キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2023年6月号

キャリアコンサルティングと学童野球

地域の小学校の軟式野球チームのコーチをボランティアで始めてから15年が経ちました。その間、様々なことがありました。一時は、メンバーが少なくなり、存続の危機を迎えたときもありましたが、何とか現在は、メンバーも増えて、チームとして存続できるようになっています。コーチを始めるきっかけは、長男が小学3年生のときに野球を始めるから一緒に練習に参加したことからはじまりました。当時は、父親として子供と一緒に軽く体を動かし、健康のためにも良いかなと、軽い気持ちで始めたのでした。いわゆるお父さんコーチとして30年位のブランクを経てグローブ、バットを持ったのでした。

一方で、キャリアコンサルティングの世界は、動きが活発でしたが、まだ、キャリアコンサルタント資格は国家資格ではありませんでした。団体の認定資格がいくつか存在していて、国家資格化の流れにあるという状況だったかと思います。個人的には、資格を意識することはなく、キャリアコンサルティングに関する知識の必要性については、実務上、どうしても必要とされていた知識であったために学び始めていたという状況でした。キャリアコンサルティング技能士の検定が整備されていて、技能検定を実務経験者として受検しはじめたタイミングでした。キャリアコンサルティングとの出会いは、人材ビジネスで出会う求職者との面談のために必要な知識だったからでした。私は、25年ほど前から民営職業紹介事業者、いわゆる人材紹介会社で転職支援をビジネスにしているキャリアアドバイザーをしています。
1990年代のバブル景気の崩壊後に中高年の希望退職者、早期退職者の方々が転職市場に増え始めるのと同じタイミングで、人材紹介事業のキャリアアドバイザーとなりました。思えば、私のキャリア支援は、定年を前にした希望退職者、早期退職者、中高年の転職支援の歴史と同じ歩みです。中高年の再就職支援の歴史と自分自身のキャリアコンサルティングの歴史がほぼリンクしています。

定年を迎える前に退職を勧奨される早期退職制度が、広く社会では一般的になっていきましたが、中高年の再就職支援を実際に取り組むと、様々な課題を社会に顕在化させていったのだと感じています。私自身は、人材ビジネスに身を置きながら、いかにして中高年で、大企業出身者の方の再就職を成功させることができるか、実務で真剣に取り組んでいました。若年層の人材流動化は、ますます活発化して、若年層を対象とした人材ビジネスは、年々盛り上がりを見せていましたが、中高年の再就職支援は、苦労することが多く、それに取り組む営利目的の人材紹介事業者は、ほぼ皆無でした。アウトプレイスメント業界は、現在も盛り上がっていますが、実際に企業への橋渡し役を担うハローワークは別にして、民間の職業紹介事業者として、あえて中高年の再就職支援に乗り出す事業者は、ほぼありませんでした。中高年の再就職を成功させるためにはどうすればよいのか。それから、まもなくして、その解決の糸口を見出すことができたのは、キャリアコンサルティングそのものでありました。

中高年の再就職の成功を実現するためには、個人が自律してキャリアを自らがデザイン、再構築、再構成し、自己理解を深めること、まさしく、キャリアコンサルティングです。言うのは簡単で、実行が難しいのですが、自らが自らをキャリアコンサルティングできれば、再就職は、自分がイメージしていたものにすることができます。その自己理解を深める支援と、自らキャリアデザインできるように支援することをキャリアコンサルタントが担うことで、中高年であろうと、若年層であろうと、誰であろうと再就職は成功すると思います。

