マンスリーコラム
企業領域でのキャリアコンサルティングに求められる社会的背景
1.はじめに
2021年2月末日現在のキャリアコンサルタントの登録者数は、58,096名となった。
「キャリアコンサルタント登録者の活動状況等に関する調査(独立行政法人 労働政策研究・研修機構、2018年3月)」によると、主な活動の場で最も多かったのも「企業」(34.2%)であり、以下、「需給調整機関(派遣、ハローワーク、転職・再就職支援)」(20.2%)、「学校・教育機関(キャリア教育、キャリアセンター)」(17.2%)と続いているものの、まだまだその存在意義が浸透しているとは言いがたい。
しかしながら、その存在意義はキャリアコンサルタント自身がその能力やスキルを高めると同時に、まだまだ知られていないところに打って出ることが必要だと考えている。
新型コロナウイルスの感染拡大が、働き方そのものを変えることになり、その事によって日常生活も変化し、今後の生き方にも不安を抱えている人が多い中で、ますますキャリアコンサルタントの能力発揮の必要性を感じている。
私は、現在私たちを包んでいる社会環境の変化(とりわけ労働市場)を敏感に感じ、そのことから活動の現場を拡げることができるのではと思っていることから、現在おかれている社会環境について考えていることを述べてみたい。
2.社会環境における課題
私は、現在の社会環境(特に労働環境)において、次の3点が課題だと感じている。
第1は、「終身雇用制・年功序列制の崩壊」である。
「いやいやまだまだ残っているではないか」と思われる方も多いかと思いますが、高度成長期に日本の社会発展を支えてきたのは、紛れもなく「終身雇用制」と「年功序列制」に守られた労働環境があったからこそ、会社や上司の言うとおりにがんばっておれば、生活の安定がある程度補償されたという体制であった。
しかしながら、現在は低成長から抜け出す出口がなかなか見えず、経営者も労働者も模索をしているという中で、これまでの前例踏襲と経験に頼った働き方では持たなくなってきている。
第2は、「少子高齢化の現実」と、医学の進歩による「健康寿命の延伸」である。
団塊の世代の真っただ中である1949年には1年間に約270万人の乳児が出生しているが、その24年後、いわゆる団塊ジュニア世代である1973年には約209万人(団塊の世代の出生数を100とすると、77.4%)、その24年後の1997年には約119万人(同、44.1%)と半分以下になっている。その24年後である今年2021年には、新型コロナウイルスの感染拡大の自粛が影響して、78.4万人と予想されており、「少子高齢化」が一層進むことはまちがいない。
また、一方で、医学が進歩し、健康寿命がどんどん伸びており、令和2年版厚生労働白書によれば、健康寿命(日常生活に制限のない期間の平均)は男性72.14歳、女性74.79歳となっており、これからも伸びることが予想される。
これらのことから、今までと同じように仕事をしていると、当然人手不足となり、仕事の仕方の変更を余儀なくされる。
第3は、「20世紀型の思考の終焉」と「予想できない未来」であるということ。
VUCAの時代と言われるように、想定外のことが次々と起こり、これまで培ってきた経験がその問題解決のために役に立たないということが頻繁に起こっている。これまでは答えがあり、その答えに向けてどう取り組むかということを仕事として考えてきたが、予想される答えも複数あり、またその解決策もいろいろ考えられ、解決する過程の中で、常に試行錯誤が求められる。また、これまで予想もしていなかった自然災害や事故も発生し、本来の業務よりもその解決に時間と労力をとられる時代となった。
これら3つの課題は、何も新型コロナウイルスの感染拡大があったからというわけではなく、その事がなくても起こりうる事態であり、新型コロナウイルスの感染拡大がこれら3つの課題をより顕在化したと言っても過言ではない。
これまでは、企業や上司に従い、他律的に仕事(もしかしたらほとんどが作業)をしていればよかった時代から、これからは、作業はAiやIoTにまかせ、人間は人間しかできない仕事を自律的におこなえる人が求められ、その事を自ら実現しようと努力するところに働きがいや生き甲斐が生みだされるのではないだろうか。
3.高年齢者雇用安定法の改正
そんな時代の最中である2021年4月から「高年齢者雇用安定法」が改正施行された。今回の改正は、就業規則の65歳という年齢を70歳に変えればいいという単純なものではないことをまず理解しておく必要がある。
