キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2018年4月号

人生の歩みを支えるパートナーを目指して~キャリアコンサルティングサービスの今までとこれから~

平成13年(2001年)に厚生労働省が、「キャリアコンサルタント5万人養成」の目標を発表して以来、現在までに国家資格キャリアコンサルタントとキャリアコンサルティング技能士を合わせて3万3千人を超えるキャリアコンサルタントが誕生しました。

そして、キャリアコンサルタントの活躍の場としてジョブ・カード制度、セルフ・キャリアドック、公的職業能力開発サービス利用者に対する就職支援相談などの公的制度をはじめとしたキャリアサポートのサービスも、時代やニーズに合わせて変化しながら、その幅を広げ前に向かって歩みを続けています。

しかしながら、その支援は、離職者支援や進路相談あるいは公的な助成金に絡めたサービスなど「自ら進んでサポートを求めてきた人に対する限定的な支援」が中心であり、「生涯にわたるライフキャリアのトータルサポートサービス」が十分に展開できているとは言えない状況であることもまた確かです。

今後、すべての人が、特に意識することなく「必要な場面で必要なだけのサポートを受け、より良い歩みができる」ためのサポート体制の確立と、サービスの充実に向けて、これまでの歩みを振り返るとともにキャリアコンサルティングサービスの現状と今後の展望について考えていきたいと思います。

1.キャリアコンサルタント養成の開始                    (キャリアカウンセラーからキャリアコンサルタントへ)

需給調整機関における就労支援や学校教育などの進路支援の現場では、長らく「専門的なスキルを持った相談スタッフ」の必要性が叫ばれてきました。アメリカでは、第二次大戦後のかなり早い時期からキャリアカウンセラーが専門職として確立し、相談現場において必要不可欠な役割を果たしており、そうした支援を日本でも具体化しようとする動きは、「キャリアカウンセラーの養成を目指す」という形で展開されましたが、カウンセラーという言葉の日本語のイメージ(心理的、メンタル的なサポートのニュアンスが強い)から、その言葉をそのまま日本の制度に落とし込むことは難しいといった側面があり、これをどのようにアレンジしていくかということが一つの課題となっていました。

こうした課題を踏まえて、具体的な動きが見えたのは職業能力開発の現場からでした。平成13年9月の職業能力開発促進法の改正でキャリア形成支援の地ならしがなされ、そしてそれを踏まえた平成13年から平成17年にかけての「第7次職業能力開発基本計画」において「キャリア形成促進のための支援システムの整備」が明記されました。そして、この時にキャリアコンサルティング(当初の表記は「キャリア・コンサルティング」でしたがここでは「キャリアコンサルティング」で統一します。実施者としての「キャリア・コンサルタント」も同様に「キャリアコンサルタント」と表記します)の定義もなされています。同時にこのキャリアコンサルティングを行う専門家としてキャリアコンサルタントという専門家の育成も行われることとなりました。ただし、この時点のキャリアコンサルティングの定義は、「労働者が、その適性や職業経験等に応じて自ら職業生活設計を行い、これに即した職業選択や職業訓練の受講等職業能力開発を効果的に行うことができるよう、労働者の希望に応じて実施される相談その他の援助をいう」というものであくまで職業能力開発に焦点を当てた限定的なものにすぎませんでした。しかしながら、「その他の援助」という表現を加えることにより「相談に限定されることなく幅広い支援を行う」選択がなされたことで、キャリアカウンセリングを母体とした日本独自のサービスである「キャリアコンサルティング」が産声をあげたということは特筆すべきことでもありました。この計画を契機に、日本のキャリア形成支援サービスは具体的な歩みを始めたということになります。

2.キャリアコンサルタント5万人養成計画とその実行

上記の方針に基づき、「キャリコンサルタントを平成14年度から5年間で官民合わせた体制で5万人養成する」ことが具体的な目標として打ち出されました。このことを受け、アメリカのキャリア・デベロップメント・ファシリテーター育成の流れをくんで専門家の育成にあたっていた民間団体並びに国の外郭団体として職業訓練施設を全国展開していた独立行政法人雇用・能力開発機構(当時、以下「機構」とする)による「キャリアコンサルタント養成講座」が開始されました。まず、機構により5年間で5000人の定員設定の講座が開設されました。講座は、内容の均質性を担保する意味で、全国各地の職業能力開発施設等を会場に各界の専門家による衛星放送配信の学科と機構スタッフ等による演習の二本柱で行われました。

また、それと並行する形で45,000人のキャリアコンサルタントを養成すべく、民間団体による養成講座も開始されました。その際、キャリアコンサルタントの質を担保する意味合いから養成講座の修了者がすべてキャリアコンサルタントとなるのではなく、講座終了後それぞれの機関が認定する資格の試験を受験し、一定の基準を満たして合格したものが「キャリアコンサルタントの有資格者」となるように位置づけられました。この資格は、民間資格ではありますが、厚生労働省が当時実施していた「キャリア形成促進助成金制度」の助成対象となる「キャリアコンサルタント能力評価試験」として認定されることで間接的に公的な資格の意味合いを持つこととなりました。

