キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2016年2月号

シュロスバーグ4Sに1つ加えて5S点検

2015年の国会において「キャリア・コンサルタント」と「公認心理師」の両資格が国家資格となることが決定しました。キャリアを専門とする相談員と、主にストレスやメンタルヘルスを専門とする相談員がそれぞれ別個の国家資格として誕生することになったわけです。

私が長く従事するEAPの相談現場においては、相談者がいちいち「キャリアの問題」「メンタルヘルスの問題」と分けて相談に来てくれるのではありません。異動や転職に伴って不調をきたす方も多く、キャリアの問題とストレスやメンタルヘルスの問題は切っても切れない関係にあるといって過言ではないでしょう。

先般、筆者の属する相談室に寄せられた5年間で約23万件の相談データを分析してみました。そうしたところ、キャリアに関する相談が主でも、何らかのストレス反応が訴えられている場合が多く、かつ「メンタルヘルス不調による休職」の事態において、キャリアに関する相談が多く発生していることが分かりました。相談対応上は、両者を網羅する関わりが必須といえます。

統合の「5Sモデル」

両者を網羅する相談対応を考えたとき、私は「5Sモデル」を常に頭に置いています。ストレスやメンタルヘルスのトラブルは、環境変化を引き金に生じる場合が多くなっていますが、ストレス関連の相談対応を考えると、アメリカ国立労働安全衛生研究所(NIOSH)の「職業性ストレスモデル」が問題を整理する枠組みとして有用です。一方、転機をどう生き抜くかの相談対応に関してはシュロスバーグの「4S点検」が馴染のある視点だと思います。実はこの二つのモデルは、枠組みが結構似ているのです。

○NIOSH職業性ストレスモデル:①ストレス要因、②個人要因、③社会的支援、④ストレス反応

○シュロスバーグ4S点検:①状況、②自己、③支援、④戦略

上記の通り、両モデルにおいて①~③はほぼ同じような要因を整理しているといえます。ただ、違うのがそれぞれの④です。職業性ストレスモデルは、不調に至る時系列を示したモデルのため、事態を良くしていくための「④戦略」という切り口はなく、4Sは転機を乗り切るリソースの点検ですので、不調の急性症状である「④ストレス反応」をチェックする視点はありません。シュロスバーグの4Sが馴染深いのは、その分かりやすさ、思い出しやすさにあると感じています。転機に際して「リソースを点検しようとする視点」と「点検すべき内容」に目を向けさせてくれるのが、4Sの良さでしょう。

そこで私は、環境変化や転機にまつわる相談対応に際しては、点検内容としてシュロスバーグの4Sに「ストレス反応(stress reaction)」をチェックする視点を入れ、5つのSを意識するようにしています。おこがましいですが、松本の「5S」です。

ストレスチェックの活用

労働安全衛生法の改正によって、2015年12月より50人以上の事業場には「ストレスチェック」を実施することが義務づけられました。このストレスチェックは、厚生労働省が作成した「職業性ストレス簡易調査票」を使用することが推奨されています。ご存知だったでしょうか?この尺度57問のなかには「仕事の内容は自分にあっている」など「職場の適合度」に関する設問が3問入っているのです。

「ストレスチェック制度は自分には関係ない」と捉えている技能士も多いかもしれませんが、ストレスチェック制度では職場ごとの結果分析が推奨されています。例えば、「職場の適合度」の低い部署に関しては、技能士がヒアリングを兼ねた個別相談を行うなど、本制度を皮切りに実施できる関わりも色々とあると思います。

先述しましたが、人は悩みごとを抱える際、「キャリアの問題」「メンタルヘルスの問題」と分けて悩むわけではありません。そもそも両者の分類は便宜的なものであって、明確に分けられるものでないでしょう。しかし、両者が別個の国家資格となり、教育カリキュラムの差別化、資格ビジネスの拡大、養成講師の現場離れなどに波及して行くと、相談員の専門分化が更に大きくなっていくことが予想できます。

この専門分化は、どうしたって避けられない動向なのかもしれませんが、できる限り幅広く全人的に相談対応できることを目指す姿勢は、失くしてはいけないものだと考えています。

松本 桂樹(まつもと けいき)

松本 桂樹(まつもと けいき)

東京学芸大学大学院教育学研究科修了後、心理職として精神科クリニックに勤務の後、日本初の外部EAP専門機関である株式会社ジャパンEAPシステムズに入社。現在、同社代表取締役社長。20年以上に渡り、勤労者の仕事にまつわる様々な悩みごとに関して相談対応を行ってきている。法政大学大学院人間社会研究科兼任講師、日本産業カウンセリング学会副会長なども務める。
保有資格は臨床心理士、1級キャリア・コンサルティング技能士、精神保健福祉士、シニア産業カウンセラーなど。

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