キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2015年11月号

キャリア支援におけるナラティブアプローチ

企業内でのキャリア支援をおこなう中で、「50歳以上のキャリア支援」や女性活躍推進の一環で行われる「女性のキャリア支援」が増えてきたと感じる。労働力確保のためや次世代の育成が目的とされている場合が多い。

研修などでキャリアをどのように捉えているかを問うと、依然として「キャリア官僚」や「キャリアウーマン」など特定の人のもので自分には関係ないという考えや、職業を中心とした外的なキャリアが上昇していくイメージなどの考えが強い。本来キャリアはすべての人に関わるもので、人生そのものといえよう。自分自身のキャリアを考えるうえで内的キャリアが重要であり、今までの経験をどのように捉えているかが鍵となる。

しかし、多くの場合、今までの経験を過小評価していたり、軽視していたりしていることに驚かされる。これは我が国の傾向でもあるが、やって当たり前、できて当たり前という考え方が根強いと考えられる。今さらだが、マズローの欲求5段階説にある、社会的欲求と承認欲求を満たす環境が整っていないためではないだろうか。すなわちキャリア形成のためには、自己実現欲求が生まれてくることが必要であるが、その前提となる社会的欲求、承認欲求が満たされていないと思われる。

日本理化学工業の大山会長の著書『働く幸せ』では、「人間の究極の幸せは、(1)人に愛されること、(2)人にほめられること、(3)人の役にたつこと、(4)人から必要とされること。働くことによって愛以外の3つの幸せは得られます」とある。人の役に立った、必要とされていると感じる言葉かけが日常の仕事の中で得られているのだろうか。自分自身の行為や経験をほめられ承認されることがあまりにも稀なのではないか。

キャリアコンサルタントとしては、相談者を肯定的に受容することで社会的欲求を少しでも満たし、経験を丁寧に聴きながら一緒に肯定的な「意味あるストーリー」を生み出していくことを重要視していきたい。

マーク・L・サビカスの『キャリア・カウンセリング理論〈自己構成〉によるライフデザインアプローチ』では、「キャリア・カウンセリングは人が仕事の世界における自己と自分の役割について統合した適切な姿を発展させ受け容れるのを支援する過程であり、この概念を現実に対して試行し、それを現実へと変化させる過程であり、その結果、その人自身には満足を、社会には利益をもたらす」とされている。

この中で、キャリア支援には、「職業ガイダンス」、「キャリア教育」、「キャリア・カウンセリング」があり、特にキャリア・カウンセリングではサビカスが提唱する社会構成主義を背景にしたナラティブアプローチが重要とされている。すなわち、内的キャリアを充実させ、どんな仕事であれその意味を、自分の経験や人々とのかかわりの中で見出していくために必要な「物語」を生み出すというアプローチである。

自分では、たいした経験もない、誇れるようなスキルもない、与えられたものをただやってきただけと捉えている相談者がほとんどであるが、実際その経験を聴いていくと「凄いなー」と感心させられることばかりである。私も駆け出しのころは兎に角、勇気づけようと根拠もなく褒めてしまうこともあったが、それでは逆効果で「すいません。元気づけてもらって」と言われてしまった。相談者の経験を丁寧に聴いていけば、必ずその人の宝物が見つかるはずであり、根気よく真摯に向き合うことで自然と承認できるのである。

たとえば、ある企業における50代の方のキャリア支援では、自分の経験を語ることに抵抗を示されたが、根気よく聴いていくことで様々なトランジションを乗り越えてこられた経験が語られた。その乗り越えてきた経験は得難いものであり、次世代に継承していくべきものであった。アイデンティティのラセン式発達モデルで知られる広島大学の岡本祐子先生も講演の中で、まずは相談者の方の今までの経験を丁寧に聴いていくことが重要であると述べられていたことを思い出した。

特に女性においては、自分の経験を過小評価している相談者は多い。社会のなかで認められたり、承認されたりした経験が少ないのが実情である。多くの企業が女性活用と謳っているが、まずは職場の中で日々お互いが相手の行為を認める、褒める、ねぎらうという承認行動をおこなっていく環境づくりが重要ではないだろうか。

組織は「ひと、もの、かね」と言われるが、私は物も金も有限であるのに対して、人の可能性は無限だと考える。そして、その人の可能性を拡げていくのが、キャリアコンサルタントの役割だと考えている。キャリア支援に携わる我々は、相談者の内的キャリアを重視して、その人らしいキャリアを築いてもらうために、今までの経験を丁寧に聴きながら、「意味あるストーリー」を見出し、今後の人生の可能性を拡げていく支援を目指していきたい。

石川 邦子(いしかわ くにこ)

石川 邦子(いしかわ くにこ)

ナチュラルウィル有限会社 代表
一般社団法人 日本産業カウンセラー協会 シニア産業カウンセラー
国家資格 1級キャリア・コンサルティング技能士
メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅰ種(マスターコース)
日本産業カウンセリング学会事務局長
日本産業カウンセラー協会認定講師

その他、法政大学等で非常勤講師と企業向けに社員教育及びカウンセラーとして活動。特にメンタリングプログラム導入コンサルやキャリア形成支援を中心におこなっている

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