キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2023年12月号

『働くこと、生きること、自分らしくあること』~自分と未来を変える力~

笑顔の先にあるもの

私の職場には、いつも冗談を言って周囲にいる人を笑わせる先輩がいました。反面、彼はいつも疲れた表情で顔色もよくはありません。私はそんな先輩を見て、大丈夫なのかと気になっていました。先輩は、会議の席では上司から無理難題を押し付けられて怒鳴り散らかされ、朝早くから夜遅くまで残業をし、1日のほとんどを職場で過ごしていて、休日もほとんどありません。仕事の進め方は一つではないけど、こういう方もいる。厳密にいえば約25年前の私の勤務先での話。

コーヒーの香りがする明るい店内に朝の陽ざしが差し込み、いつものお客様が来店され、いつもの商品を注文する。店内で飲食される人、注文した商品を手に取り出勤する人。いつもの店に立ち寄りそれぞれの職場に向かう。あのお客様は**だな。と思っていると予想通りの**の注文。「今日もいい一日になりますように」と、お帰りになるお客様を見送りながらふと考えた。この人もとても辛かったり、とても幸せだったりいろんな面がある。家庭があり子どもがいるかもしれない。自分の事だけではなく大人になると考えなければいけないことも増え、時間的にも余裕がなくなり、自分のことが最後になっていることも多い。多少調子が悪くても「気のせいかな?」なんて思いつつ、気付いた時には結構しんどい状態になることも。

お店で働いていた私は、お店から出ていくお客様の姿を見送りながらそして身近にいた職場の先輩を思い出しながら「もっと働く方々をサポートするために何かできないか。」との思いが、今の私のキャリアコンサルタントとしての道に繋がっていくのでした。

あなたの夢は何ですか。

 現在の私のフィールドは需給調整機関です。15歳~80歳代のいろんな方の就職活動を中心としながら、それぞれの夢の実現に向け伴走しています。

私が初めて担当したのは、中学卒業目前で学校の先生と一緒に相談に来た方、高校在学中思うような進路を描けない方や、卒業後3年以内の方など10~20代の若年者。
私は若年者の就労支援の担当として、さまざまな背景を持つ方々に出会いました。例えば、家族の介護をしていて中学校に通わず、卒業時に就職を選択した方です。将来何をやりたいかとか考える間もなく、社会に出て私たち需給調整機関のメンバーと出会います。また、保護者がいなく姉弟だけで生活している少年少女。病気をしても病院に行くことができない学生もいました。
それぞれの背景を持ちながらも、それでも一歩踏み出さなければいけない若年者と共に『働くこと』、『生きること』、『自分らしくあること』を丁寧に築き上げていく。私は、「社会に出て初めて出会う人がこの人で良かったと思ってもらいたい」「あ~、大人になるって悪くないかもしれないと思ってもらえたらいいな」と考えながら若年者のみなさんに向き合っていました。みんなまっすぐで人を信じる力を持っているし、いくつかの選択肢がある。それぞれ一番輝ける所に進めるよう支援するのが私の役目でした。

「どれだけいい大人と関われたかが、先の人生がすごく変わるスタートボタンだと思う」
当時のアイドルAKB48の高橋みなみさんが22歳の頃に出演した番組でこのように語っていました。また経営学のキャリア論、産業組織心理学におけるキャリア研究の中にも他者とのつながりを重視する説があり、最初の上司との相性が大きく左右するとまでいわれているようです。

心の窓を開ける

 相談に来る方の多くは、混乱していて整理が出来ていない場合や、今よりもっと良い状況になりたいと希望を持っていると思います。でも、どこから手を付けていいかわからない。最適解はどこにあるのか。また仕事や家庭のこと、セルフが複雑に絡み合っていることもあります。心の闇が深くなる前に、軽度のうちに状況をよくしていくことも私たちの使命だと思っています。
以前関わったケースでは社員が出勤してこない、連絡しても連絡がつかない。良くない想像までして警察に相談に行ったことも。大事には至らなかったものの、事件があったのではなく、事件を起こしていたということもありました。いずれにせよ、人に言えず、抱え込み、どこに向かったらいいかわからなくなるという心理状態だと思います。それであれば、私たちが耳を傾け、今どの時点にいて、どこに向かったらいいか一緒に考えたいのです。

