キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2019年9月号

ジョブ・カードとキャリアコンサルティング

私は現在、ジョブ・カードを利用したキャリアコンサルティングの業務に携わっております。主に職業訓練を利用してスキルアップを図りたい、キャリアアップを目指したいと考えている在職者の方や求職者の方を対象に、ジョブ・カードを利用して、今後のキャリアプランを考えていただくお手伝いをしています。

4年前までは、ITソリューションの販売会社で約40年に渡り、法人営業、販売推進、人材開発、業務企画の職務を経験してまいりました。定年退職まで残り1年と迫ったある日、親しい同僚から"キャリアカウンセラー"という仕事があることを教えてもらいました。その言葉の響きに興味が湧き、早速養成講座の説明会に参加したところ、"これだ!"と感じました。自分の中に足りなかったものやどこかで大切に思っていたものが、キャリアカウンセリングの中に見つかるように思えました。定年後の明確なビジョンが無かった私にとって、それが第二の人生に向けての大きな転機となりました。その後、養成講座に通い、同僚に実技練習を手伝ってもらった結果、定年退職前にCDA資格を取ることができました。そして、定年退職後の2016年から国家資格キャリアコンサルタントとして現在の業務に携わっております。

今回は、普段感じているジョブ・カードのメリットとキャリアコンサルティングをする上での今後の課題についてご紹介したいと思います。

ジョブ・カードを利用するメリット

ジョブ・カードという名称をご存じの方は多いかと思います。ジョブ・カードは厚生労働省が推進する新ジョブ・カード制度の中核を成すツールで、自分自身のことを理解して、将来どのようなキャリア(職業人生)を目指したいのか、そのためにはどうすれば良いのか、を考えるためのシート形式のキャリア・プランニングツールとなっています。私の業務は、このジョブ・カードの作成支援とジョブ・カードを利用したキャリアコンサルティングです。

(ジョブ・カードの書式や制度の詳しい情報につきましては、厚生労働省のHP「ジョブ・カード制度総合サイト」をご覧ください。 https://jobcard.mhlw.go.jp/  )

ジョブ・カードの最大の特徴は「自分の見える化」にあると思います。クライエントはジョブ・カードに自分の経験と学びを書き込んでいく過程で、どのような仕事がしたいのか(興味・関心)、どのように働きたいのか(価値観・こだわり)、仕事でどんな力が発揮できるのか(強み・能力)に気づくことができ、それらを満たせる仕事や自分の目指すべきキャリアの方向についてヒントを得ることができます。また、目指すべき方向が見えてくると、これから何をすれば良いのか(例えば訓練を受講して技能を身につける、資格を取得するなど)を考えることができるようになります。つまり、クライエントにとっては、ジョブ・カードを利用して自分を見える化することにより、必然的に自己理解が進み、自身のキャリアを合理的且つ客観的に考えることができるようになるというメリットがあります。

では、コンサルタントにはどんなメリットがあるのしょうか?コンサルタントは、クライエントが作ってきた又は作成途中のジョブ・カードを基にコンサルティングを行います。「経験の再現*」を促しながら、クライエントの興味・関心、価値観・こだわり、強み・能力にに対する「意味の出現=自分にとっての意味*」を気づいてもらう支援をしていくのですが、本人がジョブ・カードを作成している段階で「経験の再現*」を始めているので、もう一歩踏み込んだ効果的な問いかけをすることができるようになります。また、通常のコンサルティングでは、クライエントの背景にある事柄をクライエントの語りを通してでしか知ることができませんが、ジョブ・カードがあればクライエントの経験や社会的環境に係わる情報を予め把握しておくことができます。結果、クライエントの各要素を「点」ではなく「面」で捉えられるようになるので、論理的できめ細かなアプローチが可能となります。つまり、コンサルタントにとっては、効率的で且つ精度の高いコンサルティングが行えるというメリットがあります。

面談した多くの方から「自分の考えていることや今後の方向性を整理することができた。」、「今まで自分が偶然に選んでいたと思っていたことが、実は繋がっていたことに気づいた。」など、"利用して良かった"とのご感想を頂いております。その実施結果から鑑みても、ジョブ・カードは、キャリアコンサルティングをする上で、クライエントとコンサルタントの両者にとって有益なツールであることは間違いないと思います。

平成20年のジョブ・カード制度の施行と共に広く使われはじめましたが、経済情勢・労働環境・適用範囲などの様々な問題や課題もあり、思いのほか普及していないのが実状です。しかしながら、厚生労働省を中心に委託事業による改革も進められ、現在は新ジョブ・カード制度の基に普及が進んできています。私も現場を担うキャリアコンサルタントとして普及活動に貢献していきたいと考えています。

今後のキャリアコンサルティングの課題

来談者の中には、課題の整理や意思決定の仕方がわからず、キャリアの方向性がなかなか決められない方もおられます。そういう面談者を支援するために、自分自身の論理的思考力・問題解決スキルの更なる向上が必要と考えています。また、固有なニーズをお持ちの面談者も増える傾向にあります。早期退職を選択され再就職に悩む高年齢者の方、心身にメンタルヘルス不調や発達障害のような疾患や障害をお持ちの方、社会環境の影響(就職氷河期世代、両親の離婚等)を受けて思うようなキャリアが積めなかった方などです。どの来談者に対しても、寄り添い支援をしていく強い思いは持っておりますが、特定のニーズに応じた広い知識とスキルをきちんと身につけたいと考えています。

キャリアコンサルタントの更新講習の目的である「知識・技能を継続的な学習によりブラッシュアップし、キャリアコンサルタントとしての資質を保証すること」は、キャリアコンサルタントにとって重要なテーマと捉えています。クライエントから"相談して良かった"と思ってもらえるように、これからも自己研鑽に努めていきたいと思います。

*=私のカウンセリングスキルの基礎となっている「経験代謝サイクル」(JCDAの発案)の説明文の中で使われている用語です。JCDAにご了承をいただき引用させていただきました。

村島 淳一(むらしま じゅんいち)

村島 淳一(むらしま じゅんいち)

1955年生まれ 神奈川県在住

キヤノンマーケティングジャパン(株)において。ITソリューションの法人営業、ITソリューションの販売推進、人材開発、業務企画の職務を経験し、2015年10月に定年退職。2016年よりキャリアコンサルタントとして活動中。現在は、労働局から「訓練受講希望者等に対するジョブ・カード作成支援推進事業」の委託を受けている企業においてキャリアコンサルティング業務に携わっている。

【保有資格】
・国家資格キャリアコンサルタント
・NPO日本キャリア開発協会認定CDA
・メンタルヘルス・マネジメントII種

コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)

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