キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2014年12月号

キャリア・コンサルティングにおける事例検討

前月の原さんのコラムの「職場における経験学習と客観視を促す仕組み」や「キャリア・コンサルタント自身の経験に向き合う」といったことに関連して、キャリア・コンサルティングにおける事例検討の効果について述べてみたいと思います。

弊社は多数の地域でジョブカフェなどの就労支援事業に関わっており、私は立場上、事業の運営やキャリア・コンサルティングについてアドバイスを求められます。キャリア・コンサルティングについては一般論でのアドバイスが難しい面がありますので、個別のスーパービジョンや事例検討会の機会が多くなっています。

キャリア・コンサルタント個人の成長には、スーパービジョンが役に立つことは私自身が受ける側も実施する側も経験していて実感しているのですが、複数のキャリア・コンサルタントがいる就労支援施設では、メンバー全体のレベルアップにとって事例検討がより効果的であると思っています。

私はキャリア・コンサルタント(CDA)の養成と主に行政機関からの就業支援事業の受託に10年以上前から携わっており、10箇所以上の施設の運営をサポートしてきました。そこで感じるのは、同じ施設にいる複数のキャリア・コンサルタントの支援の仕方(方針や手法、支援領域の広さと深さ)を、より高いレベルで揃えていくことの大事さと難しさです。有資格者とはいえキャリア・コンサルタントのレベルにはバラつきがあります。また支援の仕方は、大げさに言うとそのキャリア・コンサルタントのアイデンティティに関わることであり、その施設における支援内容を言葉によって「ここまで行いましょう」「ここから先はリファーを考えましょう」と統一しようとしても、一部のキャリア・コンサルタントから反発が出て、チームワークが乱れたり、場合によってはそれが退職に至ったりすることもありました。そのためか他の一部の施設では「他のキャリア・コンサルタントの支援の仕方に干渉しない」という暗黙の了解があるとも聞きます。

しかし、実際にはバラつきがあり、利用者から疑問やクレームが呈されることもあります。キャリア・コンサルティングを頻繁にライブでチェックするのは困難なこともあり、施設としてのキャリア・コンサルティングの品質管理は大きな課題でした。そこで、取り組みはじめたのが事例検討です。

事例検討では事例提供者だけでなく参加者全員でキャリア・コンサルタントとクライエントの間で起こっていたこと、特にキャリア・コンサルタントの意図を、自分が担当しているつもりで振り返ってもらいます。意見交換の中で、事例提供者にとっては自分のキャリア・コンサルティングのクセ(見立ての傾向や取りがちな手法)、技法のレベルや支援領域の範囲などについての気づきがあり、他の参加者にとっては同様の面での代理学習の効果があります。そして何より同じ施設で支援するメンバーの支援の仕方の異同(出来ていないこと、やり過ぎていること)を知り、クライエントを混乱させることへの注意が喚起されます。

進め方としては、多忙な現場が多いため逐語録を作成することは難しいので、事例提供者には専用のケース概要記入シートを用意してもらいます。そして冒頭にファシリテーター(私)から、ややくどいくらいにルールを伝えます。それは事例提供者が他の参加者から責められていると感じない安全な場を作るためです。事例提供者にも自分の支援が正しいか間違っているかを問われているのではなく、多様な視点を提供してもらう場と認識してもらいます。事例検討の途中でも、安全な場でなくなりそうな言動があれば介入します。特に年齢や経験年数が上の参加者がいる場合は、他の参加者にランクを感じさせやすく、話しづらくなったりすることもあるので注意が必要です。

その後で、事例提供者からケース概要に沿って説明してもらいます。参加者は事例提供者を通して、クライエントがイメージできるよう随時質問します。一通り説明し終わったら、特にどのあたりをテーマに検討したいか伝えてもらいます。参加者は自分の見立てや仮説と、そうだった場合の対処方法などを検討します。

私は精神科科医療や福祉の現場で事例検討を経験し、キャリア・コンサルティングにおいてももっとこういう場を頻繁に提供しなければと思うようになりました。自分がそういった場で事例提供者となって勉強したり、指導を受けたりしながら、就労支援事業において事例検討を実施してきました。

今では日常的に実施している施設や、週一回時間を決めて実施している施設など、習慣化できているところも多くなってきました。今後は、施設全体のサービスレベルを高め、お互いの立場や考え方への理解を促進していくために、求人開拓担当や事務スタッフなども参加して実施できるよう取り組んでいきたいと思います。さらに面談(ロールプレイ)を音声や映像にとって、随時止めてその場面を振り返りながらの勉強会(IPR:Interpersonal Process Recall)なども行えればと考えています。ご関心のある方は情報交換などできればと思います。お気軽にご連絡ください。

田中 稔哉(たなか としや)

田中 稔哉(たなか としや)

大学卒業後アパレルメーカー・ワールドの人事、コンサルティング会社の新規事業開発、ベンチャー企業の経営等を経験後、CDA養成講座開発スタッフとして株式会社日本マンパワーに入社。同事業立ち上げ後は受託しているジョブカフェのチーフカウンセラーなどを経て、現在、同社取締役。担当部門はCDA養成、キャリア開発研修の開発・運営、公的な就労支援事業の運営、中小企業診断士養成課程、通信教育。保有資格は1級キャリア・コンサルティング技能士、精神保健福祉士、CDAなど。

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