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マンスリーコラム

2026年10月号

人生の「役割」とキャリア

――「余暇」から自身を問う

私は少年の頃から山と親しみ、還暦を迎えようとする今も登山を趣味としている。
そんな私も、だんだんと体力の衰えを感じるようになり、若い頃のようなペースや難易度の高い行程を歩くことができなくなってきた。そこで、50歳を迎えようとする頃から「日本百名山」の完登を目指そうと思った。

それは、自分の人生の何かを証明しようとする心理だったのかもしれない。あくまでも趣味なので、誰かの役に立つということはない。また、自分が百名山を達成したとしても、誰かが喜ぶわけでもない。
それでも、体力の衰えに反比例するかのように百名山への執着は高まり、そして50代最後の今年、ついに100座目の登頂を終えた。
そのとき私が感じたことから、自分という存在、人の心理の複雑さ、そしてキャリアコンサルタントとしての役割について考えてみたい。

サニー・ハンセンは、人生におけるさまざまな役割を「4つのL」で表現している。
Labor(労働)、Love(愛)、Learning(学習)、Leisure(余暇)である。
キャリアコンサルタントとして自分自身を振り返ってみても、「労働」や「学習」はもちろん、「愛」としての家族との関係など、さまざまな役割が自分の人生を形づくっている。

今回は、その中でも「余暇」について、私自身の経験から考えてみたい。
百名山を登り終えたとき、私が感じたのは、「嬉しい」というより「安堵」だった。
長い間目標にしてきたことだった。ゆえに最後の山頂に立った瞬間には、きっと大きな達成感や喜びを感じるものだと想像していた。
ところが、実際に自分の中に湧いてきたのは、ホッとする気持ち、「安堵」だった。
なぜだろうか。

小学生だった私は、父の影響で登山を始めた。
父は優れた登山者だった。また、仕事でもそれなりの会社で役員にまでなった。一方、私は子どもの頃から何をやっても中途半端だった。部活動も勉強も、何もかも途中で投げ出してしまう。
父がよく私に言っていた言葉がある。
「またケツ割ったんか」
「そんなことでは落伍者になるぞ」
今でも耳に残っている言葉だ。「落伍者」という言葉は、今思い返しても実に嫌な言葉である。
もしかすると私は、こうした父からのメッセージを背景に、「最後までやり遂げられる自分」を証明しようとしていたのではないか。
誰に対して?

そう。父だ。
父は、もう20年近く前に亡くなっている。それでも私は、心のどこかで父に対して「最後までやったよ」と、認めてもらおうとしていたのかもしれない。
そう考えると、最後の山頂で感じた「安堵」という感情が、少し理解できる気がした。
もちろん、登山は私にとって純粋に楽しい趣味でもある。
山の中を歩くこと。美しい景色を見ること。苦しい登りを終えたときの爽快感。そして、山頂に立ったときの達成感。
山が好きだから登っている。
それも、偽らざる私の気持ちである。

ただ、「日本百名山」という目標を持ったことで、いつの間にか、その目標に自分自身が縛られていたのかもしれない。
もちろん、父から何かを強制されたわけではない。だからこそ、それは私自身の中につくられた「呪縛」だったのだと思う。
考えてみれば、「余暇」は本来、私たちを解放してくれるものだと言える。仕事から離れ、好きなことをして、自分らしく過ごす時間である。
しかし、その「余暇」の中にも、これまで生きてきた自分の歴史や、そこから得た価値観や枠組みが入り込んでいる。それは、仕事や家族との関係においても同じなのだろう。

そこには、純粋に解放されている自分もいれば、何かに縛られている自分もいる。
「余暇」という一見自由な領域の中にも、複雑な心模様があるものだと感じる。
百名山を終え、一つの大きな目標がなくなったことで、少し自由になれる気もしている。
子どもの頃に憧れた山。山で出会った方々から教えてもらい、興味を持った山。山から見えた、まだ見ぬかっこいい山。
「百名山」という、いわば「他から与えられた枠組み」を超えた場所には、これまでとは違うワクワクがある。

改めて、自分は何を大切にしているのか。
自分を動かしているエネルギーは何なのか。
それは、キャリアコンサルタントとして相談者と向き合うときにも、大切な問いなのだと思う。
相談者自身が、自分は何を大切にしているのか、何によって動かされているのかを見つめていく。そのためには、キャリアコンサルタント自身もまた、自分の根源を問い続ける必要があるのではないだろうか。

自分は何を大切にしているのか。
自分を動かしているエネルギーは何なのか。
百名山を登り終えた今、私はそんな問いを自分自身に問うている。
「余暇」の時間は、私にとって、単に仕事から離れて楽しむための時間ではなく、自分自身のキャリアを考える貴重な時間にもなっている。
どう生きてきたのか。そして、これからどう生きるのか。
答えはないのかもしれない。
それでも、自分自身を問い続けること。
それもまた、キャリアコンサルタントの役割の一つなのではないかと、今の私は考えている。

田中 道博(たなか みちひろ)

田中 道博(たなか みちひろ)

略歴
大学卒業後、大手旅行会社の社員として11年間勤務後、人材派遣会社に転職し、14年間勤務。2014年、より幅広く中小企業の業務承継、人材育成、キャリア形成支援に携わるため独立し、2017年に株式会社あしあとみらい研究所を設立。代表取締役として企業領域を中心に支援実績多数。キャリアコンサルタント更新講習の講師としても多様なメニューを実施。
現在、ACCN中国四国支部 副支部長

資格
1級キャリアコンサルティング技能士/国家資格キャリアコンサルタント
社会保険労務士
軍師®認定コンサルタントS級
メンタルヘルスマネジメント検定Ⅰ種

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