マンスリーコラム
職業リハビリテーションとキャリア・コンサルティング
私は、この4月から埼玉労働局からの出向で、国立職業リハビリテーションセンターに勤務しております。これまで主に障害のある方の就職支援を10年ほど経験し、そのうち障害者の雇用促進のために特別な配慮をした特例子会社等の設立支援にも7社携わる機会がありました。
特例子会社設立支援のなかでは、会社の課題についてキャリア・コンサルティングの問題解決の方策を活用しながら、職場実習やトライアル雇用、ジョブコーチによる適切なサポートを行うことにより、障害のある方の働く可能性の芽が育まれるのを見てきました。
一般的に「リハビリテーション」というと治療などにより良好な状態に回復することをイメージされる方も多いと思いますが、ILOの職業リハビリテーションの基本原則(1985年)では、以下のような定義がなされております。
1:障害者の身体的・精神的・職業的な能力と可能性について、明確な実態を把握すること(職業評価)。
2:職業訓練や就職の可能性に関して障害者に助言すること(職業指導)。
3:必要な適応訓練、心身機能の調整、または正規の職業訓練あるいは再訓練を提供すること(職業準備訓練と職業訓練)。
4:適職をみつけるための援助をすること(職業紹介)。
5:特別な配慮のもとで仕事を提供すること(保護雇用)。
6:職場復帰が達成されるまでの追指導をすること(フォローアップ)。1)
また、我が国の「障害者の雇用の促進等に関する法律」第2条第7号には、職業リハビリテーションとは、「障害者に対して職業指導、職業訓練、職業紹介その他この法律に定める措置を講じ、その職業生活における自立を図ることをいう。」という規定があります。
国立職業リハビリテーションセンターとは
国立職業リハビリテーションセンターは昭和54年に設置され、隣接する国立障害者リハビリテーションセンターと密接な連携を図りながら職業リハビリテーションサービスの先駆的実施機関として、①障害のある方への職業適性等を理解・把握するための職業評価、②就職に必要な技能・知識等を習得していただくための職業訓練、③就職活動に必要な情報提供や指導を行う職業指導(キャリア・ガイダンス)等、個々の特性・能力に応じたきめ細やかな総合的な職業リハビリテーションサービスを提供しています。厚生労働省が設置し、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営している機関です。
全国から200名ほどの障害のある方が建築系、メカトロ系、ビジネス情報系、職域開発系の20の訓練コースで熱心に受講しております。
また同じような総合的な職業リハビリテーションサービス機関としては、岡山県に国立吉備高原職業リハビリテーションセンターがあります。
個別の職業訓練カリキュラムに基づいて、自学自習で自分のペースで進められる訓練
センターでの職業訓練のイメージは、就職に必要な能力と現状の職業能力、職業生活能力、就職活動能力のすきまを効率的・効果的に埋めていくというものです。
このすきまを効率的・効果的に埋めるための職業訓練の特長としては、入所時期が年間12回ありスタートが異なりますので、個別の職業訓練カリキュラムに基づいて、自学自習で自分のペースで進められる訓練(集合訓練で実施する訓練科目も一部ありますが)を取り入れています。
また、次のような訓練も実施しております。
①企業連携職業訓練
精神・発達・高次脳機能障害・重度の身体障害のある方に対して企業ニーズに合わせて、企業内での訓練と施設内での訓練を組み合わせて実施します。
②復職者のための訓練
受障により休職中の方が復職にあたり、新たな技能を身に付ける必要となった場合、職場復帰に向けての職業訓練を実施します。
③在職中の障害のある方が、職務技能のレベルアップを図るための短期間(12時間~6ケ月)の訓練(能力開発セミナー)を実施しています。
障害のある方の就活をチームでサポートします
職業指導課では、就職支援を担当する障害者職業カウンセラー(職業リハビリテーション専門職)と社会生活支援等を担当する職業指導課ワーカーがペアで訓練生の職業指導(キャリア・ガイダンス)を入所から採用・職場定着まで個別担当制で就活をサポートしています。ビデオを使った模擬面接、グループガイダンス、就活セミナーの実施などを行い、26年度は就職率も90%を超える実績が出ているところです。
1対1のカウンセリングが中心の従来のキャリア・ガイダンスに比べて専門職など複数の支援スタッフがチームで支援するキャリア・ガイダンスはヨーロッパなどでは最近の潮流でもあります。
また、企業に対する雇用・定着支援にも力を入れて職業リハビリテーションセンター内での会社説明会の実施や個々の企業に障害者雇用のアドバイスをしながら訓練生の強みを発揮できる職場の開発に努力しているところです。
職業リハビリテーションとキャリア・コンサルティングとの協働について
これまで説明したとおり職業リハビリテーションとキャリア・コンサルティングの手法については類似しているところもあります。トライアル雇用などは元は障害者雇用施策で発展したものです。
また、障害のある方へのキャリア支援でもキャリア理論による問題解決アプローチは支援者にも有益と感じられると思われ、同じキャリアを支援する関係者の研究や実践の交流があればよいと思います。ちょうど陸上の400メートルリレーのように教育から就職支援、企業内と職業リハビリテーション関係者を含めてキャリアの専門支援スタッフ同士でバトンリレーが出来れば、日本独自のキャリア・コンサルティングが発展するのではと思っております。
引用・参考文献
1)朝日 雅也(2012)職業リハビリテーションの基礎と実践 P8中央法規出版・下村英雄(2013)「成人キャリア発達とキャリアガイダンスー理論的・実践的・政策的基盤」労働政策研究・研修機構
コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)
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