キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2019年1月号

2019年 年頭のご挨拶

明けましておめでとうございます。

キャリアコンサルタント、キャリアコンサルティング技能士の皆様、また養成講習、更新講習実施団体をはじめとする会員団体、先生方、行政および関係諸機関の皆様には、日ごろより協議会の活動に一方ならぬご支援をいただいておりますこと、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

2018年は私たちキャリアコンサルタントをめぐる環境変化がますます加速化することを予感させる年でありました。AI、生命工学、情報通信技術の進化、はたまた世界情勢,経済状況、人口動態の変化といったマクロトレンドとともに、「働くこと」をめぐる大きな変化が不可逆的に押し寄せていることは多くの方が肌身で実感しているところです。私たちに直接かかわることでは、働き方改革関連法案が本年4月を皮切りに施行され、またキャリアコンサルタントに必要な能力要件も改定されました。一方で初の統一職能団体であるACCN(オールキャリアコンサルタントネットワーク)がスタートします。「働く人」の働き方、生き方を支援する専門家としてのキャリアコンサルタントにとって、今ほどに自らの在り方を深く見つめ直すことの必要性が高まっている時期はなかったように思います。

私が参加しているキャリアカウンセリングのあり方を考える研究会では、「キャリアカウンセリングは20世紀初頭のアメリカにおいて産業革命による産業構造の変化が労働者の生活や価値観を急激に揺さぶり、働くことへの専門的支援が必要になったことに端を発したこと」、そして「キャリアコンサルティングの土台はカウンセリングの理論、技法、倫理であるから、そもそもの成り立ちにおいてキャリアコンサルタントは、社会経済環境の変化によって影響を受ける個人への支援を考える専門的な職能であること」を確認しています。現在進行形で起きている変化が産業革命と匹敵する、あるいはそれ以上のインパクトをもたらすといわれる中で、私たちに求められる支援の質が飛躍的に高まることは言を俟ちません。

一方、社会的期待の高まりを受けてキャリアコンサルタント登録者数は今年度中に4万人を突破することは確実です。制度発足からの2年間で1万人を超える新たな仲間が国家試験合格を経て参入され、なおこれまで以上のペースで新たな登録者が増加していくことが予想されます。この間にもキャリアコンサルタントに求められる役割機能と期待は確実かつ急速に高度化、複雑化するわけですが、私たちの資質が一足飛びにまた一斉に揃って進化することは現実的ではありません。社会からの個々のキャリアコンサルタントへの評価は急速に二極化し、やがて全体としての評判が低下していく危険もなしとはしません。

このような認識に立つとき、ベテランにとってもキャリアの浅い資格者にとっても共通の基盤となるキャリアコンサルティングの本質的な土台とは何かを改めて確認しておくことが、私たちにとって大変重要なことであると考えます。またこのことは、「サピエンス全史」「ホモ・デウス」(ユヴァル・ノア・ハラリ)風に言えば、キャリアコンサルティングの機能と効能をめぐる社会的な共同主観をどのように確立させるかということでもあります。なお以下の議論は、新能力要件ではとりわけ組織へのかかわり機能が強調されているけれど「キャリアコンサルティングは働く個人への対面支援に始まり対面支援に終わる」(花田光世先生)という認識に、その前提をおいています。

キャリアコンサルティングの土台は「対話」である

キャリアコンサルティングとは、クライアントに自らの生きている現実世界と自身の在りように関する自己認知を俯瞰してもらうことで、再び自分を全うに生き、成長することへのエネルギーを充実させて現実を切り開いていくプロセスを、対話を通して実現することだと私は考えています。キャリアコンサルティングのプロセスが対話ではなく一方的な誘導や教唆であれば、それは支援ではなく押しつけをしていることになります。キャリアカウンセリングのあり方を考える研究会では、「養成講習のカリキュラムで対話における受容的態度、他者理解について繰り返し学習するのは、クライアントが自己との対話を促進できるように支援する構えを徹底的に身に着けるためである」ことを、それこそ繰り返し確認しています。

昨年の私の年頭所感では、AIによるキャリアコンサルタント・ロボットと私たちとの仮想比較をしました。少しだけ引用すると、過去データの蓄積から論理的に導かれる結果予測を伝えるAIキャリコン・ロボに対して、ヒューマンキャリコンの対話プロセスは「クライアントとの思考、感情、意思のやり取りによって内容は常に変化し、時間的にも空間的にも自在に展開して予測不能だが、話者同士の意思によってより良い未来へのストーリーと新たな意味や価値が生成的に創造され、互いに腑に落ちる結論の合意に至る」という意味で、AIには「対話風の誘導や助言・指示」はできても「生成的対話」は困難である。したがって私たちがAIキャリコン・ロボに対抗する道は、「対話力」を磨き続けることにあり、これこそがキャリアコンサルティングの本質的な基盤の力ではないかと仮説しました。

