キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2023年1月号

2023年 年頭のご挨拶

あけましておめでとうございます。

キャリアコンサルタント、キャリアコンサルティング技能士の皆様、また養成講習、更新講習実施団体をはじめとする会員団体、先生方、行政および関係諸機関の皆様には、日ごろより協議会の活動に一方ならぬご支援をいただいておりますこと、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

さて、岸田総理大臣は、2022年10月の臨時国会で所信表明演説を行い、構造的な賃上げに向け、成長分野で働くための学び直しの支援に5年間で1兆円を投入する方針を表明しました。今後、社会人の学び直しを支援することは、私たちキャリアコンサルタントにとって重要な役割の一つになると考えられます。私たちには、リスキルやリカレントを支えるために、どのような心構えが必要なのでしょうか。

大学リカレント教育

私が勤務しております、筑波大学 国際産学連携本部 働く人への心理支援開発研究センター(東京キャンパス)では、令和3年度より、文部科学省の大学リカレント教育事業を受託しております。令和4年度も、失業および転職希望者を対象に「女性のためのオフィスワークDX推進プログラム【DX(ビジュアライゼーション)×女性活躍】」を実施いたしました。同プログラムは、令和3年度実施のプログラム(「ITスキルを身につけたい人のためのライフキャリア醸成・就職支援プログラム」)をバージョンアップしたものです。コロナ禍で女性の就業は大きな打撃を受けました。令和3年度労働経済白書によると、医療分野などで女性の正規雇用が増加する一方で、宿泊業や飲食サービス業では女性の非正規雇用の労働者が大幅に減少しています。これは、男性の失業者が増加したリーマンショックとは逆の状況です。失業者に対するこうしたリカレント教育プログラムは、単にスキルや能力を高めるだけでなく、改めて社会に向き合うためのリワークプログラムともいえます。

寄り添いサポートシステム

昨年、令和4年度の「女性のためのオフィスワークDX推進プログラム」では、コロナ禍で就業継続が困難になったり、育児や介護などさまざまなライフイベントに影響を受けたりした女性28名が受講しました。中には、発達障害や精神障害などを抱える女性も参加しました。そうした多様な方々にも対応するために、昨年度も好評だった「寄り添いサポートシステム」をさらに強化し、受講継続支援と就職支援を実施しました。

寄り添いサポートの大きな柱は、キャリアコンサルタントによる定期的なキャリアコンサルティングです。本プログラムのために集まった6名のキャリアコンサルタントが受講生4~5名ずつを受け持ちました。受講生は月2回土曜日にキャリアコンサルティングを受け、3ヶ月の受講期間中に計6回、修了後はフォローアップ期間として、希望すればプラス4回、合計で10回のキャリアコンサルティングを受けることができます。また、面談実施後には、その日のうちにキャリアコンサルタント6名とプログラム担当者、心理学を専門とする教員、公認心理師、臨床心理士、1級キャリアコンサルティング技能士等の専門家が集まり「寄り添いミーティング」と名付けた検討会を実施しました。寄り添いミーティングでは、参加者の守秘義務のもと、受講生に関する課題や問題点を関係者全員で検討し対応について議論しました。このように、「寄り添いサポートシステム」は、継続的に、そして多様な受講生を、キャリアコンサルタントと関係者がチーム一体となって支援するという、全く新しいキャリア支援の試みとなりました。

継続的・定期的なキャリアコンサルティングで時を刻む

継続してキャリアコンサルティングを実施していくことで、見えてくることがありました。まずひとつは、相談者の「自己開示」にも個性があるということです。初回の面談では、なかなか自分を見せないクライエントであっても、面談の回数を重ねるごとに、段階的に自己開示をする姿が見られました。関係構築には個人差があり、時間がかかる場合もありますが、キャリアコンサルティングの回数を追うごとに、確実に関係の深まりを感じました。二つめは、受講生ひとりひとりの面談の目的(ゴール)は、全く異なるということです。受講期間中、相談者をとりまく環境は日々刻々と変化していきます。継続的なキャリアコンサルティングでは、さまざまなライフイベントや家庭環境など、その時ごとの背景に、きめ細やかに配慮した面談の目的(ゴール)を、受講生と共有することが重要でした。クライエントとともに時を刻みながら、キャリアコンサルタントが丁寧に伴走していくことで、次第にその関係性が深まっていくことはいうまでもありません。

