キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2018年3月号

~キャリアコンサルティング技能士を生きる~

平成30年1月度、政府の施政方針として「働き方改革」「人づくり革命」を力強く推し進めていくことが発表され、その内容は、子育てや介護など様々な事情を抱える人が意欲を持って働くことができ、誰もが能力を発揮できる柔軟な労働制度へと抜本的に改革していくというものです。戦後の労働基準法制定以来70年ぶりの大改革であるという方針を背景に、私たちキャリアコンサルタントは、どのように今の社会で機能し、そして生きていくのか、私のひとつの考えを踏まえコラムに書かせていただきます。

直近でのキャリアコンサルタントを取り巻く環境

我が国では、平成28年10月に1億総活躍社会プランが策定され「保育・介護」に力点が置かれて働き方改革に焦点があたり、翌年の平成29年3月には「働き方改革実行計画」が策定、「長時間労働の是正、同一労働同一賃金」が掲げられました。また、ライフシフトへの注目などを受け、平成29年9月に「人生100年時代構想」の中で、「生産性革命と人づくり革命」を両輪として打ち出されて冒頭の通り現在に至ります。世の中には多くの問題や課題が山積しており、またその状況をひとつひとつ打開していくための国の施策がこの数年間だけをみても次々と具体的に表明されて、私たちキャリアコンサルタントが担う仕事は年々環境変化と共に複雑さが増してきていながらも、その変化に対して受け身でいることも少なくはありません。激動社会の真っ只中、予見できないことは多く、来室された目の前の相談者と向き合ったとき、これまでの我々の人生観や哲学等からは夢想だにしない出来事や問題、複雑に絡み合った諸事情、緊急性などを感じることがとても多くなりました。

また、組織等の問題も一筋縄では解決できない様などうしようもないことが沢山あります。これから働こうとしている人を含め、全ての働く人たちへの幅広く奥深いキャリア形成支援が求められ、キャリアコンサルタントには、より適切に対処ができる支援能力が備わっていることが重要な要素になっています。2024年度末までに国家資格キャリアコンサルタントを10万人にしていく計画は続いていきながら、同時にその質の向上と倫理の厳格化が最重要課題となる今、特にキャリアコンサルティング技能士は、キャリアコンサルタント全体のロールモデルとしての機能と役割意識を持ち、率先して模範となる思考行動技術を研き示していくことが重要です。

キャリアコンサルティング技能士に求められる役割には、個への支援は勿論、日本社会全体のより働きやすい環境づくり・組織作りに寄与していく中立的な立場を実践していくことや、職業能力開発促進などの人材育成、ライフシフト、介護、障害者、メンタルヘルス等々、特別な支援を必要としている幅広い方への支援諸活動が挙げられます。

こうした役割を担っていくうえで、キャリアコンサルティング技能士が学び続けていく必要性と、その社会的意義について触れてみたいと思います。

キャリアコンサルティング技能士とキャリアコンサルタント

キャリアコンサルティング技能士には、いわゆる熟練レベルといわれる「2級キャリアコンサルティング技能士」と、指導レベルといわれる「1級キャリアコンサルティング技能士」のふたつがあり、この資格称号は、「国家資格キャリアコンサルタント」(登録制)の上位資格となります。1級・2級技能士は、キャリアコンサルタント登録センターで所定の登録手続き(一定の基準を満たすことが必要)を行えば国家資格キャリアコンサルタントとして活動できるわけですが、先ず、キャリアコンサルティング技能士の方々は「登録キャリアコンサルタント」の意義を理解されている方がどれほど存在するのでしょうか。(※登録手続きを行わなければ技能士の資格を持っていてもキャリアコンサルタントとして名乗ることは出来ません。)

キャリアコンサルタント資格保持者はどのレベルであろうと、基本的には日々様々な領域の現場で相談者の支援に繋がるキャリアコンサルティングを提供していく努力を行い、それはそれぞれのキャリアコンサルタントが担当する個や組織等によって支援のあり方が大きく変わるものだと思います。相談者にとって、どのレベルのキャリアコンサルタントが担当したとしても、ある一定の質での相談支援等が受けられることを期待していることは至極当然のことです。登録キャリアコンサルタントは、全員が5年間毎に指定された更新講習(キャリアコンサルタントのレベルにより一部異なる内容)を受講していなければ、それぞれ登録更新が出来ず、ここで質への最低限の線引きが出来るようになっていると思います。キャリアコンサルティングの提供を受ける利用者からみて安心安全を得られることに繋がるように、キャリアコンサルタントの一定の最低限の資質保障がなされている仕組みを国が整備し、それはブランディング活動にも成り得るわけです。この更新講習(知識講習や実務講習)をどのように意識できているのか、役立てているのかは各キャリアコンサルタントに任されていますが、永続的な学びが必須となるキャリアコンサルタント職にとって合理的且つ効果的な仕組みであると考えます。ある程度の基準で他律的に勉強し続けていく環境作りを行うことで、個々の自主性などに任せるだけに終わらず、全ての相談者が一定のレベルでのキャリアコンサルティングサービスを受けられることに繋がります。