私は当時機構のスタッフとして大阪で講座の実施に携わっていました。そして関西圏で行われていた民間機関の養成講座修了者を対象としたフォローアップ講習で能力開発支援について話をさせていただく機会にも恵まれました。つまり自分自身にとってもここがキャリアコンサルティングにかかわるスタートラインということになるわけです。

3.ジョブ・カード制度の創設                           (ライフキャリアの包括的なサポートに向けての展開の始まり)

こうした専門家の養成から少し遅れて、平成20年4月にキャリアコンサルティングの具体的な展開の一つとしてジョブ・カード制度が開始されました。この制度は、当時の第1次安倍内閣が「日本経済成長戦略」の一環として、省庁の壁を超えた包括的なキャリア形成支援を行う施策の一環として取り組んだものでした。そしてその中核となるジョブ・カードは「キャリア形成の公的な支援ツール」としての位置づけが期待され、単に能力開発支援の現場にとどまらず、学校教育における進路指導の現場や非正規従業員の正社員化を進める制度である「有期実習型訓練」や若年労働者のキャリア形成を促進するため主に新入社員研修の現場で活用された「実践型人材養成システム」などの在職者向けキャリアサポートといった幅広い場面での活用を意図した設計がなされ、実践を重ねる中でいくつかのバリエーションが生まれ、その用途も変わってきました。

制度が開始された当初、ジョブ・カードの交付にあたっては、キャリアコンサルタントによるキャリアコンサルティング相談が必須とされていました。しかしながら、前述したキャリアコンサルタント能力評価試験の対象となる試験合格のための講座のカリキュラムは140時間程度と長く、受講料等の経費負担も少なくないため、それを相談員の要件とすることは難しい状況でした。そこで、ジョブ・カードを使った相談を行う者のスキルを担保することと、キャリアコンサルティングの発展的な普及を目的とした無料の短期講習「ジョブ・カード講習」が開始されました。講習は、傾聴を中心としたキャリアコンサルティングの基本知識及びスキルの習得と、それを活かしたジョブ・カードの作成支援スキルを習得するために構成されたごく短いものでした。私も、ジョブ・カード講習の講師としてハローワークの窓口スタッフの方等を対象に講義や演習指導を行った経験があります。講習修了者は「ジョブ・カードキャリアコンサルタント」として認定され、例えば、求職者支援訓練を行う民間訓練機関の就職支援担当者はこの講座の受講が必須とされました。

その後、国家資格「キャリアコンサルタント」が誕生する際、キャリアコンサルタントの呼称が名称独占となったことを受け、講座修了者の呼称も「ジョブ・カードキャリアコンサルタント」から「ジョブ・カード作成支援アドバイザー」に変更されました。ジョブ・カードの役割も、受益者の主体的なキャリア形成支援に焦点が移り、交付という概念がなくなり、平成27年(2015年)10月から施行された「新ジョブ・カード制度」では「利用者個人の了解の下、いろいろなサポートや証明を受けながら作成されるもの」といったコンセプトのもと、様式や内容も大きく変わりました。

ジョブ・カードの普及については、2020年までに交付者と作成支援サービスの利用者合わせて300万人という目標があり、現在もその達成に向けて主にハローワークや訓練実施機関においてサポートが展開され、「ジョブ・カード講習」も継続されていますが、一つの節目を迎えようとしていることは確かなようです。

4.キャリアコンサルティング技能士制度及び技能士会の誕生

「キャリアコンサルタント能力評価試験」が認定され、一定の有資格者のレベルが担保されるとともに、そのレベルの向上と質の保証を図るため、主に技能者の技能レベルを認定する「技能検定」のスキームを活用した取り組みが開始されました。

技能検定は、その職務を遂行する能力を知識とスキルの両面で評価する国家検定制度で、主に技能労働者の技能の習得レベルを担保するために活用され、検定合格者は「技能士」と称することができます。そしてこの制度をキャリアコンサルティングに適用することで、能力評価試験の合格者のさらなるステップアップの道が開かれることとなりました。平成20年の秋に、同検定試験の指定試験機関である特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会(以下「協議会」)により「熟練レベルのキャリアコンサルタント」の能力を目安に設定された2級技能士の検定が行われ、平成23年からは「指導レベルのキャリアコンサルタント」の能力を目安に設定された1級技能士の検定も開始されました。検定は学科と実技の二つの試験が行われます。また、技能士の受検資格には実務経験が必須要件となっており、実務者のスキルの担保とサービスの質の向上の目標となって現在に至っています。

そして、2級技能士の誕生を受けて、有資格者の相互の交流と実践力の向上を目的として平成21年にキャリアコンサルティング技能士会が組織されました。技能士会は、任意団体として協議会の傘下にて活動していますが、平成29年度末現在、全国をブロック単位で分けた7つの地域支部があり、それぞれの地域で、地域のニーズと地域の会員からの要望に応える形で研修や交流の活動を展開しています。

