マンスリーコラム
「キャリアコンサルタントとPCAGIP法」
「PCAGIP(ピカジップ)法」という新しい事例検討法をご存知でしょうか。キャリアコンサルティング技能士会のホームページを見ると、すでに関西支部、中国・四国支部、東北支部、九州・沖縄支部においてPCAGIP法を用いた勉強会が行われていることがわかります。PCAGIP法は、「事例提供者が簡単な事例資料を提供し、ファシリテーターと参加者が安全な雰囲気の中でその相互作用を通じて参加者の力を最大限に引き出し、参加者の知恵と経験から、事例提供者に役立つ新しい取り組みの方向や具体策のヒントを見出していくプロセスをともにするグループ体験」と定義されています。そのPCAGIP法が我々キャリアコンサルタントに何をもたらしてくれるか、我々の実践のどんな助けや支えになってくれるかを今回は書いてみたいと思います。
キャリアコンサルティング技能士会九州・沖縄支部では、2016年7月に開発者である村山正治先生から直接PCAGIP法を教えていただいたことを機に、先月までに福岡、熊本、鹿児島、沖縄において19回の勉強会と2回の研修の機会を持ち、キャリアコンサルタントが抱える29の困りごと(事例)について検討を行いました。特に「キャリアコンサルティングへのPCAGIP法導入の意義と課題」(2017年9月日本人間性心理学会第36回大会において発表)をまとめてからは質的な向上があり、より充実した時間が持てるようになりました。参加者に「PCAGIPには可能な限り参加する」「PCAGIPの空気が好き」「PCAGIP道を究めたい」とまで言わしめるその魅力は、なんでしょうか。
1.村山先生との出会い
2016年7月、幸運なめぐり合わせから村山先生に直接PCAGIP法を教えていただくことができました。それは、村山先生にとってもキャリアコンサルタントという資格を持った人たちとの初めての出会いであったそうです。PCA(Person-Centered Approach)、「ロジャース選集」、エンカウンターグループと先生の研究や専門分野について参加者のほとんどが断片的な知識しか持ち合わせていませんでした。とにかく事例検討というもの、PCAGIP法というもの、村山先生が直接教えてくださるということが参加者を惹きつけたのだと思います。PCAGIP法について、先生が語るひとつひとつの哲学や背景、信念ともいうべき人間観は我々に大きな刺激を与えました。本を読むだけでは捉えきれない核心の部分を体現し、言葉や態度、作り出す空気全体から伝えてくださいました。
2.キャリアコンサルタントはPCAGIP法がうまくできない?
背景や哲学、方法がわかっても、うまくやれるわけではありません。村山先生がファシリテーターをしてくださる時には、事例提供者に目に見える変化が起き、「何かの手助けができた」という充実感がありましたが、自分たちだけでやってみるとそうはいきません。「結論ではなくヒントがあれば十分」「理解が中心」ときいてはいても、出てくる「質問」が助言や提案、その人の価値観からくる意見の表明、事実確認だと、事例提供者は責められたような気持ちになってしまいます。事例提供者がずっと事柄や状況、最初と変わらない気持ちを話している時には、「理解のための質問」や「相手に響く質問」ができないもどかしさを感じました。そんな時には「問題解決ではなく、理解」、「わかってもらうことがその方にとってどれだけ大きな支援になるか」、「話題提供者を変えていく力はその人の中に内在している」という村山先生の言葉を思い出す必要がありました。また「質問しなくては」となると、「頭で考えた良いこと」を言おうと構えてしまうので「身の内で感じてきいてみたいこと」と素朴に、より感覚に意識が向けられるよう参加者に伝えた方が良いのではないかとのアイデアも村山先生からいただきました。方法は簡単に見えても、奥が深いことが我々をさらにPCAGIP法に向かわせました。
3.キャリアコンサルタントは困っている
継続的にPCAGIP法を続けていると、キャリアコンサルタントが実に多様な問題に悩まされていることがわかってきました。相談場面におけるクライエントとの関わりはもちろん、自身のキャリア、職場の人間関係、家族や知人との関係など今後の生き方・働き方に深く影響を及ぼすことについて、安心して相談できる場がほとんどないというのが現状です。スーパービジョンや事例検討の機会も限られていました。技能士会という、会員同士の対等な関係性の中で、いかに会員同士がお互いへの理解を深め、日々の実践を支え合えるかが長く横たわる課題でした。
4.PCAGIP法がもたらしたもの
PCAGIP法は「事例提供者が元気になる」ことを目指しており、スーパービジョンや一般的な事例検討とは異なるアプローチです。スーパービジョンのように事例提供者の課題が見えることもありますが、そのことが中心ではありません。また一般的な事例検討のように事例を「主役」として、見立てや手立てを考えるものとも異なります。あくまで「事例提供者が主役」であり、事例提供者の主観に基づく世界を「理解」していくことに重点を置きます。事例提供をしてくださった方が後日談として「問題を取り巻く状況は変わっていないけれど、またうんざりした捨て鉢な気持ちになりそうな時、PCAGIPの場面を思い出し、気持ちに余裕が持てる」と話してくれたことがあります。安全で安心な場において、仲間が自分と自分を取り巻く状況を丁寧に理解しようとしてくれたことがこの方の困難場面を今も支えています。ここに至るまでに、我々キャリアコンサルタントの取り組みを温かく見守り、緩やかな変化と成長を待ち続けてくださる村山先生がおられること、先生からPCA(Person-Centered Approach)を体現する姿を見せていただいたこと、うまくいかない時にも、とにかく集まって試行錯誤した仲間、その中から生まれた知恵や工夫があったことがまず大きな成果でした。そしてそれは、我々キャリアコンサルタントのコミュニティに、安全で安心な場を作り出す力を与え、仲間を信じ、お互いを認め合う関係性をもたらしました。毎回新たな参加者を迎え、これからもPCAGIP法によって仲間の実践とより良い働き方・生き方を支えていきたいと思います。
<参考文献>村山正治・中田行重(2012) 新しい事例検討法PCAGIP入門―パーソン・センタード・アプローチの視点から― 創元社
<お知らせ>2018年8月18日・19日の2日間仙台にて、キャリアコンサルティング技能士会東北支部主催の「事例検討PCAGIP法入門講座~開発者 村山先生を迎えて~」が行われます(技能士会会員限定)。詳しくは、以下技能士会ホームページ内 東北支部ページをご覧ください。
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