キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2018年12月号

『聴いてくれた人』と『分かってくれた人』

面談後に感想をお聞きすると「安心できる」、「落ち着く」キャリアコンサルティングとの評価をいただく機会が多くなりました。落ち着いて面談できていると自分でも感じられるようになったのはここ2年くらい。何が変わったのかを考えてみると、キャリアコンサルタント視点での面談からクライアント視点での面談に転換できたことがターニングポイントになっているような気がします。

私たちは『聞く』から『聴く』姿勢へのトレーニングを経験します。傾聴を通して、クライアントにとっての『聴いてくれた人』となれるよう努力します。これはキャリアコンサルティングの基礎としてとても大切なことです。さらに、これをもう一歩進めてクライアントから『分かってくれた人』と感じてもらえるようになるとお互いの関係性は一気に進みます。

どうしたら『分かってくれた人』になれるのか・・・。これはクライアントの価値観をしっかりと受けとめることであろうと思っています。簡単なようですがとても難しいポイントです。人はそれぞれの性格や取り巻く環境、これまでの経験等により異なった価値観を持っています。キャリアコンサルタントとして、それは頭の中で分かってはいても、うっかり自分の価値観軸で対応しがちなのです。偏った考え方に縛られているクライアントに対するとき、つい言葉の端々に、クライアントを正そうとするニュアンスが含まれてくるものです。

私は約25年間、人材ビジネスの仕事を行ってきました。人と仕事のマッチングを行う業務です。ある時、まだ社会経験の少ない20歳前半の女性に事務の仕事を案内する機会がありました。ご本人から企業面接を受けてみたいとのことだったので、求人内容を説明し、面接のセッティングを行いました。面接日には私も担当者としてご本人に同行します。企業へ向けての道々、歩きながら就職予定先会社の業務内容や取り扱い商品、企業風土、また同僚になる方々の様子などを含めて説明を行い、そして本人の意思なども再確認していきます。その日もいつも通り話を勧めながら予定通り目的地に向かいました。

ところが、会社に到着したときに、本人が「私、ここよりも、もっと華やかなところで、かっこ良く働きたいんです」と言うのです。面接直前だったため焦った私は、彼女に「今のスキルで、いきなり華やかな職場でかっこ良くは難しいから、まずこの会社で事務の基礎を身に着けてから、次に希望の職場を検討してみたらどうだろう」と提案しました。本人も納得し、なんとか面接に入ることができました。

面接の結果、採用が決まり、本人も就業の意向を示してくれて一安心したのですが、それも束の間、翌日以降、彼女とは連絡がつかなくなり、二度と私の前に現れることもありませんでした。無言での就業辞退となってしまったのです。あんなにしっかりと説明し、本人の同意も得たのに何が原因だったのだろうと、私は悩み、心の中のもやもやはずっと続きました。私の対応に何か問題があったのか・・・。

それから数年たって、キャリアコンサルティングの学びの中にその答えを見つけることができたのです。私が面接直前に彼女に伝えた提案は正論でしたが、彼女の価値観を受けとめてはいなかった。彼女からすると『聞いてくれた人』ではあったが『分かってくれた人』ではなかったのでしょう。分かってくれない人とは関わりたくないというのが彼女からのメッセージだったのだと思います。正論といえども、こちら側の価値観、それを押しつけてはいけないという学びの機会となりました。

いま、私はキャリアコンサルティングの際には、クライアントの価値観を丁寧に聴いていくように努めています。価値観を語るとき、その人ならではの「思い」が語られていきます。この、人それぞれの「思い」を尊重し、それを分かろうと努力します。その人ならではの価値観ですから完全に認識できるものではありませんが、それでも真摯な姿勢を常に心掛けています。

ある時、面談の中で最後まで思いを捉えきれず、面談終了後に、思いを受けとめきれなかったことについてクライアントにお詫びをしたことがありました。それに対して、クライアントからは、面談中、分かろうと精いっぱい努力してくれていることがとても嬉しかったですとの返事が返ってきました。

少なくとも分かろうとしていることは相手に伝わります。『分かってくれた人』にたどり着けないかもしれないけれど、せめて『分かろうとしてくれた人』に・・・、そんな姿勢をクライアントは、「安心できる」と評価してくれているのかもしれません。

竹安英治 (たけやす えいじ)

竹安英治 (たけやす えいじ)

株式会社花絹 代表取締役 キャリアコンサルタント
東京都在住。カウンセリングとともに、仕事に疲れた人を自然環境の中にいざない、森の持つ自然治癒力を活用して、メンタル不調の改善や、モチベーションアップに繋げるための森林浴セラピーを行っている。また心理テストの開発に30年間携わってきた経験を活かして、キャリアコンサルティングの導入部分を支援する小型ロボットを開発。キャリアコンサルタントとしてAI領域への挑戦中でもある。保有資格は、1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー、森林インストラクターなど。適性検査プログラムASK著作者。

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