キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2015年10月号

コンピテンシー・モデルとキャリアコンサルティング

最近、企業に出かけてカウンセリングをしていると、キャリアに関する相談が急激に増えてきたことを実感する。以前はメンタル不調や職場内のトラブルといった内容が主流だったが、「50歳だけど、定年まであと15年もあるのに、いったい何を目標に仕事にとり組んだらいいのか、全く見えてこない。」「34歳になるが、自分は他の企業でも、果たしてやっていけるのかと考えたら、ぜんぜん自信がないっていうか、よくわからないんだ。」なかでも特に多いのが、業績評価面談が近づく一ヶ月前あたりから、憂うつ感やイライラ、頭が痛い、といった心身の症状として訴えてくるケースだ。しかも、これらは何も一般職に限ったことではなく、管理職からの相談もよくある。

こういった相談は、今になって、急に始まったことではないが、要は自分はやれているか、やれていないのか、どこが課題で、どこ伸ばしたらいいのか、見えてこないし、上司との面談にも期待できないと訴えてくることが増えたのだと思う。

残念なことだが、今でも業績イコール売上げ高、それ以外の成果など目もくれないといった管理職は少なくはない。筆者は経済には素人であるが、売上げ高に気象条件や為替レート、原油価格などが大きく影響する業種であれば、尚のこと自分がやれているのかどうなのか、よくわからないだろうと推測する。

このようなカウンセリングに向き合うときに必ず参考にするのは、「コンピテンシー・マネジメント」だ。参考書としては、ライル・M・スペンサー、シグネ・M・スペンサー著「コンピテンシー・マネジメントの展開[完訳版]」梅津祐良、成田攻、横山哲夫訳で2011年に生産性出版から出版されている。分厚い本だが、とても読みやすく翻訳されていて、どの章立てから読み始めても理解できるように工夫されている。

この本のなかで「コンピテンシー」とは、ある職務または状況において、高い成果・業績を生み出す特徴的な行動特性だ、としている。もともと、コンピテンシー理論は、1970年代にハーバード大学の心理学者デイビット・C・マクレランドによる研究がはじまりとされている。マクレランドは、当時の米国国務省において行われている旧来の一般教養や文化についての知識、語学や経済学、行政学についての専門知識の得点と業績との間には相関がほとんどみられず、試験方法に重大な欠陥があることを明らかにした。

そして、もし、伝統的な適性テストの結果が職務上の業績を予見できないとするならば、何がそれを予見するのかというのが最初の問いだった。卓越した業績の人とそうでない人のサンプルから、成功と失敗の事例を語ってもらい、そのときに何を考え、どう感じ、何を達成したいと思ったか、どんな行動をとったか、さらにそれによって、どんな結果であったか、という短い物語を収集した。そこから浮かびあがってきたハイパフォーマーの行動特性、すなわちコンピテンシーが見出された。また、その結果には、人種、年齢、性別、教育バックグランドによる差はなかった。

スペンサーらによると、コンピテンシーは、表層に位置する知識と技術と中核にある個人の特性や動因があり、表層に位置する知識と技術は訓練によって、開発しやすいとしている。

最近、このコンピテンシーに着目した画期的な人財育成の本が出版された。

それは、看護管理コンピテンシー研究会編「看護管理者のコンピテンシー・モデル事例集 書き方とその評価」医学書院から9月に出版された本だ。看護師長や看護部長といわれる看護管理者の育成に向け、看護管理者のコンピテンシーを16種類抽出し、それぞれ6段階のレベルで評価。業績評価に組み込んで、組織の現状を可視化、それに基づく人財育成を重ねるといった、先進的な内容が書かれている。夜勤におけるトラブル、救急搬送の場面など、看護職であれば誰もが一度は遭遇する状況設定に、自分のコンピテンシーがどのレベルであるか、どのコンピテンシーが弱いのか、自己評価に加えて、上司や同僚からの評価で総合的に判断するように設計されている。

この場面では、この人にこう言わなければならないのか、ここまで言うことが求められているのか、という具体的な行動の基準が示されることで、心理的的な負担や過度な感情労働が抑えられ、それが組織全体に育成の効果として広がっていくのがよく分かる。

執筆者である虎ノ門病院の宗村看護部長の前書きによると、この取り組みの結果、看護師の退職率を20%から9.3%にまで減少されるところもあったという。

コンピテンシーは、選考、キャリア開発、業績評価、人財教育、そしてキャリアコンサルティングといった広範囲な分野に活用できる可能性を秘めている。

(筆者注)*人財としたのは、人を材料(モノ)の一つと表記したくないというささやかな抵抗による造語です。お許しください。

河野 裕子(こうの ゆうこ)

河野 裕子(こうの ゆうこ)

聖路加国際大学 精神腫瘍科

(株)リエゾンカウンセリング研究所

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