キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2021年12月号

~人生100年時代に向けた採用活動の変化:企業領域の人事職として~

様々な領域でキャリアコンサルタントの活動の場がある中、私は設立50年超の一般企業で、映像音響(専門)企業の人事で活動をしています。人事の職務とは言え、企業によって人事も様々ありますが、私の所属する企業では主に採用、教育、労務管理等になります。ちなみに私は勤続年数35年、人事職に就いて10年を迎えています。

業界の中では珍しく、社員の多くが新卒から入社して長く就業する環境で300名程度の企業になります。主な事業としては企業・大学・商業施設やアミューズメント施設等の映像音響空間設備販売事業とプロモーションやセミナー、エンターテインメント等の各種イベント事業です。

採用時に重視する点は、主体的に物事に取り組む能力や目的に対する課題を明らかにできる力やチームとして取り組む事から傾聴力や柔軟性等も求められます。また、ストレスコントロールも大事になります。

これらは当社にとって長年にわたり変わらない要素になります。

◆職務上の例え(シーン例)

例えを当社の仕事上に置き換えると...

あるイベントが開催されました。
事前準備の打ち合わせがあり、リハーサルがおこなわれ、準備万端で本番を迎えたとします。
ステージ上の進行役は、気分が盛り上がり、予定の時間通りの進行になっていない状況だったとします。
本来は次にA映像素材を使う場面だったが、進行役は自分の話に夢中になりA映像素材の存在を忘れて、次のB映像素材の話を始めました。

機材操作をするオペレータは当然、リハーサル通りA映像素材をスタンバイしていた所に、明らかにA映像素材を忘れていると感じている...

―こんな場面でオペレータは!?―

「上司に電話する?」・「進行役にリハーサル通りにやってください!と本番中に伝える?」

→これでは本番の進行に支障が生じます。
→では、どのような対応が求められるでしょうか?

冷静に進行役の話の展開を察し、B映像素材のスタンバイをして進行役の話の流れに合わせてB映像素材を再生する。

―会場にいるお客様は進行通りに進んでいない事は知らない。

といった場面も生じたりします。

―オペレータの対応が正しいか、間違っているか、誰が良いと判断したのか―

その上記の瞬間、場面で指示がない事や指示が間に合わない場面が生じた際、時に操作するオペレータ自身が判断する事もあります。イベントは演者とスタッフとの一体感によって成立し、演者とスタッフとの信頼関係の上で成り立っているという事なのです。そして、主催者側の「伝えたい」が来場者へ「伝わる」が大切になってきます。
例えの場面で、当社として先に挙げた「求める要素」が活かされると思った方もいらっしゃるのではないでしょうか?

ここまで読んで頂いて既に気づかれた方もいらっしゃるかもしれませんネ。

「社会人基礎力」です。

当社も社会人基礎力は求める要素になります。

◆社会人基礎力―経済産業省より

「人生100年時代」や「第四次産業革命」の下で、2006年に発表した「社会人基礎力」はむしろその重要性を増しており、有効ですが、「人生100年時代」ならではの切り口・視点が必要となっていました。

こうした状況を踏まえ、平成29年度に開催した「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」において、これまで以上に長くなる個人の企業・組織・社会との関わりの中で、ライフステージの各段階で活躍し続けるために求められる力を「人生100年時代の社会人基礎力」と新たに定義しました。社会人基礎力の3つの能力/12の能力要素を内容としつつ、能力を発揮するにあたって、自己を認識してリフレクション(振り返り)しながら、目的、学び、統合のバランスを図ることが、自らキャリアを切りひらいていく上で必要と位置づけられます。

「人生100年時代の社会人基礎力」について

① 考え抜く力(シンキング)→・課題発見力・計画力・創造力

② チームで働く力(チームワーク)→・発信力・傾聴力・柔軟性・情況把握力・規律性・ストレスコントロール

③ 前に踏み出す力(アクション)→・主体性・働きかけ力・実行力

「新たな3つの視点」

・何を学ぶか(学び続ける力「OS」と「アプリ」、マインドセットとキャリアオーナーシップ)
・どのように学ぶか(リフレクションと体験・実践、多様な能力を組み合わせる)
・どう活躍するか(自己実現や社会貢献に向けて、企業内外で主体的にキャリアをきりひらいていく)

