キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2014年5月号

迷い方・悩み方

ある飲食業にお勤めの方からのご相談です。

「今まで、フロアーのチーフとして仕事をしてきました。私はお客様と接することに生きがいを感じて、接客について実力をつけてきたつもりです。この前の人事異動で本社に異動になりました。給料もあがり、今までの努力が認められたのだと最初は喜んでいたのですが、書類や数字の仕事にどうしても生きがい、やりがいを感じられないのです。今まで以上に忙しくなり、休みもほとんどなく、働くことは家族のためでもあるはずなのに、家族と一緒に過ごす時間もなくなり、これでは何のために働いているのかわかりません。
そんな時、知り合いのシェフから独立開業をしようと思うんだけど手伝ってくれないかと誘われて、迷っています。」

これを直ちに、「今のまま会社に残る」「独立開業する」の二者択一にするのは、もしかしたら、迷いを深くしてしまうかもしれません。二つの選択肢にはそれぞれメリットとデメリットがあります。
会社に残る場合の経済的な安定とやりがいのなさ、独立する場合の不安定さとやりがいはお互いに逆の関係です。忙しさについては、どちらの場合も同じでしょうから、もう一つ、仕事と家庭生活のバランスも別の問題として解決が必要です。

このように二つの選択肢の迷いは、葛藤と呼ばれます。
葛藤とは、二つまたはそれ以上の強さの等しい欲求が同時に存在し、そのいずれかを選択しなければならない時に体験される心理的苦悩とされています。特にこの場合には、二重接近回避型の葛藤と呼ばれ、解決の非常に困難なものとされています。何か問題があると直ちに、他の選択肢を探し、それぞれのメリットとデメリットを上げて整理することがよくありますが、場合によっては迷いを深くしてしまうこともあります。
選択の過程で「何が大切か」「どのように決断をするのか」がはっきりして、どちらかのメリットの価値が大きく、デメリットの価値が小さいと思えるようになれば、葛藤は解消するのですが、そうならない場合にはどちらを選んでも悔いが残ることになるからです。

他の選択肢と比較する前に、まずは、今の問題を解決することができないかとじっくりと考えることが有効なことも少なくありません。合理的解決のための方法には、克服、迂回、代償、抑制の4つがあります。克服はその障害に直接取り組んで問題を解決すること、迂回はその障害を回避して本来の目的を達成することです。
会社に残りながら、生きがいややりがいのある役割に変えてもらうことはできないか、今の仕事の中で新しい生きがいややりがいを見つけることはできないか、元の仕事に戻ることはできないかなど、まだまだ考えたり、相談したりすることはたくさんありそうです。その過程の中で、大切にしていることがはっきりするに違いありません。
代償は目標を別のものに変えることです。いくつかの選択肢が検討されます。すでに何が大切かが明確になっていれば、難しい葛藤にはならないはずです。
抑制は条件が整うまで、目標をあきらめて今は我慢をすることですが、十分な検討をした後です。条件がそろうまではじっと力を蓄える時期として、むしろ楽しみになるかもしれません。

石崎 一記(いしざき かずき)

石崎 一記(いしざき かずき)

1958年7月埼玉県生まれ

東京成徳大学応用心理学部教授
1級キャリアコンサルティング技能士

平成14年度より23年度まで、厚生労働省キャリアコンサルティング研究会委員、同研究会各種部会座長等を歴任。
発達心理学の視点から、働く人の伴走者として幸せづくりのお手伝いをすることに取り組んでいる。What a Wonderful Worldの世界の実現がライフワーク。

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