キャリアコンサルティング技能士は、知識や実務経験年数レベルで受検資格の基準が高く設定されていて、合格された方には技能士の称号が与えられるわけで、本来は国家資格キャリアコンサルタント試験に合格した標準レベルの方々の模範となる役割であると思います。キャリアコンサルティング技能士は、キャリアコンサルタントの中のプロ中のプロであるということです。キャリアコンサルティング技能士は、標準キャリアコンサルタント(国家資格キャリアコンサルタントのみの資格保持者)が現場で行っている面談支援と同等に終わらず、技能士同士のネットワークを活かし、キャリアコンサルタントの資質向上などに努力を惜しまないような生き方を選択しているともいえます。現在、一部のキャリアコンサルティング技能士がキャリアコンサルタントとして登録していないという状況があり、もしその個人による独善的な考えのもと、その価値観などから周囲のキャリアコンサルタントにネガティブな影響を与えてしまうとすれば問題だと感じます。キャリアコンサルティング技能士としての社会的な影響力や行動規範等、倫理綱領を今一度ご確認いただき、全体にそれなりの影響を及ぼすということを理解していただきたいと願うばかりです。

ご参考までに、直近でのキャリアコンサルティング技能士の人数と参考までにキャリアコンサルタント登録センターの人数を下記します。

【キャリアコンサルティング技能士】※平成29年7月31日現在

1級/285人

2級/7,982人

(キャリアコンサルティング協議会発表)

【国家資格キャリアコンサルタント登録者数】※平成29年12月末日現在

31,515人(1級/2級技能士登録者数も含む)

(キャリアコンサルティング協議会発表)

キャリアコンサルタントが企業領域で仕事を創造すること

公的需給調整機関や教育機関等で働くキャリアコンサルタントの方はとても多く、全体の50%以上がこの領域で活動されていると思われ、その現場の方々は非正規の方が大半を占め8割以上とも想定されます。また、民間の需給調整機関等で活動されている方も増えていて登録キャリアコンサルタント全体の20%程度ではないかと推定されます。実に70~80%程度のキャリアコンサルタントが上記の活動領域となるわけですが、その年収は非常に低いことも多く、同じキャリアコンサルタント職でも企業内勤務の正社員の場合、非正規キャリアコンサルタント職の2倍以上の収入を得られていることもあるようです。こうした状況から如何に企業へキャリアコンサルティングが浸透していくことが重要なのかおわかりいただけるかと思います。

キャリアコンサルティングを受ける個人は、経済的な面等で諸々弱い立場にあることが多く、相談支援に高額な費用をかけられる方は少ないと思います。しかし、良質のキャリアコンサルティングを受けたい、効果的な支援を得たいというニーズは高く、これでは鶏と卵ではありませんが、堂々巡りの平行線でキャリアコンサルタントの技術の市場価値が安価なままとなります。キャリアコンサルタントが自己研鑽にかける時間や労力なども全て原価となるので、そうした質の向上に繋がる投資を回収でき得る仕事を生み出せなければ、キャリアコンサルタント個人の資金力などに頼らざるを得なくなります。実情を踏まえ、例えば、各地域の地場の有力企業組織(中小企業)等が、キャリアコンサルティング導入による様々なメリットを十分に理解をし、継続的な先行投資を行い、全ての従業員へのキャリア形成支援体制を全面的に推し進めていくような姿が創造できればひとつの打開策とも成り得ます。いうまでもなく、企業にとって売上と利益は最重要なものであり、また、それを担う従業員のひとり一人の成長は大きな課題となります。地場系中小企業の経営者からみたメリット(生産性向上と従業員定着率向上等)は、直接的且つ即効性を求めて来ることも多く、キャリアコンサルタントがその個々のニーズに応えられればお互いが一致しそこに市場が生まれます。

企業でのキャリアコンサルティングの必要性について実態はどのような感覚であるのか、私が実感していることをご参考までにご紹介いたします。企業の人材管理等での場合、リテンション機能としてキャリアコンサルティングを考えている場合は多く、労働移動促進の観点は当然に薄い状況です。また取り組み自体が、人材資源管理、人事労務等の部署、若しくはアウトソーシングして単独組織で機能していることも多く、例えば営業部署や経営企画部署等との連携によってキャリアコンサルティングの効果(生産性向上や従業員定着)を営業実績(売上等)で連動し可視化できるような取り組みが出来ているところは皆無に等しいとも思います。さらには、人事部の仕事をされている方々が、従業員相談室の運営を交代制で兼務しているというようなご事情をお聞きすることも多いです。

