キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2019年5月号

『 キャリアコンサルティングを学び続ける理由 』

私は人材ビジネスに携わって18年余りとなります。2004年にキャリアカウンセラー資格、2009年に2級キャリアコンサルティング技能士を取得しました。2016年に国家資格キャリアコンサルタントに登録しています。私が今後もキャリアコンサルティングを学び続けていきたいという気持ちを持ち続けている原点となる経験についてお話します。本来であれば全体を通してキャリアコンサルティングと表現するべきかもしれませんが、キャリアカウンセラー時代の経験部分はそのまま表現させていただきます。

大学のキャリアセンターで何もできなかった経験

知人の紹介で、ある地方大学のキャリアセンターの土曜半日のキャリア相談窓口を担当させていただきました。資格を取ってまだ1年半位の頃だったと思います。秋の土曜日で時期的に学生の人数もあまり多くないと見込まれたのでしょう。

案の定なかなか相談者も現れず、キャリアセンターを見学し、大学の取組みや特色などを勉強させていただきながら学生が来るのを静かに待つのどかなお昼前でした。職員の方が少しの間席を外され私一人で窓口に座っていたところ、スーツを着た若い男性が窓口にやってきました。明らかに就活中の学生より年齢が上です。相談者は在校生だと想定していた私は少し戸惑いながらも、氏名と入学年度や学部を書く受付票の記入を促すと、彼は30歳手前の卒業生でした。

現在派遣社員として働いている職場から「正社員」の声がかかっているが、気が進まないので相談に来たと言います。大学卒業時には就職はせず、その後アルバイトをしており、何かのきっかけで1年前から現在の職場に派遣で勤務することになっただけで、取り立てて志望したわけではなかったそうです。環境に問題はなく、先輩と呼べる親しい社員もできたと言っていました。ですが、正社員になるのはどうにも気が進まないのです。そして彼はその理由が自分でも分からないと言います。

目の前に座っているのは、少しシャイではあるけれど、健康的で感じの良い青年です。
彼はその大学の中でも優秀な学部の卒業生でした。

彼は前述のとおり卒業時に就職をしませんでした。その当時就職することに全く興味が持てず、周りの学生が動く中、就活もしなかったそうです。現在は派遣社員として順調に働き評価を得ているものの、本人にとってはやりがいがある訳でもなく、ずっと続けたい気持ちもないと言います。
私は彼が何に興味があるのかを質問しましたが、「何もない」と言います。普段どんなことを面白いと思うのか、どんな本を読むのかを尋ねても、これと言った答えは返ってきません。同じようなやりとりを繰り返しましたが、結局私はせっかく相談に来た彼に何の働きかけもできなかったのです。

就活をしなかった彼は在校中にはキャリアセンターを利用しなかったかもしれません。その彼が土曜日にスーツ姿で母校に相談に来たのは余程のことだったと思います。この日彼は「何に興味が持てるか考えてみます」と笑顔で帰って行きましたが、彼にとってキャリアを考える大切なチャンスを私は台無しにしてしまったのではないかと今でも心が痛むのです。

何にも興味が持てない、働く理由も見つからないという相談にただただ困惑したこの記憶は、今も私がキャリアコンサルティングの必要性を考える理由に繋がっています。

スーパーバイザーに救われた

その頃を振り返ると、経験が浅いという自覚がありながらも「資格を取ったのだから、ある程度はできるだろう」という妙な自信もあったように思います。当時の私の指導者は、勉強不足においては厳しく、キャリアカウンセリングに対する考え方にもしっかりとした姿勢を求められる方でした。私は恐る恐るではありましたが、先の経験で自分がどうするべきだったのかを知りたく、逐語録を作成し、指導者のスーパーヴィジョンを受けました。

厳しい言葉や指導を予想していた私に対して、逐語録を読んだ指導者は意外にも開口一番優しいトーンで「たいへんでしたね。難しい人を担当しましたね...。」と労いの言葉をかけてくれました。おそらく経験の浅い未熟な私に太刀打ちできる相談者ではなかったと判断されたのではないでしょうか。その後逐語録から相談者の人物像を掘り下げる指導はありましたが、実力不足を指摘するような厳しい言葉はありませんでした。

スーパーヴィジョンはコンサルタントが指導を受け成長する機会ですが、私の経験からはコンサルタントが受けたダメージ修復の場でもあると感じています。私は自分の力不足を反省しつつもスーパーバイザーに労われたことで、次の機会で自らの至らなかった経験を活かしたいという気持ちに変えることができました。

自分の価値観に気が付いた瞬間

最後にキャリアカウンセリングの練習の場で自分の価値観に気づいた経験です。資格を取って2・3年の頃だったと思います。資格者同志に指導者がオブザーブに付き、よりリアルな心の動きを味わうためにも自分の本当の経験に基づいて練習を行うというものでした。

私はクライアント役を演じる際、数年間遡った自らの転職時の状況を相談内容としました。前職は安心して働ける職場環境で人間関係の悩みもなく、キャリアアップの機会もありました。それでも転職を選択した自分自身を少し不思議に思っていたのです。

転職前の私の仕事はサービス業でした。業務フローが非常にしっかりしており、自分の業務範囲内において後からでも間違いを見つけた場合、すぐに知らせれば最終工程までに必ずフォローされ、お咎めはありませんでした。かつ、どんな形のフォローでリスク回避できたかを知る必要もないのです。リスク回避の方法が先の工程の担当者による顧客へのお詫びであったとしてもフィードバックされることはありませんでした。つまり自分の間違いに自ら気づけば、誰かが必ずフォローしてくれる安心安全な仕事環境だったのです。

練習中キャリアカウンセラー役は私に転職時の状況を振り返らせ、心情を反復し内容を要約するも、これと言った科学反応は起きず、やや不消化な練習となってしまいました。練習後の振り返りでも当事者同志にこれといった気づきがありませんでしたが、オブザーブの指導者から「間違えても誰かが責任をとってくれる仕事ではクライアントは成長できないと思ったのでしょう」と指摘され、なぜ私が転職を選択したのかが少し分かったような気がしました。

私自らは「責任」と言う言葉は使わなかったように思います。ですが、転職を考えた当時のことを聴いてもらい、自分の気持ちに適切な表現に気付くことで、疑問解決の糸口を発見する経験をしました。私が働き続ける上で、おそらく「安心」「安全」よりも「責任」「成長」が重要なのだと気付きました。今でも自分の仕事への価値観を考える時に思い出します。

以上は全て10数年前の経験です。
何度もくじけながらも現在まで継続できているのは、資格を取得したばかりの頃の未熟で未解決な経験が原動力になっているように思います。今回このマンスリーコラムへのリレーエッセイへの寄稿はキャリアコンサルティングを続ける私を知る元上司からのバトンタッチでした。この機会は元上司から私へのキャリアコンサルティングだと受け止めて書かせていただきました。これからもキャリアを考える誰かの助けになれるようキャリアコンサルティングを学び続けていこうと思っています。

滝田  有里子(たきた ありこ)

滝田 有里子(たきた ありこ)

人材ビジネス企業勤務。営業、コーディネーター職等を経て、現在はキャリアコンサルティング業務を担当し、主に働く女性のキャリアアップを支援している。保有資格は2級キャリアコンサルティング技能士、CDA、産業カウンセラー、メンタルヘルス・マネジメントⅡ種。

コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)

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