◆知らない事を知る機会創り

学生さんにとって大好きなアーチストのコンサートスタッフ、TV番組のスタッフに就くとなると、知っている事は観る側のキラキラした華やかイメージ。当然だと思います。但し、働くとなると実際の現場の状況とはあまりにギャップが大きいと思います。

とは言え、学生さんにとって知っていてそうで...知らない業界・職種となる為、情報提供の機会を大切にしています。

というのも、学生さんにとって就職活動をする際の選択肢を挙げる上では、当然、知っている業界の中から判断をする訳ですから、当社の所属する業界に限らず、知らなかった事を知って、選択肢を増やす事は、この先のキャリア形成に良い影響があるかもしれない。と考えるからです。

キャリアの8割は偶然の出来事によって形成される。18歳の頃になりたいと思っていた職業に就いた人の割合は2%。と米国でのクランボルツ教授等の調査にあると言われています。

私自身、そんな想いを持ち続けて学生さんとの出会い、機会を大切にし、各地の大学・専門学校の合同説明会や業界セミナー、大学の講義への登壇、就職活動生向けの模擬面接等にも積極的に参加させて頂いています。

◆就職希望者に対する対応

就職活動の際のご応募については、学生さんにとって時間をかけて履歴書等の書類を作成する訳です。学生さんご自身のこの先のキャリアに大きな影響を与える就職先となる訳ですから、これまでの学生時代含めた経験等を振り返りの中での経験、強みや持ち味等と当社の職種と接点、学生さんと当社の価値観等の接点や貢献の実感、成長の姿等、より具体的なイメージを持てる職業かどうか...といった事を促し、ご応募いただくようにしています。

そして選考段階では、更に就業イメージ(仕事の内容、仕事をする環境)をより具体的なイメージを持てるような希望職種先の社員との情報交換や、選考の合否に関係ない条件での啓発的経験として社員が指導者になり実際にグループワークとして機材を組んだり操作したりといった事もおこないながら、学生さん自身が感じる仕事理解、環境理解を深めて頂きながら、感じた事等を語って頂き、改めた自己理解を促す事をおこなっています。

こうした選考においてもキャリアコンサルタントとしての関わりは大変重要な事であり、学生さん自身にとって新たな自分発見等にも繋がっていると思います。

こうした取り組みによって不採用になった学生さんにとっても当社に応募して良かったと思って頂けたり、別の企業に入社し当社の顧客になったりする事もあり、個人の人生に微力ながらも関わる事が出来ている事は私自身にとっても幸せを感じ、感謝する機会に繋がっています。

上記のようなスタンスで採用活動に関わる事で、結果として入社社員の定着化の促進、入社出来なかった学生さんにとっての就職活動支援に携わっています。

◆採用活動の大きな変化を迎え

昨年2020年より新型コロナウィルスの出現により当社も大きな影響を受けました。長年にわたる学生さんとの関わりにおいてのスタンスは前提が対面です。対面だからこそ伝わる事...。とは言え、コロナ禍以前から、労働力人口減少・人生100年時代を迎え職業人生の長期化・働き方改革等、職業環境の変化していました。当社は、在宅勤務制度等は無い環境ではありましたが、出勤率を設定し在宅で就業する環境への対応し、採用活動においてもオンラインに切り替えました。

各地の大学・専門学校主催の合同企業説明会や業界セミナー等もオンライン化が進み、提供する企業情報についての問題もなくスムーズに移行する事が出来ました。また、大学模擬面接等においても同様です。

この変化に対して特に気をつけた点は、「対面だからこそ伝わる」事に対して「オンラインでは伝わらない事は避ける事」。また、企業側も不慣れな状況で対応しているが、各大学・専門学校も同様であり、参加する学生さんにとっても同様です。その点には特に気をつけて参加する学生さんの表情、ロールモデルの無い機会に遭遇した事に対する不安には、リフレーミングにより捉え方、別の感じ方に促すよう関わりながら誠実に対応し、画面越しで、表情が明るく変わったり、「うんうん」と自分に言い聴かせるようにうなずく学生さんも居たり、大きな社会的な変化の中で生き抜く可能性を感じ、私自身が感動で涙腺が緩みそうになった事を覚えています。

