。豊かな社会は幸せの促進要因も阻害要因も豊かなものです。その選び方や付き合い方を間違えると、幸せの阻害要因を選んでしまうかもしれません。

たとえば、甘くて美味しいスイーツ、一口食べると夢心地となる方も多いのではないでしょうか。いくらでも食べられそう、とついついおかわりも...などとなりがちな方も多いことでしょう。私もついつい、そうなってしまいます。
しかし、現代社会は糖質過多になりがちな一方で、私たちの身体は糖質が貴重だった時代に最適化されています。夢心地のままスイーツを食べ続けると、肥満になってしまうだけでなく様々な病気にもなってしまいます。

■幸せをご一緒に考えるプロフェッショナル、国家資格キャリアコンサルタント

このように、豊かな時代は、幸せの阻害要因も豊かなものです。そして、幸せの阻害要因は、時に甘い顔をして私たちに近づいてきます。そう、私たちは幸せを見つけるために、まずは阻害要因を避ける必要があるのです。
そして、幸せの阻害要因の避け方は、幸せな生き方と働き方をご一緒に考えるプロフェッショナルである国家資格キャリアコンサルタントに相談できます。幸せの阻害要因の上手な避け方をご一緒に見つけてくれることでしょう。

しかし、残念なことに相談するということ実態調査(キャリアコンサルティング協議会,2023)によると、仕事内容も含めてキャリアコンサルタントをご存じの方は調査に参加した1120人中、7.2%に過ぎない81人でした。65.4%にのぼる732人がキャリアコンサルタントという存在すら知らないという状況です。せっかく、国民のみなさまを幸せに導ける専門職があるのに、なんとももったいないことです。
そこで、キャリアコンサルタントはどのようにみなさまのお役に立つかをご紹介したいと思います。ここでは、かつて「幸せの国」と呼ばれていたブータンのその後を通して、キャリアコンサルタントなら幸せな生き方に向けてどのような提案をしてくれるのか考えてみましょう。

■幸せの国と呼ばれたブータン

ブータンとは南アジアにある小さな国です。いわゆる発展途上国と言われる国の一つです。経済規模も小さく、GDPなどの経済指標が世界にインパクトを与えることはあまりありませんでした。
だた、2010年代にブータンが世界にインパクトを与えるデータが紹介されました。国連が2013年に公表した世界幸福度ランキングで、ブータンが何と北欧諸国に続いて世界8位となったのです。これはブータンの近代化やインフラの整備など発展の各種指標から考えると驚くべきことです。本当に大きなインパクトを与えました。
このことをきっかけに、ブータンは"世界一幸せな国"として広く知られるようになりました。彼らの幸せの中身としては、「雨風をしのげる家があり、食べるものがあり、家族がいるから幸せだ」というもののようです。不快な思いもしないし、ひもじい思いもしないし、寂しくもない...だから幸せだ、ということのようです。

■幸せの国のその後

ただ、ブータンは2019年度版のランキングでは156か国中95位に急転落してしまいます。それ以降、このランキングに登場することすらなくなりました。
その理由については、幸福度が高かった当時は「情報鎖国」で他国の情報が入ってこなかったが、情報が流入し、他国と比較できるようになったことが原因として挙げられています。極端な表現をすれば、「井の中の蛙」で幸福だったのに相対的に自分たちが貧しい暮らしをしていることがわかってしまって不幸になった...ということです。

人は他人と自分を比べてしまう生き物です。そして、ついつい優劣を作り出してしまう生き物です。比較できる情報がなくて幸福だったブータンの人々も比較対象ができてしまったことで、幸せを感じにくくなってしまったのでしょうね。
ブータンの人々の暮らしは決して悪くはなっていません。そして、比較対象である他国の人々がブータンの人々を脅かすわけでもありません。なのに、優劣を感じてしまうだけで、幸福度は極端に下がってしまうのです。人の心というものはこのように幸福を阻害する仕組みを持っているのです。

■情報が悪いのか?

さて、ブータンの幸福度の大暴落について、あなたは何を思うでしょうか?ブータンの人々は情報鎖国が続いていたほうが幸せだった...、情報がブータンの人々から幸福を奪ったのだから、ブータン政府は情報規制をかけて国民の幸せを守るべきだった...、などと思うでしょうか?
このような考え方も一理あるとは言えますが、現代の価値観では情報は価値あるもの。情報がない方が良い...という考え方はあまり好まれないようです。特に国家レベルで行うとなると人権の侵害かもしれないという考え方も生まれてきます。大量の情報が行き交う時代なのですから、幸福感を守るために情報をなくせば良い...というのはあまり現代的ではないでしょう。

