キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2018年7月号

「地方におけるキャリアコンサルタントの現状と課題~熊本地震後の環境変化の中で」

私がキャリアコンサルティングの勉強を始めたのは、2003(平成15)年に当時の雇用能力開発機構の方から「キャリアコンサルタント養成講座」の受講を勧められたのがきっかけです。1993(平成5)年から会社で就職情報関係の仕事を担当しました。当時はいわゆるバブル経済が崩壊し、就職氷河期に突入していった時期で、就職難に喘ぐ学生らの就職相談が頻繁にありました。その頃の相談に対するアドバイス等は私自身の経験をベースとしたもので、傾聴することもなく、一方的にしゃべる、といった具合でした。そのためか、相談終了後、何かしっくりと来ない感じが度々ありました。

養成講座の勧誘を受けた時に、「キャリアコンサルタント」という言葉は初めて聞きましたが、相談を受けるにあたって、何か専門性が必要だな、と感じていましたので、即座に受講を決めました。受講後も自身の経験値で話す癖からなかなか抜け切れず、次の2級技能士合格までは長い道のりとなりました。しかし時間をかけて勉強した分、客観的に自分を見つめ直し、いくらか謙虚さも身についたかな、と感じています。一緒に勉強し、受験対策にお付き合い頂きました優しき皆々様には心より感謝申し上げます。

1.キャリアコンサルタントに対する行政、企業の認識は薄い?

さて、厚生労働省が5万人のキャリアコンサルタント養成を打ち出してから、今年で16年目となります。しかし、地方・熊本でのキャリアコンサルタントの認知度は私の行動する範囲、知る範囲で見ると、限りなく低いというのが率直な印象です。

熊本には県が新卒者らの県内就職促進を目的に独自に制定した「ブライト企業」という認定制度があります。いわゆるブラック企業に対するホワイトの意味合いで、労働環境や処遇向上に取り組む企業を認定するものです。2016年からスタートし、現在194社が認定されていますが、その認定条件の中にはキャリアコンサルティングというワードは全く見当たりません。

同じく、厚生労働省が若者の採用・育成に積極的な企業を認定する「ユースエール企業」の制度がありますが、その認定条件にはキャリアコンサルティング制度の有無が問われています。ただその有無は絶対条件ではないようで、認定を受けた企業の中でキャリアコンサルティング制度がある企業の割合は少ないようです。ちなみに熊本のユースエール認定企業は現在16社で、そのうちキャリアコンサルティング制度がある企業はわずかに3社でした。

キャリアコンサルタントの養成を国は本気で推進しているものと思っていますが、実態としてはまだ行政現場や企業の認識は薄いのかな、と案じております。

ただ、前年度までセルフ・キャリアドック導入の支援制度がありましたので、熊本でも一部の企業でキャリアコンサルティングを実施しているという話は耳にするようになりました。その効果や反応はまだ定かではありませんが、今後は企業が補助金なしでもセルフ・キャリアドックを本気で導入するかどうかが大きなポイントです。直接関わることになる私たちキャリアコンサルタントが積極的に企業にアプローチしていくことが、今後、求められるのではないかと思っています。

2.熊本地震後の人手不足で、正社員の求人倍率が1倍超え

熊本は一昨年(2016年)の4月14日と16日、大地震に見舞われました。以降、県内は未曾有の復興需要が起き、建設業を中心に求人が大幅に増加し、その年の10月の有効求人倍率は1.46倍に上昇、九州では最高値となって、全国平均も上回る状況になりました。以降、求人倍率は上がり続け、今年4月現在で過去最高値の1.74倍となり、今、県内各業界で人手不足が深刻化しています。

この大変動で県内企業などは、求人に対する考え方を変えざるを得なくなりました。従来ならば、離職者が出たら、募集をすれば補充はしやすい状態でしたが、求人・求職のバランスが崩れてしまい、簡単に人が集まらなくなってきたわけです。そこで、今いる従業員の離職を防ぎ、定着率を高めようという企業が出始めました。いわゆる「リテンション」です。離職者を減らせば、採用数も最小限度に抑えられるということに企業の考え方が変わってきたわけです。

それで離職者を減らすためにと、以降、給与・待遇、福利厚生の改善を進める県内企業の動きも出始めました。これは丁度、国が推進している働き方改革にも合致し、その関連したセミナーが開かれるとどこも大盛況という状況になりました。その待遇改善を裏付けるデータとして、正社員の求人倍率の変化があります。熊本地震前の3月は0.72倍でしたが、9カ月後の12月には調査開始後初めて1倍を超え、昨年12月には1.22倍まで上がりました。現在も全国平均を上回る1倍台で推移しています。これは人手不足の中、企業は人材確保のために、従来のパートタイマーなど、非正規雇用を見直し、正規(正社員)雇用に切り替えていることを表しています。