中国四国支部では、平成29年度の活動として会員技能士を講師として、会員のみならず地域のキャリアコンサルタントに幅広く参加を呼びかけて研修会を3か所(山口市、広島市、松江市)で計4回、事例検討を中心とした交流会を2か所(高松市、松山市)で計2回開催しました。技能士会の活動は、それぞれの支部によって別々ですが、実施に当たっては相互に連携を取り、事前に実施する企画の情報を共有することで、よりきめ細かで幅の広い活動ができるように、東西のブロックから6名ずつ会員の中から選出された幹事による幹事会が年に数回開催されています。

5.国家資格「キャリアコンサルタント」の誕生とさらなる普及に向けてのサービス展開の整備

平成28年4月に、それまで行われてきた「キャリアコンサルタント能力評価試験」を発展的に統合する形で、職業能力開発促進法に基づく「キャリアコンサルタント」の国家資格が制定されました。この国家資格は、「能力開発や職業選択に関する相談・助言を行う専門家」を養成する性格も持ち合わせており、実務経験者のみならず、厚生労働大臣が認定する講習の課程を修了した者も受験できる仕組みとなっています。

この資格は名称独占資格であり、合格者は登録することでスキルを持つ「キャリアコンサルタント」と称することができ、職業選択の支援や、職業能力の開発・向上に関する支援などが総合的に行えるキャリア形成支援の専門家としての役割が期待されています。

先述の第4で紹介した技能検定制度は、キャリアコンサルティングのサービスの質をより高めていくことができるよう、この国家資格「キャリアコンサルタント」の上位レベルの知識とスキルを担保できるような位置づけとなっており、資格取得後のステップアップが図れるような仕組みとなっています。そしてこの3つのステップの有資格者を平成36年度末(2025年3月末)までに合計10万人養成することが国の目標となっています。

6.これからのキャリアコンサルティングの展望と課題

16年前、キャリアコンサルタントの養成が開始された当初は、需給調整機関の窓口や教育関係の進路相談の窓口が、キャリア形成支援の主な現場でした。現在もその役割が重要であることは変わらないのですが、それと並行して支援の幅はさらなる広がりを見せています。例えば、在職者のキャリア形成を支援する公的な動きとして「セルフ・キャリアドック」や「生産性向上支援訓練」といった取り組みが開始されています。また、65歳以上のいわゆる「年金受給世代」の継続雇用の取り組みも、本格的に議論されることとなりました。そして、そのすべての現場においてキャリアコンサルタントが重要な役割を果たしていくことが期待されています。つまり、職業生活のすべての場面において、キャリアコンサルティングに基づく支援が受けられる基盤が整いつつあり、そこで実務を担当する専門家がキャリアコンサルタントという状況が現実味を帯びてきているのです。

ただし、それは基盤が整いつつあるというだけのことであり、そこでキャリアコンサルタントが主体的にかかわることをしなければ、例えば、在職者支援の制度などは、事業所の助成金制度と合わせて実施されることが多いことから「助成金受給のための要件」に矮小化される危険性も少なくないと感じています。そうならないためにも、キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルティングを行うにあたり、その役割をただこなすのではなく、利用者一人一人のライフキャリアの積み上げと、それぞれのクライエントの「今そして将来の充実」に向けてともに考えサポートしていくことが大切なのではないかと私は考えています。

あるときは「ナビゲーター」として、そしてある時は「転ばぬ先の杖」として、人生の主人公であるクライエントのライフキャリアを支える脇役(パートナー)として、キャリアコンサルタントの役割は今後ますますその重要性を増していきます。これから何が求められ、その求めに応えるべく何をしていくことが必要なのかを的確に見極め、それに対応できる質の高いサービスが展開できるように、常に自分の来し方を振り返り自己研鑽を重ねながら、ともに前を向いて歩いていきましょう。

*************

キャリアコンサルティング技能士会のホームページはこちら

野田 昭生(のだ あきお)

野田 昭生(のだ あきお)

(略歴)
大学卒業後、雇用促進事業団(当時)に就職、中小企業の雇用管理や人材育成の業務等を担当した。同事業団の廃止に伴い、雇用・能力開発機構(当時)に移籍し、キャリアコンサルタント養成の黎明期に同機構が実施した「キャリア・コンサルタント養成講座」の講師及びスタッフを5年間担当した。その後は、同機構の廃止まで「ジョブ・カード講習」の講師を担当した。並行して、職業訓練受講生などを対象にジョブ・カードキャリアコンサルティングを担当した。同機構廃止後、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構に移籍し現在に至る。現職は高齢・障害・求職者雇用支援機構徳島支部求職者支援課長兼生産性向上人材育成支援センター担当調査役。キャリアコンサルティング技能士会 中国・四国支部長

(資格)
2級キャリアコンサルティング技能士
国家資格キャリアコンサルタント

コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)

キャリアコンサルタントのさまざまな活動を応援します!「ACCN」のご案内はこちら


マンスリーコラム一覧へ戻る