私が取り組みを始めていることのひとつには、一線で活躍中の営業マンにキャリアコンサルティングプロセスを学ばせて現場で実践することに挑戦しています。例えば、人材育成などを人事部任せにせず、連携しつつも営業部署にキャリアコンサルティング機能を持たせることも重要なのです。また、中小企業でいえば経営者の方々にキャリアコンサルティングの技能の習得していただくことが大切です。そうすることでその必要性に理解が生まれ、価値が高まり人材育成の上で導入が当然のようになる。組織内で全ての人がキャリア形成を自律的に考えられるようになるシステムがあることは、政府が打ち出している「働き方改革」「人づくり革命」に直結します。現在、ある領域の某大手企業を中心に従業員育成に関する研修講師(受託)を仕事にしていますが、私の収入源はその従業員からではなくその企業からであり、また、従業員が研修を高評価しているからこそ、経営側の判断による取り組みの継続性が生まれます。評価の基準は対象部署の受講従業員の行動レベル向上による売上アップです。「講座や研修を受講するとスタッフの売上が1.5倍になる」こうした結果が出せると営業研修の提供に価値を感じてもらえます。

行動レベルが上がるというのは、結局、その人が自律的に自身の働き方を考えることにあり、それが結果的に仕事の楽しみに繋がって実績がついてきます。他業種でも、実際に宿泊施設のフロント業務やコンシェルジュ業務にキャリアコンサルタントのスキルを取り入れた取り組みを行っている企業もあり、お客様からの高い評価を得られ実績が可視化されている事例もあります。従業員の自己理解や仕事理解、環境理解を営業的目線で深めていくことは、結果、キャリア形成支援の推進力にも繋がるのです。こうした諸活動状況から、各々の組織の従業員個人からの相談の申し入れも多くなり、当該企業が以前から直営で設置している相談室等の件数より私が個人で受けている相談件数が上回る状況にもなっています。

キャリアコンサルタントの仕事は資格を取得して得られるものではなく、また待っていても誰かが与えてくれるものでもありません。「働き方改革」「人づくり革命」は生産性に直結しているものであり、全ては人がかかわることなので、その人自身の生きがいを感じられる働き方・生き方を選べるように私たちは機能する役目があります。企業から熱望の的となるキャリアコンサルタント、個と組織の真ん中で仕事を創ることが出来るキャリアコンサルタントを目指すことができるように、キャリアコンサルタントの資格を取得した方々自身が「修業の日々に終わりはない」という自覚をもって、様々な領域の専門家とのネットワークを構築し、全ての人の様々なキャリアをコーディネートしていけるポータル機能を持ち、また、特別な専門家支援が必要になる相談者への的確な判断(適切なリファーやコンサルテーションに繋がる判断)ができるスペシャリストになれるように努力を積み重ねていくことがキャリアコンサルタントの市場価値を高めていくことに繋がるのだと信じています。キャリアコンサルティング技能士になるのではなく、キャリアコンサルティング技能士を生きるという選択をしていることを常に意識し、様々な方々と共に活動を続けていくことが出来ればと考えます。

● ご挨拶

平成29年10月度より、キャリアコンサルティング技能士会関東支部の支部長を拝命いたしました。同時期に関東支部は副支部長、会計、会計監査の方々等、運営メンバーが一新され、新たな体制で会員の皆様と共に参加型のイベントを企画出来るように努めています。担当幹事の方や運営メンバーの方々のご協力により会員様の企画を含め、各領域での委員会諸活動を今年からスタートさせていく予定です。皆様にご意見をいただきながら交流会や勉強会等、実践的な様々なテーマで精力的に活動が出来ればと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

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小林 幸彦(こばやし ゆきひこ)

小林 幸彦(こばやし ゆきひこ)

平成14年から企業向け研修サービス事業会社の取締役と講師業を務めながら、現在並行して個人事業としてCVCLABを開業しキャリアコンサルタントの育成指導等の活動を行う。
現在、研修や講座は年間約200回を手掛けている。
これまで大手商社系情報通信事業会社、専門資格取得学校、音楽業界、フィットネス事業会社、アパレルメーカー、自動車ディーラー等と異業種での様々なキャリアを積み上げて現在に至る。トータル30年間の企業における働き方の中で、営業、人材育成、採用、就職・転職支援等の諸経験を活かし、今後も確立された理論を基に幅広く学び続け、現場で応用できる生きた研究を進めていきたいと考えている。

キャリアコンサルタント関連資格
・1級キャリアコンサルティング技能士
・国家資格 キャリアコンサルタント
・一般社団法人 産業カウンセラー
・メンタルヘルス・マネジメント®検定Ⅱ種

コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)

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