労働力人口減少、少子高齢化の進展の時代に様々な変化も加わる中で、貴重な宝であり人財です。私自身、企業人事という役割としての責任は勿論、キャリアコンサルタントとして、若年層に対する支援についても出来る限りの力を注いで参りたいと感じた出来事でした。

◆オンライン化による課題

採用活動のオンライン化により実現出来ない事があります。

それは啓発的経験です。当然、入社前に100%の職業理解は出来ないにしても、入社前と入社後のギャップ感を少なくする取り組みは企業として可能と思いますが、実際に一定の理解を深めたとしてもあくまでイメージの世界になります。実際に、体験をする事で個人がイメージしている事との違い等を感じる事がオンライン上だと、なかなか出来ません。その点については私自身の今後の課題と考えております。

「オンライン活用」と「リアルの価値」をあくまで学生さんの未来に活かせる取り組みを模索し、実現に繋げていきたいと考えています。

◆オンライン化による変化

先にオンライン化による課題を挙げさせて頂きましたが、学生さんにとって利点もありました。それは「企業説明会への参加がしやすくなった。」という点です。リアルの企業説明会では交通費をかけて会場に向かう必要がありましたが、オンラインは遠方地に居ても気軽に参加できるという点です。結果、企業説明会の参加者は増えているという事です。

もう1点は、質問しやすくなった。という点です。リアルだと手を挙げて質問をする事を控えてしまうような学生さんもチャットだと次々に質問が送られてくる。職業理解を深める上で、個人の質問したい事は様々です。「こんな質問はしない方がいいかな?」といった遠慮が少なくなったように思います。

◆まとめ

以上のような採用活動を企業の人事として、キャリアコンサルタントとして取り組んでいますが、私自身、気持ちは若いのですが社歴35年という事もあり次世代育成も促進している所であります。

人事として10年、採用に関わった社員数は170名弱になりました。
上記のような活動によってご縁が生まれた社員個々には今後、更に寄り添い、支援、情報提供を通じて変化の時代に向けた生き抜く力、レジリエンス向上、ウェルビーングを高める事により大切な社員を支援し続けていきたいと考えています。

また、ACCN東京支部として"キャリアコンサルタントの社会のインフラにする為にネットワークづくり、実践力の醸成に努める事を目的"として年間で4回ほどイベントを開催しております。ウェルカムイベント・研修会などオンライン開催をしております。参加されるキャリアコンサルタントも様々な経験、領域で活動されております。

A:全ての人が自らキャリアを考え生きる社会を作る
C:生涯にわたるキャリア発達を支援する
C:キャリアコンサルタント自身がキャリア成熟・成長する
N:全てのキャリアコンサルタントがつながり、社会ともつながるネットワークを作る

ACCNに込められた思いを是非、皆様と一緒に実現に繋げたいと思っています。

皆様とお会いできる事を楽しみにしております。

また、最後に私自身が充実した職業生活を送り続けている事に対して、キャリアコンサルタント養成講座時代から支えてくださっている講師の方、ACCN東京支部のメンバー、他多くのキャリアコンサルタントの方々にはこの場をお借りして深く感謝を申し上げます。

また、このような機会をお与えくださったACCN事務局の関係者の方々に対しても感謝し、御礼を申し上げます。

笹本 勝之(ささもと かつゆき)

笹本 勝之(ささもと かつゆき)

東京都生まれ。コンサルティング営業職から人事職に転身し資格を取得。採用・教育・労務管理を担当。
採用活動では求職者向けキャリアコンサルティング業務、各地の大学・専門学校での業界セミナー等への登壇業務、学生向け模擬面接会への参画、研修講師(新入社員・新入社員育成者向)・管理職向他。転職イベント(関東エリア)のキャリア相談員担当。
・国家資格キャリアコンサルタント
・ACCN東京支部支部長
・JCDA/キャリア会員
・一般社団法人 職場のメンタルヘルス支援委員会
・キャリア相談員(転職イベント向)
・プロティアン研究会

コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)

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