キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2020年1月号

2020年 年頭のご挨拶

明けましておめでとうございます。

キャリアコンサルタント、キャリアコンサルティング技能士の皆様、また養成講習、更新講習実施団体をはじめとする会員団体、先生方、行政および関係諸機関の皆様には、日ごろより協議会の活動に一方ならぬご支援をいただいておりますこと、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

いきなり個人的な感慨で恐縮ですが、昨年あたりから、私たちが生きる世界を巡る日々のニュースの中に、現実的にも心理的にも簡単に解釈、予測、対処ができない事象が一気に増えてきたように感じています。例えば、

・世界秩序・・・今や世界唯一の社会経済システムとなった資本主義がもたらす格差の拡大は、新たな覇権争いと軍事的緊張を招来しつつあり、少なくともこれからの10年の間に、既存の国際秩序が大きく変容することを強く予感させます。そして資本主義に代わる新たな社会経済システムが登場する見込みは立っていません。

・地球環境・・・日本だけでなく世界中を襲った大規模災害は今後も増え続けると予想されており、2030年までにCO2排出量が0にならなければ地球規模で人類の生存の危機が訪れると専門家は警告します。しかし国家レベルでの合意ができないまま手遅れになるのではないかという懸念を覚えます。

・科学技術・・・遺伝子工学、AI、ロボット工学の驚異的な発達は、様々な障害や不具合を解決する期待が膨らむ一方で、次第に自己目的化して制御不能な段階に入ってしまうのではないかという不安がつきまといます。

・日本社会・・・ラグビーワールドカップの国民的な高揚と一体感の一方で、日常的には同じ社会集団に帰属する同質性への安心が消滅し、それに代わるべき個人間の信頼関係構築に至る成熟した関わりも進化しないまま、急速に不寛容な社会が広がりつつある恐れを感じます。

・社会保障・・・人生100年時代と健康寿命の延びによる「働く期間の長期化」を福音として、社会保障や年金支給ルールの見直しが進められています。もちろんリカレント教育の仕組み整備は必須の政策です。しかしながら、働く能力の格差はますます顕在化し、社会全体に「長生きリスク」への不安が蔓延する心配がよぎります。

ハラリが「私たちは何を望みたいのか?」という問いでサピエンス全史を締めくくっているとおり、私たちはこれまで人類が経験したことのない未来と選択肢に直面する時代を生きていることを実感します。

従来とは異なるテーマに直面する、これからのキャリアコンサルタントとして

キャリアコンサルタントを取り巻く環境に目を転じてみても、私たちは従来とは質的に異なるテーマに直面しています。個別の悩み相談に加えて組織生産性への貢献、発達障害を背景に持つ相談の顕著な増加、あるいは医療や福祉領域での支援、LGBTの方々や外国人労働者への支援は既に始まっている未来です。しかしながら、60歳のクライアントに対して75歳まで(もしかすると100歳まで?)の生き残りと幸福なキャリアライフをコンサルティングするというシーンは、ほとんどのキャリアコンサルタントにとって未知のテーマかもしれません。

国家政策と働く人を取り巻く環境変化を受けたキャリアコンサルタントの最大の課題は「質の向上」です。考えてみれば「質の向上」には、従来の延長線上でさらに対応レベルを上げることと、従来とは異なる次元の新たな問題・課題に対応できる力を身に着けることの2つがあるように思います。経験や専門性のレベルによって異なるでしょうが、私たちすべてのキャリコンが両面での質向上を求められていることは間違いないでしょう。独断をお許しいただけるならば、前者に必要なのは「人」に対する真摯な姿勢と研鑽の努力を継続する意志の力であり、後者に必要なのは「人」が生きることへの知恵とでもいうべき視点なのではないかと思います。

もちろん私には知恵を論じる能力はないので、昨年に読み返す機会のあった書籍の中から、改めて深く首肯した内容をご紹介したいと思います。

「幸せな人生を送る知恵とは、人生においてコントロール可能なことと不可能なことを分けて、コントロールできることに対処し、できないことを前向きに受容して、行動を変えることである。」(「50歳までに生き生きとした老いを準備する」ジョージ・E・ヴァイラント 米田隆訳 2008 ファーストプレス)

人間の精神的・感情的世界が、セロトニン、ドーパミン、オキシトシンといった生化学物質によって制御される生体システムによって決定されていることから、幸福実現のためには人工的に生化学システムを操作することだとする極論があります。しかしながら人間は、「意味の継承(過去の文化的業績の支持、集団、組織、団体を導いて正当性を保存すること)」と、統合(肉体的、精神的な喪失を乗り越えて自己を超越して成長し続ける。自己執着からの解放)」(ヴァイラント)を求める存在なのであって、単に生化学システムロボットではありません。幸福とは「主観的厚生」であり、例えば富は一定水準を超えると幸福が頭打ちになることは周知の事実です。結局のところ、幸福というものが客観的条件と主観的期待の相関関係によって決定されるのであるとすれば、「些細なことを大げさに騒ぎ立てず、逆境をうまく利用する能力(成熟した防衛機制=成熟した適応対処能力)を身に着けること」(ヴァイラント)という「生きる知恵」こそが重要なのだと改めて感じた次第です。

キャリアコンサルティングという仕事の本質は、クライアントが「自分自身、自分が生きる環境、自分と環境との関係」についての理解を深め、個人にとって幸福な人生を主体的に選択することへの支援であると思います。これからの相談場面に登場するテーマを考えるとき、キャリアコンサルタントに一層求められるのは、目の前のクライアント一人ひとりにとっての幸福な人生のための「生きる知恵」を、クライアントと一緒に考えていく姿勢なのだと思います。

そして、そうした姿勢と力を、激変する世界情勢、環境問題、科学技術、社会と経済システムの変化といった同時代を共に生きるリアリティとレスポンシビリティを決して見失うことなく、高め続けていきたいと考えた2020年の幕明けでした。

どうか本年もよろしくお願い申し上げます。

キャリアコンサルティング協議会 会長 藤田 真也

キャリアコンサルティング協議会 会長 藤田 真也

キャリアコンサルティング協議会 会長
キャリアカウンセリング協会 理事長

1983年株式会社日本リクルートセンター入社。企業内研修の研究開発畑を歩み、(株)リクルートマネジメントソリューションズ執行役員(管理部門担当)、(株)リクルートエージェント(現リクルートキャリア)監査役等を経て、2014年キャリアカウンセリング協会理事長。2017年より現職。

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