キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2023年9月号

【 言葉のチカラ 】

皆様、「キャリアコンサルタントに求められるもの(読み物編)」(注)をお読みになられましたでしょうか?
本書を読み、一番心に残った言葉は、「すべてはクライアントのために」です。
キャリアコンサルタントは、人の人生に深く関わる仕事であり、発する言葉一つ一つがクライアント(以下、CLと記す)の人生に影響を及ぼすものであると思います。ですから、言葉選び、発するタイミング、伝え方が、目の前のCLの役に立つことなのか?ということを常に深く考えることが大切であると思います。今回コラムを書かせていただくにあたりテーマに悩みましたが、常日頃から自身が意識していることは、「言葉を大切にしていること」であると思い、壮大なテーマではありますが「言葉のチカラ」について、書かせていただきました。

私は、大学卒業後、電気機器メーカーで勤務し、現在は総合人材サービス会社で働いております。主に、派遣社員及び自社従業員のキャリア相談に従事しておりますが、同じ相談内容は一つも無く、それ故パターン化した対応は一切通用しないと実感しております。話を聴いた時の自身の受け止め方、表情、選ぶ言葉、その言葉を発するタイミングにより、相談者の表情や仕草、発する言葉がみるみると変化していきます。「言葉」は、勇気づけにもなったり、意に反し相手を傷つけてしまうことになったりします。一瞬でプラスにもマイナスにも転じてしまうことになるので、常日頃から「言葉選び」にとても気をつけております。

これまでの人生の中で、特に印象深く自身の人生に大きな影響を与え、心の中にある言葉があります。

それは、ご就業中のスタッフの方からいただいた「あなたが私の最後の担当者で良かった。」という言葉です。現職に入社し5年目を迎えた頃、初めての支店異動があり異動先で派遣スタッフ120名の方々の引継ぎを行いました。短期間での引継ぎと馴染みの無い土地での仕事は、私にとっては大変なものでした。担当させていただいたスタッフの方々の中に3回り近く年齢の離れた方がいらっしゃいました。
面談時、その方は仕事量や人間関係について、ご自身の体調について、いろいろとお話をしてくださいましたが、当時の私は、ただただ話を聴くだけで精一杯でした。年代が違い過ぎて、何を話したらいいのかわからない、異動直後により土地勘も無く、共有できる話題もなかなか見つけられない・・。ましてや人生の大先輩に対して、仕事や職場環境、人間関係のアドバイスなんて、とんでもない・・と思っていました。ですので、面談時はいつもその方がお話をして、私がずっと聴く、というスタイルでした。
時には、1時間半ほど面談をしていたこともあります。面談を終えた後、「このような面談で良かったのかな・・?」と思うこともありました。ある時、その方から「実家のある郷里に帰ることになり、40年間の派遣社員での就業を卒業することに決めました。」とご連絡をいただきました。最後のご挨拶の際に、「40年の間、営業担当が何人か変わったけど、あなたが私の最後の担当者で良かった。私のとりとめのない話を一切遮らず、いつも最後まで聴ききってくれて、受けとめてくださったのは、あなただけです。」と仰ってくださいました。私としては今の私はひたすら聴くことしかできないし、何も力になれていない、と思っていたので、その言葉をいただいた時、涙が溢れました。そのような言葉をいただけるとは思ってもいなかったので、驚き、戸惑い、そして純粋に嬉しい気持ちでいっぱいの涙でした。こんな素敵な言葉を自身に伝えてくださる、その方の人間性の素晴らしさに感動いたしました。郷里にお戻りになられてからは、年賀状や季節のご挨拶のお手紙などでやりとりをしておりましたが、ある時、「地元で相談業務の仕事に就きました。人の話を聴くのって大変ですね。難しさを痛感しています。当時、私の話はとっちらかっていたので聴くのが大変だったでしょう...(笑)でも、本当にありがとう!感謝しています。」とご連絡をくださいました。遠く離れたところにいるその方を想うと、どこか懐かしげで、だけどとても近い・・。なんだか、心がほっこりと温かな気持ちになったことを鮮明に覚えています。

