キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2024年1月号

2024年 年頭のご挨拶

あけましておめでとうございます。

まずは新年に発生しました能登半島地震におかれまして被災された方々、また、被災地にご家族やご友人をお持ちの方々に心からのお悔やみとお見舞いを申し上げます。一日も早い復旧を心から願っております。

また、キャリアコンサルタント、キャリアコンサルティング技能士の皆様、ならびに養成講習、更新講習実施団体をはじめとする会員団体、先生方、行政および関係諸機関の皆様には、日ごろより協議会の活動に一方ならぬご支援をいただいておりますこと、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

さて、2023年の年頭のご挨拶では、「寄り添いサポート」について、概要をご紹介いたしました。今年は、改めて「寄り添う」について、もう少し深めてみたいと思います。

大学リカレント教育

私が勤務しております、筑波大学 国際産学連携本部 働く人への心理支援開発研究センター(東京キャンパス)では、令和3年度より、文部科学省の大学リカレント教育推進事業を運営しております。本事業も今年度で3年目となりました。過去2年間で行ったリカレント教育では、コロナ禍における就労環境の悪化などに影響を受けた女性等を対象としたプログラムを実施いたしました。本プログラムの受講を機に、受講生は自らの生き方や働き方を創造し、新たなキャリアを構築することで社会に向けた準備を整えました。しかし一方で、環境や諸事情により、実際には思うように就業できない女性が少なくないという実態も明らかになりました。就職しない理由として挙げられたのは、育児・介護等の家庭の事情、学びの継続、精神障害や発達障害などがありました。さまざまな経験や能力を有しながらも、就職につながらない女性の存在を目の当たりにして、こうした多様な人材を就労に導くキャリア支援者に対する専門的な教育や指導の必要性を改めて実感しました。

そこで令和5年度は、私たちが過去2年間のリカレント教育で蓄積した「寄り添いサポート」のノウハウをもとに、本学の専門である心理学の知見と実践を活かし、キャリア支援者を対象とした新たなプログラムを開発・実施いたしました。

寄り添いサポート

「寄り添いサポート」は、過去2年間の受講生に対して実施した、受講継続および就職支援のための包括的なサポート体制です。受講生の支援を直接担当する「寄り添いサポーター」(キャリアコンサルタント)をはじめ、心理学を専門とする教員、公認心理士、臨床心理士、1級キャリアコンサルティング技能士等のさまざまな心理領域の専門家を配置し、受講生をバックアップしてきました。こうした経験をもとに令和5年度は、「働いているひと」「働きたいひと」を支えるキャリア支援者の育成を視野に「ライフキャリアの構築を目指す女性のための心理学プログラム-生涯発達的視点からのキャリア自律と他者支援へ-」を実施しました。まず、受講生は自分を振り返り、キャリア支援者自身の自己理解を深めていきます。支援者自身が自分の深みを知ることで初めて、相談者と同じ内面の深みに降り立ち、悩みや感情を共有することができます。同時に、これから起こるであろう人生上のイベントを見据えながら、働くことに対してどのように向き合っていくのか、心理臨床的な視点とスキルを持って個々の悩みや問題に真に寄り添えるキャリア支援者の育成を目指しました。

仕事や人生に対する意味づけ

キャリアコンサルティングにおいては、相談者の就職や転職、就労に関する基本的な相談のみならず、内面の深いところにある悲しみや憤りに触れることも少なくありません。時には、出来事や他者に対する相談者の感情を一緒に味わうことも必要でしょう。また、相談者のさまざまな経験による仕事や人生に対する意味づけや、自己成長を促すような関わりも、支援者の大きな役割であると言えます。
このように、生きる拠りどころを求める相談者の「キャリア」を、仕事だけではなく、人生や生き方そのものと捉え、ライフキャリア全体に焦点をあて支援しようとするのが「寄り添いサポート」です。個人のスキルアップや学び直しが求められる時代だからこそ、そうした多様な側面に目を向け、丁寧に寄り添っていく必要があると感じています。