ふとした瞬間のキャッチボール

私は学生時代に、イベントブースのMCをしたことがありました。仙台市の1年の中でも大きいイベントで、人出は最も多かったと思います。街中あちこちにイベントブースがあり、その一つを任された私は、音響さん、運営スタッフさんと共にチームで、次々と出演される方々のサポートにあたっていました。天気のいい5月、さわやかな風吹き渡ると言いたいところですが、どちらかというと急に暑くなりはじめ日焼け止めを塗り忘れ、法被を着て汗をかきながら台本通りに進行する。タイムスケジュールにずれが生じないよう注意を払いながら時間を気にしつつどちらかというとバタバタで、翌日は日焼けのヒリヒリと体中が痛くなるような感じでした。MCの合間には通りかかった方からバナナの差し入れを頂いたり、道を尋ねられるなど急に話しかけられることもあったり。チームで仕事することイベントの仕事はおもしろかったです。
日中の暑さも和らぎ始めた夕方、その日の仕事もだいたい終わり、ブースの撤収作業を始めようとしていたところに、自転車を押しながら歩いている男性に話しかけられました。自転車のかごには野球で使うグローブが入っているのが見えました。「今日、公園でボールを空に投げて、キャッチしていたんだ。心の窓を開けておかないと、心に黒いのがいっぱいになってしまうから。窓を開けておくと鳩のフンも入ってくるかもしれないけど、開けておくといいんだよ。そうすると良いことも入ってくるよ。」例えるならフォレスト・ガンプのような語り口調で私に語りました。物理的、精神的状況によっては気に留めないでしまったかもしれない出会いでしたが、その時私は投げられた言葉をキャッチすることが出来ました。受け取る準備が整っていたのだと思います。おそらく、正しいとか間違っているとか私からの答えをもとめているわけではないと察し、私は「そうですね」とうなずきながら彼を見送りました。
何気ない出会い、通りすがりの人。それでも、その言葉はその後の私に影響を与え続けているのです。

自分と未来を変える力

カナダの精神科医 エリック・バーン氏の有名な言葉で、私も心に刻んでいる言葉があります。
You cannot change others or the past.
You can change yourself and the future.
人と過去は変えられない。変えられるのは自分と未来だけ。

心の窓をあけることで、自分を変えることのきっかけを見つけることが出来るのだと思います。本やSNS等で誰かの考えに触れ本やSNS等で誰かの考えに触れ、「素敵な考え方だな、自分も取り入れよう。」と思う気持ち。参加したセミナー講師の話を伺い、「かっこいい生き方だな、自分にまねできることはないかな。」と思う気持ち。人から耳の痛いことを言われ嫌な気分になる反面、「あ~、こういう風にとらえられたのだ、今後気をつけよう。私はまだまだ成長過程。」など、良くも悪くも自分ではない誰かとの関わりによって気持ちは動くし、考え方も変化する。

 私達は、人として、キャリアコンサルタントとして、言葉や行動がバタフライエフェクトを起こすと考えています。私にとって、心の窓を開けることの大切さを教えてくれた自転車の男性との出会いは、今の私のキャリアコンサルタントとしての姿勢に大きく影響を与えています。私も自分の言葉や行動で、誰かの心の窓を開けるきっかけになれるかもしれません。その思いで相談者に向き合っていこうと思います。私は、相談者の心の窓を開けることで、自分と未来を変える力を引き出すことができると信じています。

いつでも、どこでも誰からでも学べる機会があることを忘れずにいたい。

川上  昭子(かわかみ  あきこ)

川上 昭子(かわかみ あきこ)

ACCN東北支部運営スタッフ
2級キャリアコンサルティング技能士
国家資格キャリアコンサルタント
産業カウンセラー

飲食店での店舗運営を経てキャリアコンサルタントへ。
現在は需給調整機関にて就職支援ナビゲーターとして
求人開拓、学校での就職ガイダンス、職業講話の実施。
職業相談、就職支援セミナー講師を担当。

コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)

キャリアコンサルタントのさまざまな活動を応援します!「ACCN」のご案内はこちら


マンスリーコラム一覧へ戻る