今回の改正の重要な点は、年齢が上がったということよりも、「雇用機会確保」が「就業機会確保」に変わった点だと認識している。
2021年3月までは、企業は
① 65歳までの定年引上げ
② 65歳までの継続雇用制度の導入
(特殊関係事業主(子会社・関連会社等)によるものを含む)
③ 定年廃止
のうち、どれかを適用し、雇用すればよかった。
しかし、2021年4月からは、努力義務ではあるものの、
① 70歳までの定年引上げ
② 70歳までの継続雇用制度の導入
(特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む)
③ 定年廃止
に加え、
④ 高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
⑤ 高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業に従事できる制度の導入
が加えられ、雇用以外の方法も可能になったということだ。
これは、何を意味するのだろうか。 これまで福祉的雇用といわれた部分を経営側としては解消したいという思いが見え隠れする。
つまり、企業として必要な人財は「雇用」として囲い込む、また一部必要な仕事は「業務委託」としてつないでおくということも可能となる。
高齢者になってから、「あなたはこれからどうする?」といわれても、これまでなかなかそんな判断をしてこなかった者については混乱することとなるので、企業としてもミドル・シニア世代といわれる40歳代・50歳代のころから、これまでのキャリアを棚卸しして、「何ができるのか」「何がしたいのか」を明確にしつつ、必要なリカレントも行いながら、人生100年時代・生涯現役の後半戦をどう活きるか(自分をどう活かすか)ということを考える仕組みを企業が作るか、個人が考えるかをしないといけない時代になってきたのではないだろうか。
そういう観点でいえば、「これまでのキャリアを棚卸しして、これからのキャリアを考える事に寄り添うのは誰か」というと、まさにキャリアコンサルタントの仕事ではないだろうか。
「高年齢者雇用安定法」は、2021年4月からの施行であり、現在は努力義務であるものの、これまでの経緯からいずれ早い時期に義務化されることから、その時になって慌ててその仕組みづくりを企業が行えるものでもない。キャリアコンサルタントとしては、高年齢者雇用安定法を理解し、その活用を提供することで、これまで以上にビジネスの幅が大きく拡がるのではないかと考えている。具体的に検討に入っている企業もまだまだ少数であることから、企業に対しては今からその気づきを持ってもらう中で、その企業にあった具体的な提案を行うことが求められる。
また、高年齢者雇用に関連する次の法律も同じ時期に改正されていることから、併せて理解しておきたい。
*改正雇用保険法(令和3年4月1日以降施行等)
高年齢雇用継続給付の縮小、複数就業先の賃金に基づく給付基礎日額の算定や給付の対象範囲の拡充等
*改正確定拠出年金法(令和4年4月1日以降施行等)
企業型DC・iDeCoの加入可能年齢の拡大、受給開始時期の上限が75歳に延長
*改正国民年金法(令和3年4月1日施行)
特別支給の在職老齢年金の支給停止基準額の引上げ(60歳~64歳支給分)、年金の受給開始時期60歳~75歳の間に拡大
4.さいごに
2016年4月より、職業選択や能力開発に関する相談・助言を行う専門家として「キャリアコンサルタント」が職業能力開発促進法に規定され、国家資格化された。それだけ現代社会にとって必要とされていることはまちがいない。
しかしながら、社会の認知度はまだまだ低い。国家資格を持っているから信頼されて相談されるわけではなく、相談したいと思ってもらえる人が国家資格を持っているということが必要と考えている。
私は、そのためにも自身が研鑽を深めるだけで社会での認知度が高まるわけではなく、勇気を持って企業に入り、企業の経営者の不安や悩みにも寄り添い、経営者も、そこに働く労働者も、ともに希望をもって、個人の成長を組織の発展に繋げることができるようなキャリアコンサルタントでありたいと思っている。
コラムの感想等はこちらまで(協議会 コラム担当)
キャリアコンサルタントのさまざまな活動を応援します!「ACCN」のご案内はこちら