キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2019年1月号

『面接試験「対策」は役に立つのか?』(2ヶ月連載 第2回)

2級キャリアコンサルティング技能士は、安定的にキャリアコンサルティングが行える熟達レベルです。1級キャリアコンサルティング技能士は、いかなる相談者に対しても安定的にキャリアコンサルティングが行えて、事例指導(スーパービジョン)が可能なレベルです。試験は、学科試験と実技試験によって、実技試験は論述試験と面接試験(ロールプレイ)によって行われます。試験を前に、今も「試験対策」に励んでおられる方がいらっしゃるかもしれませんが、でも、もしそれが合格を遠ざけているとしたら...。意外に思う人もいらっしゃるかもしれません。

ロールプレイの中で一番大切なことは、相談者や事例相談者の話をよく聴いて、言葉と気持ちで理解することです。ちゃんと聴いて理解することが大切なのであって、「ちゃんと聴いているように見せること」ではないのです。正しい練習ならいいのですが、「どうしたらいいか」という練習は、むしろ本来の力を発揮できないことになりかねません。

ロールプレイの「練習」の中には、試験の中で「どうしたらいいか」ばかり考えて、「時間配分は?応答の仕方は?質問の仕方は?要約は?情報提供は?」といったことを練習したり、計画したりするものもあるようです。目の前に実際の相談者や事例相談者がいないところでこういった練習をすることは、意味がないばかりでなく、相談者や事例相談者を無視することになるのに、なぜ「練習」に走ってしまうのでしょう。

練習をすることでステレオタイプな言葉遣いが増えます。本来であれば、言いたいことをより正確に伝えることに常に心を砕く必要がありますが、その逆の印象を与えてしまいます。あらかじめ考えておいた言葉や作った表情による応対は、熟達した印象よりも、自分の本当の気持ちや考えを隠す防衛的な印象を与えます。計画されたとおりの進め方は、面談がスムーズに進んでいるというより、相談者や事例相談者を無視して自分の思う通りに進めているという印象を与えます。よく「練習」しているなという印象であって、それは熟達とは無関係です。

また、技能検定の面接試験日程は長期にわたりますので、早い日程で受検した人から、様々な情報を得る努力をされる方もいらっしゃるようです。これも逆効果になりかねない努力ではないでしょうか。事例についての細かい情報を得て事前に検討を行い、ある程度の見通しを持って進め方を計画して、その通りに進めようとする。すると、相談者を理解しようとする姿勢が薄らぎます。やり取りが不自然になります。予定した通りに自分のペースで進めます。結果として、目の前の相談者や事例相談者を無視したロールプレイになってしまいます。

これらの大元には、受検者自身の抱えきれない不安があるのかもしれません。でも、自分の不安を抱えきれない人に、相談者や事例相談者は自分や自分の相談者の人生をゆだねることはできません。

試験の場面であっても、いつもの相談とおなじように、目の前の相談者や事例相談者の言葉、表情、しぐさなどを、全身全霊を傾けて受け止めて、困っていることの本質を理解しようとする姿勢で臨めば、問題をつかめます。それを共有できます。具体的な展開が可能になります。本来のキャリアコンサルティングを行えば、「合格」はついてくるのではないでしょうか。

石崎 一記(いしざき かずき)

石崎 一記(いしざき かずき)

1958年7月埼玉県生まれ

東京成徳大学応用心理学部教授
1級キャリアコンサルティング技能士

平成14年度より現在まで、厚生労働省キャリアコンサルティング研究会委員、同研究会各種部会座長等を歴任。
発達心理学の視点から、働く人の伴走者として幸せづくりのお手伝いをすることに取り組んでいる。What a Wonderful Worldの世界の実現がライフワーク

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