キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2016年10月号

私は、キャリアコンサルタント(カウンセラー)として、何がしたいか?

何ができる(can)か?何をすべき(should)か?ではなく、敢えて、何がしたい(will)か?

今、私自身の目標としてとらえているテーマは、キャリアコンサルタントとして、自らの活動領域を広げていくことです。それには、「私は、何がしたいか?」を考えていくことが大切だと考えています。

そして、その際に、私自身のキャリアコンサルタントとしての「軸」が何であるかを意識することだと思っています。私の場合は、三つの軸があります。

一つは、支援者としての軸。私のかかわりが、支援者としてふさわしいものか?相手にとって有益なかかわりができているか?私のかかわりの一つひとつが、相手にとっての支援になることを常に認識した上で、かかわれているか?を意識することが大切だと感じています。これは、エドガー・シャイン先生の『HELPING』という著書(神戸大学大学院経営学研究科金井壽宏教授の勉強会を通じて)から学んだことであり、私は、この視点を胸にとどめて歩んでいきたいと願っています。

二つめは、自らが学び成長する機会として、積極的に実践していくこと。日本では、キャリアコンサルティングは、まだまだ新しい領域であり、その活動が十分に認知され、確保されているものではありません。そのため、自らの行動がキャリアコンサルタントの活動領域を広げていくことになると前向きにとらえないとやっていけないことが多くあります。そして、その行動の一つひとつが、自分の人間力を成長させてくれるものだと信じていくことが、私自身の心の支えともなるのです。

三つめは、対話することを中心に置くこと。どんなにキャリア理論を学んでも、どんなに時間をかけてカウンセリング理論を学んでも、キャリアコンサルタントとしての活動の中心は、目の前の相手とかかわることです。そして、それは指導者であれば、一方的に教えるという姿勢ではなく、目の前の相手との1対1のかかわりの中に役割を見つけるということです。私は、かかわりとは、相手の内なる声(感情)を聴くことであり、「今、あなたをしっかりと受け止めて、みていますよ」という、こちらからの投げかけ(メッセージ)でもあると考えます。そうしたかかわりを行うには、対話することだと考えます。

何故、「・・・できる」や「・・・すべき」ではないのか?

もし、私が自分のできることをしようと考えるなら、おそらく今までの職業経験から培った持論や価値観をもとに考え、その考えを相手に押し付けてしまう可能性が高いでしょう。

「わたしなら、こうできるから、相手もそうできるはずだ」あるいは「私は、今までこうしてきた。だから、相手もこうすべきだ」 もし、こうした考え方が根本にあると、私は、自分の「枠」を拡げることができずに、自分のできる(あるいは、知っている)枠の中で相手にかかわるしかないと思います。これで相手のためになるかかわりができるのでしょうか?私の中では、疑問が残ります。

では、自らがキャリアコンサルタントとして「・・・すべき」という考え方を強く持っていたなら、どうなるでしょうか?私の場合、「・・・すべき」は、相手からの期待や願望をもとにした自らのミッション(使命)と考えます。そうなると何が起こるかといいますと、相手の期待に一所懸命に応えようとする自分が見えてきます。

幼少期から学生時代、親の期待に応えようと頑張ってきた私は、いつの間にか他人の評価を得ようとして、自分のわがままを抑えて頑張る「優等生」になっていました。そのため、今でもどんなに自己評価が高くても、それを裏付けるような他者評価を求めてしまいます。私は、そのような生き方を選ぶことは、キャリアコンサルタントとして、自分のキャリア(=私なりの生き方、私の生き様)を歩んでいるはずの私が、実は、常に他者の評価を「軸」として生きていくことになるのだと考えます。

自分のキャリアは、私だけの「かけがえのないもの」です。唯一の絶対的なものだといっても良いのではないでしょうか。そのキャリアの評価を他人任せにするなんて、そんな愚かな考え方はやめよう!私は、そう考えたのです。ですから、「・・・すべき」という考えは止めるようにしてみました。(しかし、今でも時々現れては、私を苦しめます。なかなか「さよなら」ができないのが実情です。)

そんな私の今の希望は、キャリアコンサルタント(カウンセラー)としての私自身の可能性を高めるということです。可能性とは、今まで気づかずにいた新たな自分を発見することです。これは、なかなかに難しいテーマだと思っています。私は、自分の可能性を高める方法には、三つの視点があると考えます。

一つは、今、自分が立っている領域でさらなる高みをめざすこと。得意な分野での目標を高く置いて、その目標に向かって、上をめざして努力を重ねていくイメージかもしれません。

二つめは、今の自分の領域から少しずつ領域を広げていくことです。その場合は、自分の軸足は常に安定した領域において、徐々に滲み出るように領域を広げるやり方が良さそうです。

三つめは、まったく異なる領域に思い切って飛び移ってしまうやり方です。まったくの未知の領域にパラシュートで飛び降りるみたいに、一気に乗り込んでしまうことになるので、劇的な環境の変化に柔軟に対応することが求められるでしょう。しかし、実際には未知の世界といっても、実は、これまでの人生で培ってきた知識やスキルが通用することが意外に多くあります。このスキルをポータブルスキルというようです。これまでの人生経験から、その人にしっかりと身に着いているスキルのことをさします。