話は、小学生の野球の話に戻ります。コーチを始めてから4年で長男は小学校を卒業、3年年下の次男が野球を始めていましたので、私はそのまま次男の学年のコーチを継続しました。そのころが、私が所属していたチームの子供の数(選手の数)がピークを迎え、段々と新入部員が少なくなり、子供が徐々に減り始めたのでした。その後、チームは、数年で新入部員が激減し、単独チームでは、試合ができない人数となり、他校のチームに加わり、合同チームとして活動しなければならい状況となりました。なぜ、小学生の野球人口が減ってしまったのか、原因は一つではなく、いろいろな要因が考えられますが、コーチの指導方法に子供たちが着いてゆけず置き去りになっていたことも一つの要因だったと感じています。コーチは、成長した大人で、指導方法に変化はありませんので、子供たちのほうが今までの子供とは違う感受性をもっていたのではないでしょうか。特に小学生の野球の指導するコーチは、素人の指導者で、精神論で指導する場面も多かったと思います。今、思えば、虐待しているのではないかと思われるような怒号、罵声がグランドにとどろいていたこともありました。上手にできない子供に「なんでできないんだ」と問うたところで、子供たちは、まったくコーチが言っている意味が分からなかったと思います。ちょうど、子供達の内面も変わっていく時代の変換点だったのかもしれません。子供たちの意識を変えているのは何か?と思うと、それはそれで一つ論文が書けそうですが、いずれにしても子供の考え方も変化しているのは間違いないことでしょう。
指導が厳しいチームに、子供を預けたくないと思う保護者の方の意識も変化していったのだと思います。スポーツの指導の在り方が変化している時代に、私が所属していたチームは変化に対応できずに、少子高齢化、スポーツの選択肢が増え、習い事の多様化で、野球人口が減少したのだと思い込んで、コーチングを変えなければならなかったのに変化を嫌い、部員の子供の減少に歯止めをかけることができませんでした。そのころのコーチは、自分自身も野球で厳しい練習を経験し、その練習を乗り越えた人、もしくは野球以外のスポーツでも、かなりハードワークして大人になった、父親になった人が多く、自分の子供にも自分が受けてきた指導方法と同じやり方で、野球を教えていました。子供は、その親とは違う環境で育ってきたことを理解していなかったのだと思います。

キャリアコンサルティングを実務者として経験を積んでいくと、当たり前といえば、そうなのですが、相談者が、年代の違いによって、仕事に対する考え方が様々で、勤務する会社により仕事への価値観や大切にしている思いの醸成のされ方が違っているなと感じることも多々ありました。大人は、自分が所属する組織の考え方や仕事を通じて、子供は親や学校生活を通じて、自律した個人として様々な価値観を育てていくのだと思いますが、社会の変化により、個人も価値観を変化させ、社会、自分を取り巻く環境に適応しようとします。
この3年のコロナ禍で、まさしく、社会の変化に適応しながら、人は自律した個人として社会生活を送っていますが、変化のきっかけは、様々で、いろいろなことが個人に対しても起きる。想定していなかったことが起きる。でも、それに対応する術を身に着けていなければ生き残れない。変化に対応する術は、キャリアコンサルティングそのものなのだとあらためて感じています。

2000年以降で、パーソナリティも多様化、働く人たちの価値観も大きく変化している時代であったのだと感じています。中高年だろうと、若年層であろうと、大学生でも、小学生でも、その小学生の親も、会社の環境、組織の環境が変化し、その変化に対応すべく個人も変化に適応していく。
働いている人、そうでない人でも、自身の中にキャリアアンカーや、内的キャリアを形成しなければ、多様性により適応しにくい社会環境になってしまったのかもしれませんが、自身の内面に寄り添うことは、自分と社会との関係性とのバランスをとる意味でもとても有益なものではないでしょうか。個人の思い、価値観を大事にすること、特にキャリア形成支援の際によく使用される考え方「Will」「Can」「Must」の各部分を自己の中で整理し、自己理解していることで、キャリアデザインは明るいものとなると実感しています。

