キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2016年5月号

障がい者のキャリアを考える ~自立支援の観点から~

私は、昨年5月から特例子会社にて、主に知的に困難を持つ方々と一緒に仕事をしております。当社には特別支援(養護)学校や、職業訓練校などを卒業した20歳前後の方達、50名近くの知的障がい者の方がおります。これから彼(彼女)らが40年以上のキャリアを積んでいかなければならないと考えると、キャリアコンサルタントとして大きな役割を担っていると感じています。

知的障がいとは、おおむねIQが70以下であり、知的機能に制約があること、適応行動に制約を伴う状態であること、発達期に生じる障がいであることなどで、定義されていますが、一般的には、読み書き発話・計算・金銭管理・運動能力など日常生活の知的行動に支障を来すような障がいです。20歳前後とはいえ、精神的には幼い方が多く、単に職業的・経済的な自立だけではなく、精神的、社会的な自立というところも同時に考えていく必要があり、自立支援とは何なのかを少し考えてみたいと思います。

発達課題と自立

人間の"発達"とは、体が大きくなったといった量的な変化だけではなく、感性や知的構造などの質的な変化も重要な視点となります。また発達の速度も個人により大きく異なり、環境要因や個人の要因であるレディネス(準備性)の総合的要因で発達に変化が出てきます。E.エリクソンは、青年期(20歳前後)の心理社会的発達課題として、自我同一性の確立、つまり自分がどんな人間かということを確立することが課題となり、これに失敗すると役割混乱が起こり、人格が統一されず、社会へのコミットメントができない状態に陥ってしまう(同一性拡散)としています。自分は何者なのかというアイデンティティの確立を目指して試行錯誤しながら、やがて自分の生き方、価値観、人生観、職業を決定し、自分自身を社会の中に位置づけていくことがとても重要だと考えます。

知的に困難がある方達はとても素直な方が多く、これまで学校の先生やご両親の言うことをしっかり聞いて成長してきたのだなとすごく実感しております。仕事においても、指導員の言うことをしっかり聞いて業務に遂行できるのですが、ただ一方で、自分はこうしたい、これをやりたい、といった自分を持っていない方(まだ持てないのかもしれませんが)が多いのも事実だと思います。今すぐには、自我を確立していくのは難しいですが、これから仕事を通じながら色々なキャリアを積み、特にソーシャル面での成長を考えることが、自我を形成していく、言い変えれば自立していくこと繋がるのではないかと考えております。

社会的自立支援とは

"自立"といってもその言葉は曖昧であり、働いているから自立している、一人暮らしをしているから自立しているというものではありません。自立という言葉を調べてみると、身辺自立、経済的自立、職業的自立、精神的自立...と色々な言葉が出てきますが、社会的自立というのは、「社会の一員としての意識を持つこと」であり、これらの複数を包含しているように私は感じます。つまり、職業的自立も達成しながら、社会的規範や倫理観も持ち合わせる必要があり、さらには、上記した通り、自我が確立されその個人が一人の個として認められている状態になっていることだと考えます。会社としても、色々な研修(SNS、金銭管理、性教育、マナー教育...)を取り入れ支援をしておりますが、すべてを補えているわけではありません。地域の支援(援助)センター、学校、ご家族、他社とも協力しながら、一人ひとりの社会的な自立を目指していきたいと思っております。今年の4月より新しく「障害者差別解消法」も施行されました。合理的配慮を意識するのは当然ですが、しかし、彼(彼女)らの力を奪うのではなく、一緒になってキャリアを積んでいけるような支援をしていきたいと考えます。

障がい者の雇用状況

最後にご存知の方も多いと思いますが、現在民間企業においては、障がい者(身体障がい、知的障がい、精神障害)の法定雇用率は2.0%とされていて(達成企業の割合は47.2%)、実際に雇用されている数は、約45万人。内訳としては、おおよそ身体32万、知的9.5万、精神3.5万といった状況です。障がい者雇用という点では、毎年増加しており、特に精神の方の伸び率は大きいようです。とはいえ、母数から考えるとまだまだ少なく、2018年の改訂では、精神の雇用が義務付けられ、法定雇用率も2.4%(NPO法人JC-Net)まで、上がる可能性が示唆されているようです。0.4%も上がると、企業にとってはとても厳しいことだと思いますが、欧米では6%、7%の雇用がなされている現状を考えると障がい者雇用を根本から考えていく必要があるように感じます。

参考文献

愼英弘(2008);自立の概念と構造 四天王寺大学紀要

宮崎冴子(2004);個人主導のキャリア形成 職業研究

JC-Net HP

嶋田 陽介(しまだ ようすけ)

嶋田 陽介(しまだ ようすけ)

コニカミノルタウイズユー株式会社 総務部自立支援グループリーダ

外資系製薬企業を勤務後、神奈川大学大学院臨床心理学領域に入学し前期課程修了。その後、人事コンサルのベンチャーでキャリアカウンセリングを行い、さらに精神科クリニックにて臨床心理士としてカウンセリング、リワークなどを経験後、現在の会社へ入社。

資格:キャリアコンサルタント、臨床心理士

所属学会:日本心理臨床学会、日本LD学会、日本発達心理学会など

コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)

キャリアコンサルタントのさまざまな活動を応援します!「ACCN」のご案内はこちら


マンスリーコラム一覧へ戻る