キャリアコンサルタントとしての成長の場

「寄り添いミーティング」はまた、キャリアコンサルタントがその日の面談を振り返る貴重な場でもありました。自身の対応に迷った時には、心理学を専門とする教員、公認心理師、臨床心理士、1級キャリアコンサルティング技能士から助言を受けることができます。メンタルの問題が顕著に見られた場合には、そうした助言により、キャリアコンサルタントの任務の範囲や役割の限界に対する自覚も促されました。同時に、これらの助言をすぐに現場で実践することで、キャリアコンサルタントの学びと成長も一層促進されたように思います。参加したキャリアコンサルタントからも、「たいへん貴重な学びでした」「またとない自己研鑽の機会をいただきました」との声が多数寄せられました。こうして、どのような意思決定であっても、クライエントの意思を尊重し、一人一人の受講生をチーム全体で支援していこうとする「寄り添いサポートシステム」は、次第にブラッシュアップしていきました。

寄り添いサポートシステムの目指すキャリア支援のあり方

本プログラムの受講生は、やむなく失業したり、職場で思わぬトラブルに遭ったり、あるいは、長い間、思うような仕事に就けず迷いながらの受講だった、という方がほとんどです。人はこうしたトランジション(転機)に直面すると、誰もがとても苦しく感じます。しかし、その苦しさが「自分だけではない」ということを知ることで、変われるのかもしれません。人間には様々なライフイベントがあり、とくに女性はその影響を大きく受けがちですが、どのような場面であっても「自分の生き方は自分で決める」ことが大切です。このことを忘れないために、受講期間中は、職業や人生についての学術的な知見を取り入れながら、自律的なキャリアデザインの考え方を様々な角度からアプローチしていきました。

・自分の適性をどのように考えればいいのか
・キャリアに関する意思決定はどのようにすればいいのか
・環境に適応するための力とはどのようなものか
・年齢に応じた発達段階とはどのようなものか
・転機をどのように捉え対処すればいいのか

受講生は、講義、グループワーク、個人ワーク通じて、自分自身の悩みや困りごとを分かち合い、他者と自分との共通点や相違点を整理していきました。また、実際の就職活動での実践やキャリアコンサルティングでの対話など、他者からの励ましやフィードバックを得て、メンバーの特性や持ち味を最大限に活かした相互補完的な仲間が一体となり、お互いに学びの質を高め合うグループダイナミクスが生まれたようにも思います。

このように、面談だけでなく、より多角的に個人のキャリアに関わろうとするのが「寄り添いサポートシステム」の目指すキャリア支援のあり方です。

人生が変わる瞬間に立ち会う喜び

本プログラムは2年目の取り組みでしたが、令和3年度は30名が受講し男性も5名いました。10代から50代まで、幅広い年代が集まりましたが、「普段話せない年代の人と交流できて楽しい」といった声が多く、異世代交流の重要性を感じました。また、「人生を賭けてきました」という50代男性もいて、何かを変えたい、という強い意気込みを感じました。さらには、家庭の事情により高校を中退しアルバイトをしていた10代の男性が参加していましたが、本プログラム修了後、IT会社に正社員として就職をしました。「人生が変わりました」と、はにかみながら話す彼のスーツ姿を目の当たりにした時には、さすがに目頭が熱くなりました。

多様性や個別性に向き合う、真のキャリア支援とは

100人いれば100通りの人生があります。そうした個別性に向き合うことが、どれほど意味のある支援につながったのかということを、プログラムを終えて痛感しています。学びに終わりはありません。人が生涯発達し、学び続ける限り、キャリアコンサルタントの役割もまた、ますます広がっていくに違いありません。私たちに今、求められているのは、相談者おひとりおひとりの人生そのものに向き合い伴走していく「ライフキャリア支援」なのではないでしょうか。

最後に、キャリアコンサルティング協議会は、指定登録機関、登録試験機関、技能検定指定試験機関として行政代行の役割責任を担い、クライエント、国、社会からの高い期待に応えて、一層信頼に足る機関として、今年も最大限の努力をしてまいります。一方、激変する環境の中で奮闘されているキャリアコンサルタント、キャリアコンサルティング技能士の皆様に対するご支援と、質の高いキャリアコンサルティングの一層の普及啓蒙に努めてまいります。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

キャリアコンサルティング協議会 会長 岡田 昌毅

キャリアコンサルティング協議会 会長 岡田 昌毅

筑波大学人間系教授
人間総合科学学術院カウンセリング科学学位プログラムリーダー(2020年4月~現在)
国際産学連携本部働く人への心理支援開発研究センター長(2019年4月~現在)
キャリアコンサルティング協議会会長 (2021年6月~現在)
産業・組織心理学会会長(2019年4月~2022年3月)

新日本製鐵株式会社(現、日本製鉄株式会社)、
新日鉄ソリューションズ株式会社(現、日鉄ソリューションズ株式会社)に
おいて、電気設備技術者、人材育成担当を20数年間経験。
2000年筑波大学大学院教育研究科カウンセリング専攻カウンセリングコース、
2007年名古屋大学大学院教育発達科学研究科心理発達科学専攻修了。
博士(心埋学)。専門は「キャリア心埋学」「キャリア・カウンセリング」。

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