キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2016年3月号

中高年失業者の再就職支援の現場で感じること~キャリア面とメンタル面の統合的支援~

私は再就職支援会社のキャリア・コンサルタントとして、大企業等に長年勤務してきた主に40代以降の中高年失業者のセカンドキャリア支援の仕事をしています。私が支援している人の多くは終身雇用を想定しており、雇用調整による突然の退職により、これまで積み上げてきたキャリアを突然断ち切られる喪失体験をしています。さらに、住宅ローン等の経済的問題、親の介護等の家族の問題、および、生活習慣病等の健康上の問題等、中高年特有の多軸の問題を抱えている人の割合も高いです。また、最近は失業率が低下し有効求人倍率も高く、雇用環境が全体的に良い状態が続いていますが、雇用のミスマッチの問題もあり、中高年失業者の再就職活動は長期化し、多軸、多大なストレスを抱えている人が多いのが実情です。

このような状況に置かれた中高年失業者の再就職活動では、キャリア面だけでなく、メンタル面も統合した支援が必要になってきています。このような視点で、私自身が日頃、再就職支援のキャリア・コンサルタントとして大事にしていることに触れてみたいと思います。

計画された偶発性

現在の中高年の再就職では、これまでのキャリアを活かした同業界同職種への再就職が困難な状況です。活動当初はこれまでのキャリアを活かした同業界同職種への再就職を希望する人が多いですが、活動が進む中、これまでのキャリアが通用しない壁に遭遇し、他業界他職種への再就職の検討が必要な段階を迎える方も多くいます。

この段階において、私はクランボルツの「計画された偶発性」の概念を活用した支援が有効だと思っています。具体的には、興味あるテーマの勉強会等への参加、新たな資格取得のための勉強等、好奇心、冒険心等を軸とした探索的な活動を支援します。オープンマインドな姿勢で探索的な活動を進めていくと、想定外のキャリアと遭遇し、具体的な再就職目標に展開していく場合もあります。キャリア・コンサルタントは探索的な活動で得られた新たな気づき等を丁寧に聴いて、キャリアプランとして整理する役割をします。

また、探索的な活動においては、その方向性に確信が持てずに、「具体的な再就職目標が決まらない」等の不安を感じる段階もあります。このような時、未知のキャリアを切り開く継続的な活動を支えていくために、キャリア面とメンタル面の統合した支援が必要になってきます。そして、粘り強い探索的な活動の結果、私が支援した実例では、終活カウンセラー、大学の講師兼キャリアセンターの相談員、福祉タクシーの運転手兼経営者等、当初想定していなかった未知のキャリアに出会い、創造的なセカンドキャリアを歩み始める人も数多くいます。

セカンドキャリアの意味づけ

これまでのキャリアが通用せず、数多く応募しても再就職が決まらず、大幅なキャリアチェンジを検討せざるを得ない段階を迎える人が多いのも実情です。例えば、マンション管理の仕事は中高年失業者のキャリアチェンジの再就職先の一つですが、ともすれば、仕事内容や収入面で携わる仕事ではないという捉え方をされてしまう傾向があります。一方、私が支援した人の中には、日本の百名山の踏破を目標に平日、登山できるライフスタイルを実現するために、週3日のマンション管理の仕事を選んだ人もいました。また、うつ病と糖尿病を抱えながら働くことを余儀なくされる中で、マンション管理の仕事を選んだ人もいました。その人はマンション住民との適度なコミュニケーションやエレベーターを使わず階段を上り下りする適度な運動の結果、うつ病、糖尿病ともに改善して健康な状態を取り戻しました。また、これまでのスキル、経験を活かした業務改善提案をして表彰される等、マンション管理の仕事自体にやりがいを感じて積極的に取り組む人もいました。

このように、セカンドキャリアの仕事をどのように捉えていくかによって、セカンドキャリアを軸とした人生の景色が変わってきます。私は、キャリア・コンサルタントとしては、その人ならではのセカンドキャリアの意味づけを支援していく、キャリア面とメンタル面の統合した支援をすることが大事だと思っています。