3.復興需要終了後も売り手市場は続く~エンプロイメンタビリティが問われる

今、熊本では人手不足のピークも過ぎ、復興需要もあと2、3年で終了するのではないか。そうなれば企業が淘汰され、今度は人余りが起きるのではないか、と囁かれています。

確かに今の状況は熊本の正常な状態ではなく、地震前に戻るならば、人余りは起きるかもしれません。実は私も当初、そのように考えていました。しかし、全国的に進行している人口減少について、熊本の状況を調べてみると、人余りになるのは一時的なものではないか、という考えに変わりました。

県のデータによると、2018年5月1日現在の県人口は175万7682人ですが、22年後の2040年には約29万人減の146万7000人まで縮小すると予測しています。単純計算すると、これから毎年1万3000人ずつ減っていく。生産年齢、年少、老年の人口すべてが・・・。つまり、これからも人手不足、売り手市場は続き、慢性化し、かつてのバブル期後に買い手市場に戻ったようにはならない、ということです。

この売り手市場の中で企業はどうやって人材を確保していくか。求職者のエンプロイアビリティ(雇用され得る能力)は、企業が採用を決める時の必須条件ですが、これからはエンプロイメンタビリティ(企業の雇用能力)が、求職者から問われ、注目されることが増えていくのではないかと思っています。求人数に対して、求職者数が少ないというアンバランスな状態が慢性化するわけですから優秀な人材は奪い合いという状況になります。事実、熊本では既に新卒・中途市場でそのような状態が見受けられます。

4."従業員にも中長期計画がある"~キャリアコンサルタントが企業領域で果たす役割

それでは、従業員の定着率を高め、優秀な求職者に選ばれるためには、求人側はどうすればいいのか。熊本では、改善・改革を考える企業は増えていますが、ただ、具体的に何を、どのように改善・改革するのか、についてはまだ試行錯誤の状態なようです。すぐに給料を上げて、休みを増やせれば一番いいのですが、それには限界があります。それでは何を変えていくのか。

改善・改革後の理想的なイメージは、『従業員が働き方に満足し、仕事に対するモチベーションが上がり、その結果、企業の業績も向上し、成長・発展していく』という姿です。

改善・改革は経営者が独断で決めても、従業員が心から満足しなければ意味がありません。従業員は何を考えているか、何を求めているのか、何に不満があるのか等など、それを正確に把握した上で実行してこそ、改善・改革の実効性は高まります。

今、県内でも従業員との面談やコミュニケーションを密にし、従業員の状況把握に努めている企業があります。改善・改革に熱心な経営者が従業員とコミュニケーションを取り、その本音を引き出そうと試みていますが、経営者・上司と従業員の関係にはどうしても壁があり、限界を感じているようです。

企業には利益を追求し続けなければならないという宿命、目的があります。そのためにどの企業も中長期経営計画を立て、目標達成に向けてまい進しています。従業員はその会社方針に従って働かなければなりませんが、一方では、従業員一人ひとりにも、個人や家族を含めた中長期計画(ライフプラン)があり、皆、それを働きながら実現しようとしている、という事実があります。

経営者もそれは分かっているのではないか、と思いますが、これまではあまり注目されてきませんでした。「ワークライフバランス」という言葉、考え方が、今、熊本でも叫ばれ、注目され始めていることが、そうした現実を反映しているのではないかと思います。

しかし、これからは従業員のライフプラン、キャリアプランにも経営者は注目していく必要があります。そして、会社としてその個々人のプランを支援していくならば、従業員は働き方に満足し、仕事に対する意欲も高まるのではないでしょうか。

熊本では、県民、企業・団体のすべてが大地震の大変な経験をしました。しかし、その結果、この時代の大きな変化にいち早く気づき、実行できる体制、環境になっているのではないか、とも感じています。

今後、企業領域における私たちキャリアコンサルタントが果たす役割は大きく、企業にキャリアコンサルティングの重要性、キャリアコンサルタントの役割を伝え、実行していくことが、私たちの使命ではないか、と考えています。そして、自身のキャリアコンサルタントとしての真価や力量も問われるのではないか、と思い巡らす今日この頃です。

秋田 重典 (あきた しげのり)

秋田 重典 (あきた しげのり)

大学卒業後、軽自動車・2輪車メーカー勤務を経て、熊本の出版社に入社。熊本、福岡で月刊・週刊経済誌の編集・発行及び熊本で就職情報誌の編集・発行、就職イベントの開催などを担当した。この間、大学・短大・専門学校生の就職支援及び企業の採用支援を延べで20年間実施。同時に国、県から委託を受けた職業訓練も8年間実施。県内大学・専門学校の就職講座及び企業向け講演の講師を務める。熊本大学理学部非常勤講師、キャリアコンサルティング技能士会会員

資格
2級キャリアコンサルティング技能士
国家資格キャリアコンサルタント

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