■核となる自己理解を支えるキャリアコンサルタント

では、どうすればよいのでしょうか?ヒントを得るために、ある女性ボーカリストを紹介しましょう。
1980年代に「Return to Myself」という曲が大ヒットした歌手の浜田麻里さん、ご記憶にあるでしょうか?圧倒的な歌唱力が魅力で今でも中高年から若者まで広く支持されている素敵な方です。ただ、紹介したいのは浜田麻里さんではなく、その双子の妹さんです。この妹さんも浜田麻里さんクラスの圧倒的な歌唱力をお持ちです。ですが、彼女はお姉さんのステージではバックコーラスを務めています。これ以外の音楽活動はほとんど行っていません。そして、彼女はこの状況に満足しているようです。

どうやら「姉のようにはできない、しない。そして自分は姉のコーラスで良い」と考えて、華々しく表舞台で活躍するお姉さんという「情報」と上手に付き合っているようです。言い換えれば、情報はあっても比較する、優劣をつける、などの余計な情報処理をしない...という自分らしい生き方をよくご存知だということです。

■「井の中の蛙」もいいかもしれない

大事なことは情報をなくすことではなく、情報との上手な付き合い方をすることです。そして、上手な付き合い方をするには「自分はこれで良い」という納得、すなわち「自己理解」が必要です。
確かな自己理解があれば、「この情報は自分との比較のために使う必要はない」と幸せの阻害要因になる情報との付き合うことを避けることができます。言い換えれば、「井の中の蛙」のフリをしてみる...という選択肢を積極的に、そして自信を持って選ぶことができるというわけです。

ブータンのみなさんは多くの情報に触れたことがなかったので、豊かな他国の情報に対して「自己」を守りきれなかったのでしょうね。これはこれで、心理学者としてはブータンのみなさまに何らかの支援をしたくなるところです。ですが、まずは私たちがブータンのみなさんの幸福度の大暴落を参考に確かな自己理解の意義を確認しましょう。

■専門家と一緒に考えましょう

とは言え、簡単なようで難しいものが自己理解です。私は心理学者としては主にうつ病を研究してきたのですが、現実的で確かな自己理解を身につけるまでのプロセスでうつ病に陥る方が本当に多いのです。
そこで、私は一人で苦しんで自己理解をなさることはあまりオススメしません。腕のいいキャリアコンサルタントやカウンセラーなど自己理解を支えるプロに協力してもらうことをオススメしています。特に国家資格キャリアコンサルタントのホルダーは法律で腕を磨くことを義務付けられ、自分の生き方を探して悩んでいる方の力になれる準備を積み重ねています。
私は心理学者ですが、やはり一人の人間で自分のあり方に悩むこともあります。そんなときは、プロの力を借りてご一緒に考えていただいています。さあ、あなたも専門家と一緒にあなた自身を見つけてみませんか?そうすれば、あなたの幸福度は飛躍的に大きく育つことでしょう。

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杉山 崇(すぎやま たかし)

杉山 崇(すぎやま たかし)

神奈川大学 人間科学部 人間科学科 教授
神奈川大学大学院 人間科学研究科人間科学専攻(臨床心理学分野演習担当教員)
専門分野:臨床心理学(心理療法・異常心理学・うつ病学), 産業社会心理学・キャリアコンサルティング, 感情・認知パーソナリティ心理学
学習院大学大学院人文科学研究科にて心理学を専攻。在学中から、障害児教育や犯罪者矯正、職場のメンタルヘルス、子育て支援など、さまざまな心理系の職域を経験した。
幼稚園児から高齢者まであらゆる年代のあらゆる心の問題に立ち会ってきた雑草系臨床心理士。並行して人づきあいと心の健康の研究を行い日本学術振興会特別研究員として国費の助成を受ける。
長野大学専任講師、山梨英和大学准教授などを経て、2013年から現職。
現在は、脳科学と心理学を融合させた次世代型の心理療法の開発・研究を行っている。

【杉山崇の目指すもの】
心理学でみなさんがハッピーになるお手伝いをしたくて,心理学研究者/心理療法家を目指しました。
人生は,みんな一人分いただいています。
必然的に,生きていける人生と,生きていけない人生が発生します。
現代社会では,何を生きて,何を生きないか,決めるのは私たち自身です。

自分で決められる現代社会(基本的人権とかいうもの)に感謝するとともに,
自分で決めなければいけない負担も私たちは背負っています。
ここから現代的な格差が生まれてきます。

こんなことを考えていたら,いつの間にか心理療法の仕事にたどり着いて,心理学の研究者をやっていました。
人生を楽しみたおすコツ,世の中をより生きやすくするコツご一緒に探しましょう。

コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)

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