キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2014年10月号

企業領域のキャリア・コンサルタントとは

企業領域のキャリア・コンサルタント

キャリア・コンサルタントの活動領域としては、就職支援領域(ハローワーク・民間就職支援)、教育領域(学校・専門学校)、地域領域、企業領域がありますが、企業領域では、他の領域に比べ、キャリア・コンサルタントの数はまだ少なく、キャリア・コンサルティングの普及は遅れているようです。

企業では、従来の企業主導によるキャリア形成から従業員が自らの責任で主体的にキャリアを形成するキャリア自律が求められるようになっています。また、事業環境の変化、事業の見直しと再編、事業の選択と集中などにより、これまでの仕事とは全く異なる仕事への異動・配置転換などキャリアチェンジをせざるを得ない従業員も多く発生しています。従業員のキャリア自律の支援や、キャリアの転機にある従業員の支援において、企業内のキャリア・コンサルタントは重要な役割を担うことが期待されています。しかしながら、企業におけるキャリア・コンサルティング制度は、大手企業ではある程度導入されてきているものの、中小企業も含めた企業領域全体では、上記のとおりあまり普及していないのが現状です。

このようななか、厚生労働省では今後企業領域でのキャリア・コンサルタントを増やしていくことが検討されており、今後の企業領域におけるキャリア・コンサルティングの整備・普及を期待したいと思います。企業も、従業員へのキャリア形成支援が、従業員のエンプロイヤビリティを高め、従業員の意欲の向上、生産性の向上、企業の競争力の向上・強化に繋がるという認識を持ち、積極的にキャリア・コンサルティングの整備に取り組んでいただきたいと思います。また、私たちキャリア・コンサルタントも、企業におけるキャリア・コンサルティングの普及にむけ、企 業の経営者や幹部の方々にキャリア・コンサルティングの重要性や必要性を理解していただけるよう粘り強く働き掛けていきたいものです。

企業内のキャリア・コンサルタントに求められること

今後、企業領域におけるキャリア・コンサルティングの導入が進んでいくことが予想されますが、企業内のキャリア・コンサルタントに求められることについて考えてみたいと思います。

多様なキャリア相談への対応

企業内のキャリア・コンサルタントは、従業員の入社から定年退職までの職業人生の大半に関わるため、入社後の職場適応、能力開発、異動・昇進、各キャリアステージでの発達課題、ワークライフバランス、キャリアの転機・ライフキャリアの節目、中年期のキャリアの再構築、メンタルヘルス、復職、役職定年、セカンドキャリア、定年退職など多岐に渡るキャリア相談に対応し支援できることが求められます。また、個別のキャリア相談に加え、幅広く従業員を対象としたキャリア研修の企画・ファシリテーションも企業内のキャリア・コンサルタントの重要な役割になります。

個人の視点と組織の視点

企業内のキャリア・コンサルタントは従業員の視点に立って支援することが大前提ですが、組織の視点も踏まえた支援ができるかが重要になります。企業でのキャリアは、組織目標、事業戦略、組織の人材ニーズなど様々な環境要因との関わりのなかで形成されていきます。従って、従業員のキャリア形成を支援するためには、会社の事業の方向性、求められる人材、必要とされるスキル・能力、社内制度・企業風土に対する十分な理解が不可欠です。それらも踏まえたうえで、従業員が広い視点にたって自己選択・決定し、主体的にキャリアを形成していけるよう支援することが企業内のキャリア・コンサルタントには求められます。企業内のキャリア・コンサルタントには、キャリア・カウンセリングの知識・スキルに加え、産業・組織心理学や経営学の知識・知見も必要になります。

関連部門との連携

従業員からのキャリア相談に対応するだけでなく、企業内のキャリア・コンサルタントは、積極的に人事部門、職場、健康管理部門など関連部門と連携し従業員のキャリア形成の課題や環境改善に関する具体的施策の提言や企画に関わっていくことが必要です。このような関わりが、キャリア・コンサルタントの必要性や貢献を会社・関連部門に理解してもらううえでとても重要になります。

変化への対応

社会の変化、テクノロジーの進化、グローバル化の更なる進展のなかで、今後も組織は変化し、組織での働き方、人の働く意識も変化し、組織でのキャリアも変化していくことが予測されます。従って、キャリア・コンサルタントとしては、変化に対して常に目を向け理解を深めておくこと、キャリアに対する考え方の変化や新たなキャリア理論を学び続けていくことが必要です。そして、従業員がこれらの変化に柔軟に対応し、主体的にキャリアを形成していくことができるためのキャリア・コンピテンシーを高める支援が今後より重要になってくると思います。

上記のとおり企業内のキャリア・コンサルタントにもとめられることは多く、とても難しいものだと思います。私は2002年から2014年まで企業の中でキャリア・コンサルタントとして活動してきましたが、必ずしも上記が出来ていたわけではなく、こうありたい、あるべきではないかという視点で述べさせていただきました。企業内のキャリア・コンサルタントは、ひとり一人の従業員が仕事・キャリアを通じて成長し、その人らしい、いきいきしたキャリアを築いていく支援をする仕事であり、大変やりがいがあります。是非、多くの方が企業内のキャリア・コンサルタントを目指していただきたいと思います。

堀内 泰利(ほりうち やすとし)

堀内 泰利(ほりうち やすとし)

慶應義塾大学総合政策学部非常勤講師・SFC研究所上席所員(訪問)
筑波大学大学院人間総合科学非常勤研究員

1975年横浜国立大学卒業、日本電気株式会社(NEC)入社、人事・人材育成業務を長年にわたり携わり、2002年からは社内キャリアアドバイザとして従業員のキャリア形成を支援。2008年筑波大学大学院教育研究科カウンセリング専攻修了、2013年筑波大学大学院人間総合科学研究科生涯発達科学修了。博士(カウンセリング科学)。2014年にNECを退職し現職。

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