今では、おかげさまで、学童野球チームの子供達が増えはじめています。チームの再建を託されて、どうすればよいのか考えたときに、やはり役にたったのは、キャリアコンサルティングの考え方です。キャリアコンサルティングを学んできたおかげで、チームを再建することができました。今まで以上に子供の自主性を大切にしよう。保護者の方には、子供がやりたいことに気軽に参加できるような施策を考えて、スポーツに取り組みやすいようにしてアピールしていく。当たり前のことを言っていると思われるかもしれませんが、あえて口に出すことはしませんでしたが、キャリアコンサルティングの考え方で、ステークホルダーの人たちとコミュニケーションをとること、子供達とコーチとの関係性は、上下の関係ではなく、同じ立ち位置で、コーチは子供の成長を見守ること、個人の成長に歩みを合わせることなど、相談者と面談するときと同じように考えて組織も少しずつ変化しました。保護者の方々、親子さんの取り巻く環境を理解し、他者を理解しようとすること。コーチ達にも広い意味でキャリアコンサルティングの考え方を取り入れて、子供達を、まずは一人の人間として、最大限の尊厳をもって接していくことを意識することにより、子供達がのびのびと野球に取り組む様子が増えてきたように感じます。野球、スポーツもWillを大事にして、Must をできるだけ少なくして(もしくは、バランスを保つようにして)、Canの実感を高める。運動やスポーツを初めて取り組んで大事なことは、Canを意識させるようにして、その喜びを実感することだとあらためて感じています。それぞれ活用の仕方は、キャリアコンサルティングと若干違うかもしれませんが、本質的なところは同じではないかと感じています。社会に必要とされるスポーツ団体であれば、存続することを周囲が許してくれるのだと思います。

中高年のキャリア形成支援も同じかもしれないと考えるようになりました。中高年は、Must を強く意識していますが、それは、一旦意識から離して、Canを再確認し、自信を取り戻していく。そこからあらためてWillを考えてみる。必ずしもWillはすぐには見つからないかもしれませんが、Willの存在を心の奥に隠すことをせず、存在自体を認める、存在を受容することで、次の一歩を踏み出すことができるような感じがしています。個人が働く意思があれば、仕事と巡り合うことができて、社会になくてはならい存在として必要とされる。

自律したキャリア形成を支援するキャリアコンサルティングの考え方は、年代や年齢は関係なく、子供に対しても変わりないのものだと思います。個人を取り巻く環境がどうなっているのか理解して、情報提供、助言することもキャリアコンサルタントの大きな役割ですが、社会の変化はもちろんのこと、個人を取り巻く環境がどのように変化しているか、キャリアコンサルタントは、あらゆる領域で、理解する努力を怠れない。個人の変化に対しては、コミュニケーションをとりながら感じ、理解しようとする。(そうすることで面談は、すべて違う会話となり、キャリア形成支援の糸口が見えてくる)すべての人とのコミュニケーション時に、キャリアコンサルティングの手法を取り入れることで、有意義なコミュニケーションができるものと考えています。

キャリアコンサルティングは、あらゆるコミュニケーションの場面で役立つもので、問題抽出、課題解決の糸口になる。キャリアコンサルティングを学習することは、個人の社会生活のすべてに領域において役立つもので、私たちの他者との関係性、取り巻く組織や環境との関係性をより良いものできるものであり、社会にとって有益なものです。決して大袈裟な話ではなく、明るい未来につながっていくものだと確信しています。
<終>

佐々木 新吾(ささき しんご)

佐々木 新吾(ささき しんご)

2級キャリアコンサルティング技能士
ACCN北関東支部

大学卒業後、IT技術者派遣会社に就職。求人媒体発行出版社等を経て、民営職業紹介事業者のキャリアアドバイザーとしてキャリアコンサルティングに22年携わる。就職・転職・再就職には、相談者の自己理解がカギであるとの認識から、キャリア理論を自己理解の観点から研究。2019年に独立。現在、NPO法人日本キャリア・カウンセリング研究会のキャリアコンサルタント育成プログラムの企画開発事業に参画。大学生のキャリア教育、体育会系学生の就活支援プロジェクト等にかかわりながら、企業の外部契約コンサルタントとしても活動中

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