 そもそもクライアントが生きている世界が不連続化かつ複雑化し、そこで生じている問題やクライアントの心理的な悩みも高度化、複雑化の度合いを深めるほどに、キャリコン側の経験知だけで提供される問題解決ノウハウや方法論は陳腐化するわけです。もちろんクライアントの生きる世界を理解し、必要に応じてより有効な問題解決ノウハウや方法論をクライアントに提供することは重要であり、私たちはこれまで以上に大きく変化する法律や支援のための情報を確実に獲得し続ける学習は必須です。しかしクライアントの生きている現実を冷静に評価して、そのノウハウや方法論が有効であるかどうかを見極めることなしに、反応的に「こうすればいい」式の方法論提示をするようではAIキャリコン・ロボへの代替が加速する懸念を覚えます。

より有効な「対話」をするためには教養を磨く必要がある

有効な対話を成立させるためには、キャリコンにはクライアントの「ものの見方・考え方」に目を向け、クライアントの認識の枠組みを相対化して言語化する力が必要です。それにはクライアントが生きている世界とその世界認識の在りようを、目の前の対話を通して感知できる現実との対比で冷静に評価し、クライアントにとってその提示が有効かどうかを吟味したうえで賭けることのできる倫理と感情と決断力を備えていなければなりません。そうした力を磨くのに必要なものは「キャリアコンサルタントにとっての教養」ではないかと思います。

教養とは、事象を多面的、多角的に見ることを通して、全体像、文脈の中に今ここに起きている現実を位置づけられる力のことです。情緒的なバランス感覚よりもっと骨太な、現実を直視できる透徹した視点の裏付けがあってこそ「何かおかしい」という感覚的なセンサーが働くわけです。

キャリアコンサルタントにとっての教養とは、古典的な一般教養、哲学のことではなく、またキャリア理論やカウンセリング技法の知識だけでもありません。それらも含めて、キャリアコンサルタント自身の人生経験と世の中で起きている事象、法律、制度、仕組みを、歴史的、全体的視野で離れて見て冷静に現実を評価できる知性こそが求められる教養なのではないかと思います。また冷厳な現実を俯瞰して見ることからは必然的にユーモアの感覚が生じるのではないかと思います。大事なことは、教養は「クライアントがこう話したらこう返すと良い」式のテクニックをいくら勉強しても涵養されないどころか、かえって逆効果になるということです。

キャリコンとしての自分を見つめ続ける姿勢が教養を磨く第一歩

対面で直接的にクライアントを支援する専門家の適性として、人の成長が嬉しいという価値観は最も基本的なものです。クライアントに向き合い対話を重ねることは、決してキャリコンが意図した方向への誘導や操作ではありません。生成的な意味と価値の創造をクライアントとともに成しえたこと、その結果としてクライアントの元気、変化、成長を感じて心から喜べる姿勢と生き方が、この仕事に携わる者としてのベースなのではないかと思います。

もし、自分が他者を操作して変化させることや影響を与えることにやりがいを感じるのであれば、危険だと自覚することです。それは自分がクライアントを変化させたという支配感、有能感への自己満足であって、裏返せばクライアントを素材にしてキャリアコンサルタント自身の自己不信感や劣等感を補償している可能性があることを振り返ってみる必要があります。

\最後に、キャリアコンサルティング協議会は、指定登録機関、登録試験機関、技能検定指定試験機関として行政代行の役割責任を担い、クライアント、国、社会からの高い期待に応えて、一層信頼に足る機関として、今年も最大限の努力をしてまいります。一方、激変する環境の中で奮闘されているキャリアコンサルタント、キャリアコンサルティング技能士の皆様に対するご支援と、質の高いキャリアコンサルティングの一層の普及啓蒙に勤めてまいります。いずれも会員団体の皆様を初めとして、行政、諸先生方、関係各諸機関との「対話」を通して、一層のご支援、ご指導を賜れればこそ前進できますこと。どうか本年もよろしくお願い申し上げます。

キャリアコンサルティング協議会 会長 藤田 真也

キャリアコンサルティング協議会 会長 藤田 真也

キャリアコンサルティング協議会 会長
キャリアカウンセリング協会 理事長

1983年株式会社日本リクルートセンター入社。企業内研修の研究開発畑を歩み、(株)リクルートマネジメントソリューションズ執行役員(管理部門担当)、(株)リクルートエージェント(現リクルートキャリア)監査役等を経て、2014年キャリアカウンセリング協会理事長。2017年より現職。

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