精神疾患を抱えながらの再就職活動

私が支援している中高年失業者の中にはうつ病等の精神疾患を抱えながら活動する人も多く存在します。私は、このような人には再就職活動の一連のプロセスを精神疾患の治療における「リハビリ」の一環として取り組むように意識づけることが大事だと思っています。再就職活動における各段階の活動をその人が利用しているリワーク・プログラムや就労支援機関における活動と連動させ、「リハビリ」の一つとして位置付けるということです。例えば、求人情報の検索はパソコンスキルを維持、上達させるトレーニングでもあり、多くの情報の中から必要な情報を抽出する判断力のトレーニングとしても位置付けられます。また、面接はアサーションのトレーニングでもあり、他者視点を取り入れたコミュニケーションスキルを磨くトレーニングにも位置付けられます。また、何回も面接を落ちる体験は負の体験をどのように受けとめるかという認知行動療法のトレーニングにも位置付けられます。

私の体験では、再就職活動を「リハビリ」の一環として位置付けると、再就職活動に取り組むハードルが下がり、病状の改善と再就職活動の進捗を同時並行的に進めることが可能になることを実感しています。そして、一定期間の再就職活動後、病状や生活リズム等の改善が進むと同時に、自らの心身の状態に合わせた適度な仕事に再就職することが可能になります。再就職後、環境変化もあり、多少不安定な状況になることもありますが、その後、継続的に勤務できるようになる人が多いです。このように、精神疾患を抱えながらの再就職活動には、「リハビリ」と再就職活動をつなげていく、キャリア面とメンタル面の統合した支援をすることが大事だと思っています。

以上のように、中高年失業者の再就職現場では、支援の各段階において、その状況に合わせたキャリア面とメンタル面を統合した支援が必要であり、再就職支援のキャリア・コンサルタントとしても、今後、キャリア面、メンタル面の両方の統合的な視点で支援をしていく姿勢とスキル、経験が必要になってくると思われます。

最後に

中高年失業者のキャリアカウンセリングにおいては、その人がこれまで積み上げてきたキャリアを尊重し、真摯な姿勢で向き合うことがとても大事だと思っています。

再就職支援会社で支援する側のキャリア・コンサルタントの多くは中高年層であり、その中には中高年失業者と同様の体験をしている人もいます。すなわち、キャリア・コンサルタント自身が前職の企業を辞めざるを得ない状況に追い込まれ、自らのキャリアを断ち切られる喪失業体験を持ち、その体験を活かしてキャリア・コンサルタントとして働いている人もいます。このように、支援する側と支援される側の双方が、企業組織の中で様々な体験をしている共通性の中で、積み上げてきたキャリアを尊重し、真摯な姿勢で向き合うことで独特の信頼関係が生じていることを感じます。このような信頼関係の土台があるからこそ、中高年失業者も様々な喪失体験を乗り越え、大幅なキャリアチェンジも受け入れることできることを実感しています。

再就職支援のキャリア・コンサルタントにとっては、中高年失業者のキャリアの大きな節目に関わり、自分らしいセカンドキャリアを歩むための支援ができることがやりがいだと思いますし、同時に、自らのキャリアに関して大いなる学びになっていると思います。私も再就職支援のキャリア・コンサルタントとして、日々一人ひとりの中高年失業者のキャリアに真摯な姿勢で向き合い、さらなる研鑽を積んでいきたいと思っています。

馬場 洋介(ばば ひろすけ)

馬場 洋介(ばば ひろすけ)

株式会社 リクルートキャリアコンサルティング キャリアカウンセラー、医療法人社団 平成池袋クリニック リワーク・プログラム 統括責任者、 城西大学 経営学部マネジメントシステム学科 心理学・産業心理学 非常勤講師、神奈川大学 人間科学部 ライフデザインの心理学 非常勤講師

<資格>
2級キャリア・コンサルティング技能士、産業カウンセラー、臨床心理士、中小企業診断士、神奈川大学大学院 人間科学研究科 人間科学専攻 臨床心理学領域博士後期課程 修了博士(人間科学)

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