キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2016年9月号

大学教員とキャリアカウンセラー

大学で教員兼キャリアカウンセラーとして勤務しています。

学校という組織の中で、先生方がキャリア教育に携わる機会が増えていますが、その過程でキャリアカウンセラーの資格取得や、キャリアデザインを体系的に学びたいと考える方々が増えていると聞いています。キャリアの学びをこんな風に使っている事例もあるのだと思っていただければ幸いです。

観光学で学生と社会をつなげる

観光学という学問分野があることをご存知でしょうか。観光学部は、1998年に立教大学で誕生したのが第1号ですので、まだ20年に満たない分野です。

とはいえ、日本の観光を取り巻く環境はこの数年間で激変しました。外国人観光客の急増や、爆買いなどの社会現象、2020年のオリンピックなど、各種メディアに「観光」の話題は事欠きません。並行して、少子高齢化社会の中で様々な自治体が「観光」による地方創生に取り組んでいることも周知のとおりです。

観光学はいわゆる純粋学問というよりは実学に近く、ともすれば職業教育と認識されがちです。しかしながら大学での観光教育は、即戦力として接客要員を輩出するのではなく、観光学の視点で社会に知を還元できる学生を育成することであると考えています。

その点では現在の環境は、観光を学ぶ学生たちが社会と一緒に解決に取り組むべき課題が山積みであることを示しています。本学にも様々なオファーをいただきます。市町などの行政や、商工会議所などの各種団体・企業、時には回転寿司の全国チェーンまで多種多様なパートナーと一緒に課題と向き合うチャンスがあります。

地域社会との協働は、アルバイトやボランティア以外の形で社会とつながり、しかも成果を求められるもので、学生たちにとって得難い経験です。もちろんすべてが順調に成功するわけではないので、叱られることもありますし、失敗した時の後始末まで、リアルな事案ばかりです。しかし、「やってみる」ことに学びがあり、成功しても失敗しても「次はできる」と思えることが重要だと思っています。

キャリアカウンセラー、はじめの一歩

私がGCDFのプログラムに参加したのは、キャリア開発室での事務職兼任歴が3年になり、受講条件をクリアしたから資格でも取っておこうかという軽い下心からでした。ところがプログラムは毎週1回「自分と向き合う」苦しくも厳しい時間で、軽い下心で受講したことを後悔しました。

プログラムで得たものの第一は、それまで「勘と勢いで実践」してきたことが、実はキャリア理論で説明できるという発見です。なんとなくわかっているけど、うまく説明できないから結果で示す行動傾向の私にとって、啓明でした。

例えば、熱海に転居して悶々としていた数年間は、シュロスバーグ (N.K.Schlossberg) の言う人生の転機(トランジション)であり、その時期を経たからこそ大学院への入学を機に「新しいはじまり」へと足を踏み入れることができたと説明できること。それを4-S(状況・自分自身・周囲の支え・戦略)のフレームワークで読み替えるとすっきりすること。

これまで携わった10の仕事や、転機に力をくださった方々との出会いは、まさにクランボルツ(J.D. Krumboltz)の「計画された偶然性」理論で説明できること。

学生たちのモチベーションの作り方は、バンデューラ(A.Bandura)の自己効力感の醸成そのものだということ。学生と地域社会の協働事業もキャリア教育という視点で組み立て直すことで、教育的効果を一般化できることなど。

今でこそ、落ち着いて考えることができますが、あんなにも自分と向き合い、また本音をさらけ出す経験は後にも先にもないだろうなぁという時間でした。プログラムで得られたもう一つの財産は、まさに苦楽を共にした仲間です。幸運にも、その後も同じ顔ぶれで継続学習を続けることができ、その存在が支えになっています。

これからも2足の草鞋で

名刺の肩書きには、大学教員とキャリアカウンセラーを並べていますが、軸足を置いているのは教員です。学生との接点は講義やゼミ学生などの指導が中心で、そうなってしまうと、カウンセラーとしてではなく、教員の顔で学生からの相談に応じることになります。

結果的に、GCDFプログラムでクライエント役の方に「泣きそうになりました」と言われたカウンセリング技術はなかなか上達することなく、今に至っています。おそらくこの先もカウンセラーを職業にすることは困難だと自覚していますが、今後も「継続学習」で学ぶこと、またその過程での人との出会いは、あらゆる場面で私にとっても、学生にとっても役立つと信じています。

学ぶことも教育することも、継続が力になることを様々な場面で実感しています。教員とキャリアカウンセラーの二足の草鞋は、チグハグのようですが、なかなか履き心地が良く、これからもずっと履き続けていきたいと思っています。

大久保 あかね(おおくぼ あかね)

大久保 あかね(おおくぼ あかね)

常葉大学 経営学部 教授(観光学博士)

資格:米国CCE.Inc認定 キャリアカウンセラー

大学卒業後、大学教員になるまでの20年間で、10種類の仕事を経験。静岡県熱海市に転居してから観光業に携わったのを機に、大学院に入学し博士号を取得、2006年から現職。
2009年からキャリア開発センター兼務、2013年4月にキャリアカウンセラー資格取得。

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