キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2016年6月号

キャリアコンサルタントが活躍する「大学」という舞台

大学を卒業後28年間、企業のサラリーマンとして勤めた後、人事組織コンサルタントとして企業の採用や組織風土改革に携わってきましたが、その時に早くからキャリア形成を行なう必要性を痛感しました。平成27年4月より大阪府立大学のキャリアサポート室を拝命し、大学生のキャリア形成支援に取り組んでおります。

この大学という舞台におけるキャリアコンサルタントの役割について、主観的な考えを交えて感じていることを書かせていただきました。

キャリアコンサルタントが活きるキャリアサポート室を目指す

キャリアコンサルティングが、キャリア形成にかかわる広い範囲での支援であることはキャリアカウンセリングを学ぶ皆さんには自明のところですが、大学のキャリアサポート室やキャリアセンターは就職支援を行なうところだと言う認識がまだまだ一般的ではないでしょうか。

大阪府立大学のキャリアサポート室は、一人ひとりの個別の生き方を大切にし、周囲の人や社会とのつながり(エンゲージメントと呼ばれます)を上手にもてる社会人として成長して欲しいという想いから、大学時代のキャリア(=生き様)形成を充実できるよう、さまざまな施策に積極的に取り組んでいます。

キャリアサポート室のスタッフは、5名全員が民間企業で十分な職業経験を積んでいる上、4名はキャリアコンサルタントの有資格者です。メンバーは豊かな経験と高い技能を活かし、ハイ・エンゲージメントなプロフェッショナル人材を「府大人」として社会に輩出することで、「高度研究型大学〜世界に翔く地域の信頼拠点〜」という大学の理念実現に貢献しています。

キャリア教育とキャリア形成支援の統合を実現する

近年、私立大学を中心にキャリア教育に熱心に取り組む大学が増えていますが「キャリア教育が目指しているものは何か?」、時に疑問と違和感を覚えることがあります。大学はあくまでも「学びの府=修学の場」、大学生の本業は学業であり、高等教育の専門性を修めることがキャリア(生き様)そのものといえます。

30年以上昔のことですが、(財)日本カウンセリングセンターでカウンセリングを学んでいた頃、恩師である友田不二男氏は、「人間が人間となるための基本中の基本とも言うべき体験は"学習する悦びである"」、「"人間は本来的・本質的に学習者であり"、人の人になる基本的体験は"学習する悦び"である事を孔子が述べています。"意識をタイミングよく行動化すること"こそ、まさに今日、"学習"という言葉で呼ばれている現象なのでありましょう。」とおっしゃって、「教えない教育」を実践しておりました。「人はすべて生涯学習者であり、被教育者はいない」と「生涯教育〜」という表現に激怒していたのが印象に残っています。

ロジャーズよりも早い時期に日本においてエンカウンターグループを実施し、今日、アクティブ・ラーニングや反転授業を呼ばれている実践に50年以上前から取り組み、ナラティブ・アプローチやFD(ファカリティ・デベロップメント)、SD(スタッフ・デベロップメント)の原形を既に示されておりました。今日のキャリア教育は、これらの原理が学習者のためではなく教育者のために独り歩きしており、「生涯学習云々」ではなく「生涯教育云々」の様相を呈していることを危惧します。

また、幕末の大儒教学者、佐藤一斎氏の『言志四録』には、「少くして学べば壮(そう)にして為(な)すあり、少者は少に狃(な)るる勿(なか)れ。壮にして学べば老いて衰えず、壮者は壮に任ずる勿れ。老いて学べば死して朽ちず、老者は老に頼む勿れ。」(意訳;若くしてしっかりと学ぶことは、壮年時代になってそれが役に立つ。しかし、いつまでも若いと思ってはいけない。壮年時代に学問に向きあっていれば、老年になっても気力は衰えない。ただ、元気旺盛なのにまかせて無理をしてはいけない。老年になっても学問を続ければ、名声を得て、死してもその名が朽ちることがないが、年の功(年をとり経験を多くつむこと)を口実にして依頼心を起してはいけない。)〔「言志晩録」六十条と「言志耋録」三三二条をあわせました。〕とあります。

ここで言われている「学び」とは「キャリアの有り様」であり、まさに「学びと生き様(キャリア形成)が融合した理想態を示していると思います。

大学におけるキャリア教育とキャリア形成支援については、教員の方は安心して専門分野を教えることに専心していただき、「よみかきそろばん」(修学)は教員の方、「生き様」を育むのはキャリアの専門家にお任せしていただけるよう、大学という舞台において、修学とキャリア形成を統合を実現していきたいと考えます。

大学に所属するキャリアコンサルタントの課題、今後の展望

今日、学校教育の評価と卒業後の企業の人材評価は必ずしも一致しないと言われています。原因の一つとして、大学で行なわれる(就職支援活動を含む)キャリア教育が卒業(修了)で一度収束してしまい、企業の人材育成がゼロからやり直されるというギャップの存在があります。社会へ出てからも途切れずに発展する一貫したキャリア支援体制の実現が急務であり、大学の教育の成果は、卒業生の10年後、20年後に現れると考えれば、卒業生の30代後半〜40代前半のライフスタイルまで包括的なフォローが行なえるのは、大学や地域と連携が組めるキャリアコンサルタントであると考えています。

また、このような業務を遂行するためキャリアコンサルタントには、組織レベルで執務に携わるマネジメント能力が問われます。従来のカウンセリング(相談)という個人対応だけではなく、より社会的な関係性高い視点を持ち、学校におけるキャリア教育と、企業の人材育成をシームレスに繋いでいくスキルを身につけるべきだと思います。

終わりに

私なりに考える今のキャリアコンサルティングの課題は、心理領域や経営(マネジメント)との統合ではないかと考えています。

今年度は新たに国家資格が施行され、キャリアコンサルタントは国家が認めるコンサルタントとなり、多くの方がこの資格を目指されると思いますが、資格を取ることはゴールではなく学びつづけることの宣言だと思っています。

キャリアコンサルタントが、学び(まねぶ=まねをする=受け売り)、自分流を産み出し、それが一流になるプロセスは、キャリア形成のロールモデルひとつです。キャリアコンサルタント一人ひとりがキャリアのお手本となり、その価値を高める活動が展開することを期待しています。

横山 慶一(よこやま けいいち)

横山 慶一(よこやま けいいち)

〔現職〕Toi Toi Toi !!! The Life Design Professionals 代表、大阪府立大学学生課キャリアサポート室室長、名城大学材料機能工学部・研究科キャリア・コンシェルジュ

〔所属〕(社)日本・地域経営実践士協会社員、日本産業カウンセリング学会会員、インディペンデント・コントラクター協会会員

〔資格〕キャリアコンサルタント(1級キャリアコンサルティング技能士)、上級心理臨床カウンセラー((公)関西カウンセリングセンター)

〔活動〕キャリアコンサルティングおよびキャリア教育の啓発・普及(2005年〜)、オーガニゼーショナル・ヒューマン・サービスとソーシャル・エンゲージメントの普及・促進(2008年〜)、生涯にわたるキャリアデザイン(Life-long Career Design; LCD)の実践(2012年〜)

コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)

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