キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2015年8月号

"環境に働きかける力"とE.シャイン先生との対話

E.シャイン先生との出会い

組織心理学の祖と言われ、世界的な権威でいらっしゃるE.シャイン先生は、88歳になられた今日も、ご健在で研究活動を続けていらっしゃいます。MITマサチューセッツ工科大学の名誉教授ですが、現在は暖かいカリフォルニアへ移住され、サンフランシスコ郊外・パロアルトにあるスタンフォード大学の隣接地にお住まいです。

私が初めてEシャイン先生とお話させていただく機会を得たのは、2012年の夏のことでした。シャイン先生との国際ワークショップがあり、その際に日本の実務家も参加させようとのご意向があったようです。プロセスコンサルテーション社様のご紹介により、当時はまだ全国に4名しかいなかった1級キャリアコンサルティング技能士として私が選ばれ、質問役の一人として参加させていただきました。

昨年夏から、再びご縁をいただき、スカイプなどを通じて個別にE.シャイン先生と対談をさせていただく機会がありました。お話が発展して、本年1月・2月には渡米、さらに6月下旬から7月上旬までの約1週間は、プロセスコンサルテーション社様のご尽力により、サンフランシスコにおいて、Eシャイン先生、在米研究者尾川丈一先生らとご一緒にワークショップ(4日間)を開催することなどができました。ワークショップには、私の主催する勉強会や講師を担当している講座の受講者などから、日本人キャリアコンサルタント40名が一緒に渡米して参加してくださいました。

キャリアコンサルタントの"環境に働きかける力"

私達を取り巻く環境・社会変化の加速化は衰えることを知らず、多様化・複雑化が進み、キャリアコンサルティングの現場でもクライエントの抱えている問題は多様化、複雑化の一途を辿っています。これ対応して、キャリアコンサルティングの支援スキルも、多様化・複雑化していかざるを得ないという現実にキャリアコンサルタントの多くの方が直面していることは、皆様よくご承知のとおりです。

個人コンサルティングに軸足をおいているキャリアコンサルタントが多い一方で、企業研修・人事コンサルティングに関わる一部の方々は、組織の支援に軸足をおいています。しかし、現実のクライエントの抱える問題は、個人もグループも組織も複合化した問題になってきています。

すなわち、個人のメンタルを中心とする支援は極めて大切ではあるものの、多くの現場(働けない若者、精神・身体障碍、女性・中高年のキャリアの分断等々)では限界にきており、個人の支援から、"環境(グループ・組織)への支援・働きかけ"がより重要になり、言わば心理学と社会学、カウンセリングとソーシャルワークの複合支援が求められています。

環境へ働きかけ、キャリアをマネジメントする

そもそも「複雑人」の人間観を提唱されたのはE.シャインです。また、組織心理学の体系を組み立てた方であり、組織開発、組織・グループへのかかわり方、関係性の築き方" 環境への働きかけ"についても多くの知見を有しておられます。

しかし、日本のキャリアコンサルタントは、E.シャインの理論として、キャリアアンカー・キャリアサバイバル・組織内キャリアのコーンモデル・キャリアサイクル段階などについて一旦学習するもの、活用しているのは「質問紙によるキャリアアンカー」にとどまっているのが現実ではないでしょうか?私は、今日の多様化・複雑化が進む状況下では、E.シャイン先生の組織・グループ"環境に働きかける"知見や支援スキルに学ぶことは、大きな意味があると思います。

今月7月、「キャリア・マネジメント」~変わり続ける仕事とキャリア~(3分冊) というテキストが日本で出版されました。原著は「キャリアアンカー【第4版】」でE.シャイン先生と後継者であるJ.ヴァン=マーネン先生の共著によるものです・私も共訳者として末席に名を掲載していただきました。

「キャリア・マネジメント」には質問紙のみならず、キャリア・ヒストリー・インタビューやL.ベイリンの研究を反映させた、仕事キャリアと家族・生活、クライエントを取り巻く環境への働きかけ等も加わり、旧版よりシンプルにワークが進むようになっています。

"環境に働きかける"とは、キャリアコンサルタント自身が、企業の人事部や上司に働きかける、ということのみを指すのではなく、クライエントが環境に働きかける力を身につけることを支援する、ということも大切な要素です。このテキストがキャリアコンサルタントの"環境に働きかける力"を、支援スキルとして身につけるきっかけになるのではないかと期待しています。

新しい手法の鼓動

サンフランシスコでの最終日には、尾川丈一先生のモデレートによりE.シャイン先生、ボストンから駆けつけたMIT経営大学院教授のJ.ヴァン=マーネン先生、ミルトン・エリクソン財団理事のヒレル・ザイトリン先生とのパネルディスカッションに私もパネリストとして参加できたことは、望外の喜びでした。しかし、一方では自分の身の丈以上のワークショップに背伸びして関わってしまったという思いもあります。

既にE.シャイン先生のキャリアアンカーについては、いくつかの疑問や提言もあるようです。ヴァン=マーネン先生・尾川先生も様々な研究に取り組んで見えます。丁度、モチベーション理論が、マズローの「欲求5段階説」に対する様々な疑問や批判から理論の多様化・実用化に発展したように、シャイン先生の8つのキャリアアンカーがあって、それに対する様々な疑問・提言から新しい"環境へのかかわり手法・組織開発手法"が生まれるのではないか...、そんな鼓動も感じたサンフランシスコの1週間でした。

藤田 廣志(ふじた ひろし)

藤田 廣志(ふじた ひろし)

東海ライフキャリア代表
1級キャリアコンサルティング技能士

都市銀行、OPC企業などを経て、キャリアコンサルタントとして独立。MCC東海代表、日本産業カウンセラー協会中部支部副支部長、NPO法人ブルーバード専務理事、愛知教育大学特別講義講師、PFA心理的応急処置WHO版指導者など

コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)

キャリアコンサルタントのさまざまな活動を応援します!「ACCN」のご案内はこちら


マンスリーコラム一覧へ戻る