キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2014年9月号

キャリア・コンサルタントに求められるもの

1.キャリア・コンサルタントに求められるもの

キャリア・コンサルタントに求められるものとは何でしょうか。カウンセラーとしての基本的態度やカウンセリングスキルが必要不可欠であることは言うまでもありません。少し堅苦しい話題になりますが、ここでは、キャリア・コンサルタントに求められるものとして、「豊富な職業・社会経験と産業・組織心理学の融合」、「多様なキャリア理論・アプローチの理解」、そして「全人格的な視点の重要性」について取り上げたいと思います。

豊富な職業・社会経験と産業・組織心理学の融合

キャリア・コンサルタント自身の豊富な職業・社会経験が、キャリア・コンサルティングに大いに役立つことは間違いないことだと思われます。それでは、豊富な職業・社会経験をキャリア・コンサルティングに活かすとは、具体的にはどういことでしょうか。豊富な職業・社会経験をもつキャリア・コンサルタントは、クライエントが直面している問題や課題について、自身も同様の経験をしそれを克服した経験があるかもしれません。また、部下や同僚が同様の経験をした時に、直接・間接的にそれを支援した経験があるかもしれません。このような場合には、クライエントの問題や課題の背景が自身とは少し異なっていたとしても、支援の方向性やポイントを的確に把握し、支援に役立てることができると思われます。

しかしながら、私たちの経験がいかに豊富であったとしても、私たちが経験できる職業・社会経験は、社会全体のほんの僅か一部にしか過ぎません。キャリア・コンサルタントとして多様なクライエントの支援を遂行するためには、自身の豊富ではあるけれども限られた過去の経験をじっくりと振り返ることや、自身の経験を客観的に分析し、分類・抽象化・体系化して理解することが必要です。その手助けをしてくれるのが、産業・組織心理学における知見です。具体的には、組織とは何か、人事諸制度、人材育成、仕事への動機づけ、職務満足、リーダーシップ、組織における意思決定、組織における協力と葛藤などに関することです。

これだけ並べられると、とても難しく感じる人もおられると思いますが、自身の経験と重ね合わせながら少しずつ理解を深め、自身の経験と産業・組織心理学の知見を融合することを目指せば良いと思います。そのことが、クライエントの問題や課題の本質を深く理解すること、より適切な支援を実現することに繋がると思われます。

多様なキャリア理論・アプローチの理解

キャリア・コンサルタントには、個別のキャリア理論・アプローチを適切に理解することが必要とされています。キャリア・コンサルティングを学んでいる方は、既にいくつかのキャリア理論・アプローチを習得し、自分にとって活用しやすいキャリア理論・アプローチがあるかもしれません。次のステップとしては、それを広げていくとともに、多様なキャリア理論・アプローチ相互間の関係を理解することが必要となります。すなわち、多様なキャリア理論・アプローチの視点から複合的で柔軟な思考を働かせ、クライアントの一つひとつの課題について検討し理解を深め、仮説生成・再構築を繰り返しながら、支援に応用することが必要なのです。個人が語る小さな一つのエピソードであっても、様々な理解が可能であり、一つのキャリア理論・アプローチだけで簡単に理解できるものではないと考えるのが自然です。より複合的で柔軟な視点からの支援を目指してください。

全人格的な視点の重要性

あなたは「常識のある、社会的に成熟した人」でしょうか。この問いに"はい"と答えるのはなかな難しいことかもしれません。渡辺三枝子先生の著書「新版カウンセリング心理学」の中に、「有能なカウンセラーは、確かに繊細で敏感で、他者に対して心配りができるが、同時に非常に冷静で、論理的に現状を分析し、認識し、現実的で必要な時に明確なはっきりとした決断のできる人である。また、なによりも、常識のある、社会的に成熟した人である。」(P119)との記述があります。私はこの中の「常識のある、社会的に成熟した人」を目指すことが、キャリア・コンサルタントにとって、とても重要であると考えています。そこに到達するのは決して容易なことではありませんが、自分自身の人に対する思いや信念・価値観、基本的信頼感、人に対する優しさや温かさ厳しさや冷たさなどについて、自らに問いかけ自分の中のさまざまな矛盾と向き合っていくことが大切だと思います。

2.キャリア・コンサルタントとして成長するために

最後に、私がキャリア・コンサルタントとして成長するために、日頃から心がけていることをご紹介したいと思います。

「素直」 「謙虚」 「初心」

人の成長を支援するキャリア・コンサルタントであるからこそ、自らも成長し続けることが必要だと思います。人が成長するために必要なこととはなんでしょうか。それは、全ての人から「素直」に学ぶこと、いつまでも「謙虚」に人の言葉に耳を傾け振り返ること、そして、「初心」に返り自分自身と向き合うことだと思います。いつまでも学び成長し続ける自分でありたいと思っています。

岡田 昌毅(オカダ マサキ)

岡田 昌毅(オカダ マサキ)

筑波大学大学院人間総合科学研究科生涯発達専攻カウンセリングコース 教授

1983年東京都立大学工学部電気工学科卒、新日本製鐵株式会社、新日鉄ソリューションズ株式会社において、電気設備技術者、人材育成担当を20数年間経験。2000年筑波大学大学院教育研究科カウンセリング専攻カウンセリングコース、2007年名古屋大学大学院教育発達科学研究科心理発達科学専攻修了。博士(心理学)。2006年11月から現職。専門は「キャリア心理学」「キャリア・カウンセリング」。

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