キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2026年7月号

【 キャリなに? 】特別編・倫理のお話
企業内キャリアコンサルタントのあるべき立ち位置

本コラムでは、ここまで1年にわたり、キャリアコンサルタントとしての姿勢から、その営みや研鑽までさまざまな角度からお届けしてまいりましたが、その一連の活動の中で、どうしても避けて通ることのできないものがあります。それが、キャリアコンサルタントとしての「倫理」です。

相手に近づきたい、理解したいという思いで関わるからこそ、その関わり方が相手にどのような影響を及ぼすのかを考え続ける必要があります。強力な力を手にする以上、それをどう使うのかという問いから逃れることはできません。自分では良かれと思っていても、結果として相手を傷つけてしまうことがあるかもしれない。その可能性を前提にしながら、それでもなお関わろうとする姿勢が求められています。

特に企業の中で活動する場合、目の前の相談者だけではなく、組織との関係も含めて考えざるを得ません。どちらにどう向き合うのか、そのとき自分はどこに立っているのかという問いは、これまで以上に重みを持って立ち現れてきます。こうした問いに一人で向き合い続けることは容易ではなく、ときに立ち止まり、他者の視点を借りながら見つめ直していくことが必要になります。

これまで石崎先生が触れてこられたスーパービジョンも、まさにそのための重要な機会です。事例をもとに自らの関わりを振り返り、その意味を問い直していく営みは、「話を聴くこと」と同様に、終わりのないプロセスといえるでしょう。

こうした背景を受けて、本号では特別編として、この「倫理」と「立ち位置」というテーマにあらためて焦点を当てます。

キャリアコンサルタントの倫理綱領には、「相談者との多重関係を避けるよう努めなければならない。自らが所属する組織内でキャリアコンサルティングを行う場合においては、相談者と組織に対し、自身の立場を明確にし、相談者の利益を守るために最大限の努力をしなければならない」(第11条第2項)と示されています。この「立場を明確にし、利益を守る」という言葉を、私たちはどのように受け止め、実践していくのでしょうか。

そこで今回は、坂井一史先生に、企業内キャリアコンサルタントの実践を通して、この問いにどのように向き合っていくのかをご寄稿いただきました。具体的な状況の中で立ち現れる葛藤や判断のあり方に触れながら、あらためて考える機会としていただければと思います。

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「 企業内キャリアコンサルタントのあるべき立ち位置 」

聖徳大学 心理・福祉学部 心理学科 
准教授 坂井一史

キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルティングを行うにあたり、相談者との多重関係を避けるように努めなければならない(キャリアコンサルタント倫理綱領第11条の2)。しかし企業内で働くキャリアコンサルタントは多くの場合、多重関係を完全に避けることができない。

第一の理由は、相談関係以外の全ての文脈を排除してキャリアコンサルタントが企業内で活動することがそもそも不可能だからである。キャリアコンサルタントも企業内で雇用されていたり契約していたりするので、上司(評価者)との間では上司部下関係が存在し、同じ部署の構成員との間には同僚関係が存在する。そして第二の理由は、企業内キャリアコンサルタントは複数のクライエント(相談者と組織)に対して責任を負う立場に置かれるからである。目の前の相談者もクライエントであるが、組織内にキャリアコンサルティングを制度として導入しキャリアコンサルタントに対価を支払っている組織・経営者もクライエントなのである。

このように2つのクライエントが同時に存在することで、一見企業と個人の利害が対立しているように感じる局面がある。どちらの味方であるべきかと葛藤した結果、たとえば企業からのより良い評価・対価を得たいとついつい力が入り、企業寄りの立場で支援をするということが起こり得る。また同僚である相談者や相談してくれる後輩のことを何とかしてあげたいと、相談者寄りの行き過ぎた支援をしてしまうことも起こり得る。
このような葛藤は、2つのクライエントのニーズを一次元(直線)上に配置するとイメージしやすい。企業のニーズと相談者のニーズが対立しており(両極にあり)、その間にキャリアコンサルタントがいる。状況をこのように理解したときにできることは、企業寄りなのか、相談者寄りなのか、はたまた中立を貫くのか、直線のどの地点に位置を取るかの選択となる。

しかしこれらの立ち位置の偏りは状況や判断によって不正解ではないかもしれないが、正解だとは言えない。そもそも様々な当事者の思惑が輻輳しているのが組織である。上記の例も上司と人事で考え方が違っているとさらに複雑になることはすぐにイメージできる。ではどのように考えるのが良いかといえば、二次元(面)として三角形で捉えることである。一次元では、企業寄りか相談者寄りかという位置しか選べない。しかし二次元(面)で理解することで、自らが双方のニーズを踏まえた第三の頂点となることができる。このような立ち位置を取ることで、利害が完全に対立しているのではなく、優先順位や視点が異なると捉えることができ、ニーズの違いを「対立」だけではなく「相違」として理解できるようになり、二者択一の発想から距離を置くことができる。その結果、相談者のニーズを踏まえた企業支援、企業のニーズを踏まえた相談者支援という方向性を模索することが可能になる。

そうはいっても実践することは難しいと感じることや、理想通りには進まないと感じることはある。では、このような複雑な状況で立ち位置の妥当性をどのように判断すればよいのだろうか。説明責任は立ち位置の妥当性を判断する重要な拠りどころの一つである。我々は専門家であるのだから、説明責任を果たせない支援はするべきではない。「なぜそれをするのか、しないのか」「ではどうするのか」について十分な説明ができるかどうかが、正解が一つではない状況において、着地点を見出すことに役立つ。このときの立ち位置はクライエントのニーズを100%満たすものではないかもしれない。むしろ当然のことである。耳の痛い話に向き合ってもらうのも支援に含まれるからである。

複数の当事者の間で、良い面だけではないことも取り扱う支援を一人で実践していくことはどのキャリアコンサルタントにとっても難しさを感じやすいことである。このような葛藤は一人で抱え込まずに事例指導を活用することが有効であるが、事例指導者との間にも評価関係や上下関係があると、「否定的に評価されるのでは」等の考えがよぎり思うように相談ができないことがある。是非一人ではなく複数の事例指導者から指導を受けることで、一人の評価関係に左右されず研鑽を積み、多重関係を適切にマネジメントしながら、企業と相談者の双方に資する支援の実現を目指してもらいたい。

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1年間続いた本コラムも、来月いよいよ最終回を迎えます。最後までどうぞお楽しみに。

#コラム「キャリアコンサルタントって何をする人?」#特別編

❖ 「キャリアコンサルティング、キャリアコンサルタント」のことをもう一度考えてみるコラム「キャリアコンサルタントって何をする人?」(キャリなに?)は毎月15日に公開されます

キャリアのことをいろいろなテーマで「ゆるやか」に考えたコラム「ゆるキャリ」(全12回)のバックナンバーも併せてお読みください こちら

坂井一史(さかいひとし) 

坂井一史(さかいひとし) 

外部EAP2社11年、企業内相談室1社9年にて相談業務に従事し、
2024年より聖徳大学心理・福祉学部心理学科にて准教授として勤務

臨床心理士、公認心理師
1級キャリアコンサルティング技能士、キャリアコンサルタント
シニア産業カウンセラー

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