この経験をしたことにより、私の人生が大きく変わりました。キャリアコンサルティングについて学びはじめ、「目の前のCLを尊重し、聴かせていただく、教えていただくという気持ちを大切に、CL理解に努めることが重要」であることを先生方から教えていただきました。学びの中で当時を振り返ると、何もわからなかったからこそ、無心に話を聴くことに徹することができ、その方を理解するためにわからないことは素直に訊き、教えていただく、ということをしていたのだと思い、間違ったことはしていなかったんだ、とホッと胸を撫でおろしました。もし、この経験が無かったら、さほど年齢が離れておらず、且つ、似通った経験をしている場合、自身の経験談の話をしたり、アドバイスや助言をしていたかもしれません。ともすると、悩み苦しみの渦中にいる方に対し、置かれている状況・気持ち・考え・捉え方を充分理解しないまま、自身の経験則をもとに解決方法について提示したり、価値観を押しつけてしまっていたかもしれません。この方との面談は、とても貴重な経験だったと思います。そして、いただいた言葉はいつも心の中にあり私の原動力となっております。あらためて、人は人との関係性により成長していくものだと実感いたしました。

現在、日々面談を行っておりますがCLの「言葉になっていない声」をどこまで聴くことができていたか?
表面的に言葉を受けとめてしまっていなかったか等を考えます。また、自身の発した言葉を、CLはどのように感じ、どう受けとめているのかを確認していくこともCLを深く理解するためにとても重要なポイントだと思います。また、キャリアコンサルタントは、自身の面談の傾向(クセ)を深く認識する必要があると思います。CLが発する言葉に対し、ついつい言ってしまう言葉や対応の仕方など、傾向には物事に対する捉え方や考え方が影響しています。自身で気づいていることもあれば、まだ気づいていないこともある。だからこそ、定期的にスーパービジョンを受け、スーパーバイザーに面接のプロセス全体を見ていただき、自身の傾向(クセ)や課題についてご指導いただくことがとても重要になります。自身も定期的にスーパービジョンを受けており、CLの役に立つことができるキャリアコンサルタントになれるよう自己研鑽をしております。

CLの世界を知り、理解するためにはやはり「言葉のチカラ」は偉大なものであると思います。
CLが発した言葉、あまたある言葉の中から、なぜその言葉を選んだのか?キャリアコンサルタントは、探求していく必要があるのではないかと私は思います。CLの世界観がそこにあり、ご自身が置かれている今の状況や気持ちを表す言葉を探し、キャリアコンサルタントに理解してもらいたいから、その言葉を選んで発してくださっていると思います。だからこそ、我々キャリアコンサルタントは、その言葉を丁寧に大切に受けとめ、その言葉の背景には何があるのか?を考え、わからないことは素直にCLへ訊いていく、そして、CLが発した言葉を深めていく必要があるのではないでしょうか。

「言葉のチカラ」を信じ、キャリアコンサルタントとしてクライアントのためにより良い支援ができるよう、これからも自己研鑽を行い、自身の学びの旅はずっと続いていきます。是非、皆様からご意見やご助言をお寄せいただけたら幸甚でございます。


(注)「キャリアコンサルタントに求められるもの(読み物編)」編集・発行 特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会
https://www.career-cc.org/book/book4.html

菊地 かほる(きくち かほる)

菊地 かほる(きくち かほる)

【略歴】
ACCN神奈川支部 副支部長 /大学卒業後、電気機器メーカーに勤務。
その後、総合人材サービス会社に勤務し現在19年目。
求人・求職支援全般業務。ご就業中のスタッフの方々のキャリア面談及び従業員の後進育成やキャリア形成支援に従事。社内外の研修講師など。
外部活動では、キャリアコンサルタントの普及・育成活動として勉強会の主催や、キャリアコンサルタント養成講座でアドバイザー業務に従事。また、アスリートのセカンドキャリア支援業務に携わる。

【資格】
・2級キャリアコンサルティング技能士
・国家資格 キャリアコンサルタント
・GCDF-Japanキャリアカウンセラー
・アスリートキャリアコーディネーター 認定
(SCSCキャリアセンター相談員)

コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)

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