しかし、三つめの方法は、年齢を重ねるにしたがって困難さが伴います。新しいことを覚える記憶力、新たな仲間を積極的に作っていく対話力と行動力、そして、その挑戦を持続できる体力と精神力です。私たちは、心のどこかで安定を求めています。安らぎの場所、自分が安心できる居場所です。しかし、新たな領域に飛び出すには、一旦は、こうした安定を諦めるしかありません。

もしかしたら、みなさんの中で、サミュエル・ウルマンの『青春』という詩を思い出される方がいらっしゃるかもしれません。どんなに年齢を重ねても、いつまでも若い心を持つことの大切さを感じさせてくれる詩です。

ここで、注意しなければならないことは、あまり無謀な挑戦をし過ぎてしまうと、自己効力感を下げてしまう恐れのあることです。そうすると、自己肯定感も落ちてしまって、自己受容することができにくくなると考えられます。

自尊感情については、『自尊感情の心理学』(中間玲子 編著 金子書房)に書かれている内容が大変参考になります。それによりますと、どんな自分であっても、自分の存在を「あるがままに」受け容れられることが、私たちを日々の生活から受けるストレスや苦しみから救ってくれるようです。もし、今の置かれている環境の中で、「自分らしく」いることができて、そんな「自分っていいな」と思えることができるなら、私たちは、安心感を得ることができるでしょう。

そのためには、自分らしくいられる(本来感の育つ)環境と自分の能力を発揮できる(優越感の育つ)環境の二つが揃うことが理想的です。そして、それを支える資源として、個人差はありますが、社会的な評価であったり、自身の成長への努力であったり、個人的に価値を感じるさまざまな資源が存在するのです。しかし、どちらか一方に偏りすぎますと、自尊感情が不安定になりやすく、気分の激しい変化が起きてしまいます。

そして、自らの心の動きを知ること

キャリアコンサルタントとして、自らの可能性を引き出し続けるにも、私たちは、自らの心の動きを知っておく必要があると思います。そう考えていくと、私は、キャリアコンサルタントとして、心理カウンセリングについて学んでいくことも大切なことだと考えます。自分の感情について「今、なぜ自分はこう感じているのか?」「目の前の相手のどんな態度が、自分の感情を刺激しているのか?」など見当をつけておくことでカウンセリングに新たな視点を取り入れることができるのではないでしょうか。

また、目の前のクライエントを支援するには、どのようなかかわり方が大切なのか?自分の今のかかわり方で間違っていないのか?もっとクライエントに寄り添うには、他のかかわり方があるのではないだろうか?そういう意識を常に持つこともできたらいいなと考えています。そういう意味で、できるだけたくさんの視点を持っていることが有効だと考えます。

私は、自身が生涯にわたって、キャリアコンサルタントであり続けるには、こうした自分自身の可能性を高めるという姿勢を常に持っていたいと望んでいます。このことは、私のキャリアコンサルタントとしての生き方の「軸」だと思っています。最後に、私のめざしている姿をご紹介してこのコラムを結びたいと思います。

私のめざしたい姿は、サーバント・リーダーシップを持つことです。サーバント・リーダーシップとは、ロバート・グリーンリーフという人が提唱した考え方で、10の特性があります。それは、1)傾聴、2)共感、3)癒し、4)気づき、5)説得、6)概念、7)先見力、8)執事役、9)人々の成長に寄与、10)コミュニティ作りです。私が初めてこの考え方を知ったのは、金井壽宏教授の勉強会を通じてでした。そして、私は、このスタイルこそが、私のめざしたいキャリアコンサルタントの在り様だと直感したのです。

みなさんは、キャリアコンサルタント(カウンセラー)として、どのような軸をお持ちでしょうか?ここに書かせていただいた私の考えは、私に合った考え方であって、どなたにも合うものではないでしょう。キャリアコンサルタントが、みな同じような考え方でいることのほうがおかしいことだと思います。一人ひとり異なる価値観や思いがあって、そういう思いを持って、日々苦闘しながらも楽しく活動しているのではないでしょうか。私は、そういう仲間とともに、目標を持って、これからも歩んでいきたいと思います。もし、どこかでみなさんとお会いする機会がありましたら、是非、お話をお聴かせいただきたいと願っています。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

大貫 浩司(おおぬき こうじ)

大貫 浩司(おおぬき こうじ)

大学卒業後、化学メーカーに勤務。営業、管理業務を経験。その後、人材紹介コンサルタント、化学メーカー人事職、地方自治体職員を経て、現在、公立中学校管理職として勤務中。「人が育つ組織づくり」を目標に、組織の中でどのように人と人とがかかわることができるのかを考え、実践しています。

現在の私のミッションとしては、今の組織から求められている期待を達成することが、最優先課題になります。同時に、自身のキャリア(人生の在り様)は家族とともにあること、キャリアコンサルタント(カウンセラー)としての活動領域を広げること、支援者としてのあり方を学び続けることを、常に意識して実践することだと考えています。

【資格】
1級キャリアコンサルティング技能士(国家資格)
関西カウンセリングセンター認定心理カウンセラー

コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)

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