マンスリーコラム
今、若者が目指す新しい職業 ~ 若者の働くことへの価値観の変化を背景に ~
「YouTuberになりたいので学校を辞めます」昨年まで勤務していた専門学校での出来事です。放課後、相談があるという学生を教室に残すと、申し訳なさそうに話し始めた第一声がこれです。「話がある」と学生の方から言われた際は、十中八九、良い話ではないので、こちらも授業準備の時間を削って、大至急、周りの友達にヒアリングしたり、話題にあがりそうな情報をネットで調べたりして、準備をして臨みます。その上で、YouTuberになりたいと思うに至った経緯や学校を辞めなければならない理由、そこに見え隠れする仕事や人生への価値観などをキャリアコンサルタントとしてしっかり傾聴します。また、学校を辞めるという理由には、往々にして友人関係のトラブルや勉強への興味の低下、学業不振などがあります。しかし、その点を本人が言いたがらない、さらには、自覚していない場合もあるので、本人が言語化していけるよう丁寧に支援していきます。この学生の場合は、そういった支援を経て、学校と両立しながら、動画を撮る方法を一緒に模索していきました。
以上、放課後の1コマから話を始めさせていただきました。読んでくださっている方の中には、突然の話の展開に少々戸惑っている方もいらっしゃるかもしれません。今回、マンスリーコラムを担当させていただくにあたり、読んでいただく方にお役に立てることは何か?という観点から考えてみました。
私は、キャリアコンサルタントとして活動を始めて12年目になります。そのほとんどを専門学校での就職支援に充ててきましたので、そこでの体当たりの経験をご披露しつつ、若者の働くことへの価値観を私なりに言語化してみたいと思います。若者の支援に携わっていらっしゃる方、企業の人事・採用担当の方、若者世代を部下にお持ちの方などにとって、少しでもお役に立てればと思います。また、今回は、できるだけ客観的なデータも取り入れながら、独りよがりにならないようにまとめたつもりですが、想いがあふれて偏見に満ちた表現もあるかもしれません。コラムということでご容赦いただけますと幸いです。なお、文中には学生と若者という言葉が混在していますが、どちらも16歳~22歳前後の高校生~大学生を想定して使用しています。
さっそくですが、YouTuberが東洋経済新報社の業界地図の巻頭に「注目業界」として掲載されたのは、2022年版でした。この中では、YouTuberの種類や収益源、所属事務所、人気ランキングなどが紹介されています。小学生に大人気のHIKAKINも所属する日本最大のYouTuberマネジメント事務所UUUMを筆頭に、吉本興業や電通、丸井といった大企業も出資や提携といった形で業界に参入しているようです。このページに掲載されているのは、あくまでもマネジメント会社ですので、プレイヤーとしてYouTuberになることとは異なりますが、業界が形成され、認知された象徴という意味で、この掲載は、非常に印象に残っています。YouTuber以外にもテクノロジーの進化を背景に、総合格闘家やプロゲーマー、プロブロガー、トレーディングカードバイヤーなど、(これらは全て私が学生から仕事の選択肢として相談されたことのあるものです)私が就職活動をしていた頃には存在しなかった職業が若者の選択肢になってきています。
さて、若者の価値観を理解するために、1組の人気YouTuberに焦点を当ててみたいと思います。YouTuberに憧れる学生たちの口からいつも名前が出てくる「コムドット」という5人組のグループYouTuberです。学生たちと面談をするたびにこの名前が出てくるものですから、私は、一時「コムドット恐怖症」を発症しました。コムドットをご存じない方のために、少しご紹介すると、2018年の結成以来、"地元ノリを全国へ"、"放課後の延長"をスローガンに掲げ、2022年12月末にはチャンネル登録者数400万人を突破。YouTubeの枠を超えて、アパレルブランドの立ち上げや写真集・書籍の発売、地上波CM出演、深夜のフジテレビ系で冠番組開始、今年7月には、東京ドームでのイベント開催なども果たしています。まさにYouTuberとして大成功を収めた彼らは、彼らが20歳の時にYouTubeを始めたこと、当時リーダーのやまとが上智大学に在学していたことなどから、偏差値帯を問わず学生から支持を集めていると感じます。
しかし、学生たちが最も共感しているのは、"地元ノリを全国へ"というスローガンです。リーダーやまとが書いた著書「聖域」から彼のメッセージを一部抜粋してみます。『「地元ノリ」とはいつものメンバーとやる遊びや、ゲーム、特殊な掛け合い、これらはもちろんなのだが、僕が本当に全国に伝えたいのは、生き様だ。(中略)当たり前のように女性に車道側を歩かせないスマートさや、友達の卒業式に駆けつける仲のよさや、お互いの夢を応援しあえる熱さこそ、僕たちの地元ノリであり、それを全国に轟かせたいのだ。』
この文章に、みなさんは、どんな感想を持たれたでしょうか?自分たちの価値観にこだわることに賛否はあるとは思いますが、私は、今の若者の心情、生きることへの想いを代弁する言葉にあふれ、彼らを理解するきっかけになりました。
前述したYouTuber、総合格闘家やプロゲーマー、プロブロガー、トレーディングカードバイヤーなど若者たちが憧れる職業には、以下3つの彼らの価値観が反映されていると私は考えています。①自分の価値観を大切にし、好きなもの、得意なことを活かしたい。②自分の努力や成果を直接的にすぐに評価されたいし、収入や名声などの報酬を得たい。③SNSでの発信や交流が当たり前。コミュニティの中で自分の存在感や価値を高めたい。この3つは、ある意味人間的で、私たち世代が自分の気持ちに蓋をしてきたものなのかもしれません。
2023年1月にリクルートマネージメントソリューションズが発表した「2023年新卒採用 大学生の就職活動調査」の結果にも上記と類似した学生たちの価値観が表れていますので、ご紹介させていただきます。内定承諾の最終的な理由に関して、「自分のやりたい仕事(職種)ができる」が15.6%で第1位。「希望の勤務地に就ける可能性が高い」が11.6%で第3位、いずれも過去の調査と比較して高い結果となっています。一方、「社員や社風が魅力的である」「福利厚生や給与など制度や待遇が魅力的である」「業績が安定している」は2位、4位、5位と毎年上位に挙がっているものの、選択率は年々減少傾向にあるというものです。この結果からも自分がやりたい仕事を、やりたい場所で、やりたい人としたいという彼らの価値観が見えてきます。
私は、働くことを楽しむ人を増やしたいという想いでキャリアコンサルタントを志し、今もそれは変わっていません。しかし、私が新卒の頃に仕事に求めていた達成感や自己成長といったものと、現代の彼らが求めているものとは大きく異なります。今回テーマとして扱った通り、若者の働くことへの価値観は大きく変化しています。その背景には社会の変化があり、仕事の変化があります。今回中心的に取り上げたYoutuberも、すでにマーケティング理論で言うところの成熟期に入ったとも言われています。今後も様々な分野で新しい職業が生まれてくることは確定的です。
私達キャリアコンサルタントは、常に自分の中にある価値観と向き合い、新しい職業について積極的に学んでいくことが大切です。
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