キャリア支援者の態度条件

ロジャーズは、「セラピストがその人自身であるとき、つまり、クライエントとの関係の中で純粋であり、良く見せようとしたり仮面をかぶったりせずに、その瞬間に自分の中に流れている感情や態度に開かれている時に、人間的な変化が促進される」と、支援者の「自己一致」の重要性を語っています。支援者自身が、誠実さ、真剣さ、正直さ、優しさ、思いやりを持ち、相手の成長を疑わず、善悪を判断せず、まっさらなこころでクライエントを慮るということが、真にクライエントに寄り添うために必要なことだと思います。また、人間の成長を心から信じることも大切です。働くことの意味や個々の存在価値を大切にし、すべてのクライエントの成長を疑わず、成長を見届けるまで援助するということです。
キャリアコンサルタントもクライエントも平等な同じ立場でお互いを尊重し,純粋で一致していることによって,クライエントに何らかの変容が生じる可能性が高いと考えられます。

寄り添うために必要なこと

真に寄り添うために必要なこととして、「知識・スキル」、「精神性」、「人間性」の3つを挙げたいと思います。まず、一つ目の「知識・スキル」とは、心理学の知見、メンタルヘルス・精神障害・発達障害などの基礎的な知識やカウンセリングの技術を有し、適切に支援することができることを意味しています。そのために支援者は、終わりのない探究を継続する必要があるでしょう。二つ目の「精神性」は、個人的なやすらぎや他者とのつながりの感覚、働くことや人生の意味について理解し支援することを意味しています。相談者が本心を語りたくなるような深い関係を構築し、働くことの主軸を見極めることができる面談を実施することです。また三つ目の「人間性」とは、人格・品格・人柄・誠実さ・優しさ・謙虚さ・初心・思いやり・柔軟さ・寛容さを併せ持つ人となりを備え、成熟した支援者であることを目指すということです。最適な援助的関係とは、心理的に成熟した人間によって創造されるのです。

改めて

カウンセリング心理学における価値観・人間観として、「例外なく、人は全て、存在する価値がある」という考えがあります。そして「働くこと」に関しては、「働くことはすべての人、すべての年齢層の人が社会の構成員であることを体験できる大切な行為である」、「働くことは、個人のメンタルヘルス、個人の生涯発達にとって不可欠の行為である」とされています。
私たちは、これまで3年間の大学リカレント教育を通してこれらを痛感し、働くひと一人一人が自分らしいキャリアを築き、社会の中で活躍されることを心から願ってやみません。そしてこれからも、このような価値観・人間観の実現に向けて、社会におけるキャリア支援のあり方を追求していきたいと考えております。

最後に、キャリアコンサルティング協議会は、指定登録機関、登録試験機関、技能検定指定試験機関として行政代行の役割責任を担い、クライエント、国、社会からの高い期待に応えて、一層信頼に足る機関として、今年も最大限の努力をしてまいります。一方、激変する環境の中で奮闘されているキャリアコンサルタント、キャリアコンサルティング技能士の皆様に対するご支援と、質の高いキャリアコンサルティングの一層の普及啓蒙に努めてまいります。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

引用: C・R・ロジャーズ(著)諸富祥彦・末武康弘・保坂亨(共訳)(2005). ロジャーズ主要著作集3 ロジャーズが語る自己実現の道 岩崎学術出版社

キャリアコンサルティング協議会 会長 岡田 昌毅

キャリアコンサルティング協議会 会長 岡田 昌毅

筑波大学人間系教授
人間総合科学学術院カウンセリング科学学位プログラムリーダー(2020年4月~現在)
国際産学連携本部働く人への心理支援開発研究センター長(2019年4月~現在)
キャリアコンサルティング協議会会長 (2021年6月~現在)
産業・組織心理学会会長(2019年4月~2022年3月)

新日本製鐵株式会社(現、日本製鉄株式会社)、
新日鉄ソリューションズ株式会社(現、日鉄ソリューションズ株式会社)に
おいて、電気設備技術者、人材育成担当を20数年間経験。
2000年筑波大学大学院教育研究科カウンセリング専攻カウンセリングコース、
2007年名古屋大学大学院教育発達科学研究科心理発達科学専攻修了。
博士(心埋学)。専門は「キャリア心埋学」「キャリア・カウンセリング」。

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