キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2018年9月号

 「私を育ててくれた3人の相談者さん」

私がキャリアコンサルティングに関わらせていただくようになって約12年になります。最初の2年くらいは単に話を訊くことしかできず、雑談のみで終了時間を迎えてしまったり、内容の薄いコンサルティングだったり・・・。その当時は精一杯の努力をしていたつもりでしたが、今思うと独りよがりの自己満足な面談になっていたような気がします。今でも勉強の途中でありコンサルティングスキル的にはまだまだなのですが、こればかりは一生勉強であり完成形はないと考えています。

現在まで、様々な方との面談を経験させていただいたのですが、今回はその中から特に影響を受けた相談者さんの事を事例としてご紹介していきたいと思います。もちろん守秘義務がありますので、書ける範囲内でのことになりますが。

「今回は値踏みをするために来た」

一人目は、面談は最初が肝心!!だということに気づいたケースです。

私が個別に面談をするようになって初期の頃に担当した相談者さん。男性で50代後半くらいだと記憶しています。面談当初から仏頂面で私の質問に対しても「ああ」「だから何」「それで」を繰り返すような方でした。私はどう対応して良いかわからず困ってしまい、お互いに沈黙したまま時間だけがどんどん過ぎていきました。汗は出るし、余計に緊張するし、眼を合わせることが怖くなってしまったのです。沈黙が3分ほど続いたあと(実際は10分くらいに感じたのですが)、相手の方が口を開きこう言いました。「私はこれから就職活動を始めようとしている。どんな方が私の支援をしてくれるのか今回は値踏みをするためにきた」。その時に私は思いました。この方は、不安で仕方ないのだ。一生懸命、これからの人生の事を一緒に考えてくれる人を探しているのだ、と。

しかし、関係構築ができないまま進んだこの面談では時間内に関係の改善はできず、残念そうな態度で退室されていきました。初期の段階で関係構築、信頼関係が出来ていれば違った展開になっていたと思います。

このケースで私は面談開始直後の関係構築の大切さを教えて頂きました。

「今は話したくありません」

二人目は質問をおこなう場合は相手の表情や反応をみることがとても大事だというケースです。

女性で30代。数か月前に離職し、半年後に結婚のため他県に移るまでの間、何らかのアルバイトをしたいとの要望で来所されました。希望職種を聞いて職務の振り返りの為、一緒に職務経歴書を作成しましょう、との流れになりました。

私たちは、離職理由を相談者さんに尋ねる際に「辞めた理由」を深堀りしてしまいがちになります。例えば、辞めた理由が「人間関係」だと返事をされたら「詳しく教えてください」「どのような点が貴方に影響を及ぼしたのですか?」など質問攻めにしてしまうことがありませんか。私もそうでした。なぜなら辞めた本当の理由、というか深い部分を知る事で「もっと深く関わることができる」「次は離職することのない職場への道筋をつけることができる」と思っていたのです。

私は、相談者さんに対して「これまで貴方のお話を伺っていると、離職理由の一つとして前職での人間関係があるようです。少し詳しく話していただけませんか」と訊いてしまったのです。もちろんこの言葉はコンサルティングをおこなう上で必要なことでもあるのですが、私はタイミングを間違えてしまったようです。相手の反応は「今は話したくありません」でした。その瞬間、信頼関係は崩れ、コンサルティングにならなくなってしまいました。

ここで、学んだことは、自分本位の質問になっていないのか、必要な質問だとしても、そのタイミングや話し方などは相手の表情や態度をよく観察しつつ進めていくことが必要だということです。

「あなたが熱心に背中を押すので」

最後は、背中を押すより自立心を煽ることも必要だということに気づいたケースについてお話します。

相談者さんは30代前半の男性。資格を活かした転職を希望しているがニッチな分野なので自信が持てない、とのことでした。とはいえ経験もあり、明るくハキハキとした受け答えのできる印象の良い方なので就職活動のやり方、ポイントなどを伝えることができれば早々に希望職種に就くことが出来るであろうと見立てていました。ところが、数か月経ってもなかなか就職できません。何度も来所していただき面談を重ね、書類も面接練習も数多くこなしたのに、なかなか内定がもらえないのです。もちろんニッチな分野での就業を希望されていましたので応募企業そのものも多くはないのですが、彼の経験や人柄なら容易に就職できるものだと思っていたのです。

ある日、いつものように来所され、「また残念な結果でした」の第一声から始まり終盤には「元気になりました」「やる気がでました」「再度がんばります」などと言って元気に帰られる姿をみて、なにか悪いループに入り込んでいるような気がしてたまらなくなりました。そこで、改めて面談記録を見直し、時間をかけて振り返ってみたところ、重要なことに気づきました。

初回面談での聞き取りが関係構築を行いながら自己理解、仕事理解がどの程度できているのか、など確認しながら進めていくことが基本となります。しかし、彼の最初の印象があまりに良かったので、自己理解や仕事理解が出来ているのだ、と勝手に思い込み次のステップへ進んでしまったのではないかと考えました。すぐに私は面談の予約を取り、改めて確認作業から進めることにしました。すると彼はこの仕事をやりたいわけではなく他に選択肢がなかったこと、私が熱心に背中を押すので、その気になっていたこと、なかなか内定が出ないので意地になっていたこと、心が折れかけていたときは背中を押してもらい自分を鼓舞するために来所されていたこと、などが分かってきました。私は、自分勝手な見立てを行い、相談者を置き去りにして面談を進めていたことにようやく気付き方向を修正することができました。

彼は、まだ私のところに通ってくれています。時間をかけて長期的なキャリアプランを考えることから始め、仕事の価値観を再認識して自分に合った仕事に就くことができるようこれからも支援していくつもりです。

まとめ (これらの事例で学んだこと)

相談者ファーストであるべきだ、ということです。

そのためには、キャリアコンサルタントとして、基本的態度、傾聴のマインドに基づいた立ち振る舞いで相手に安心感、信頼感を持っていただくこと、労働環境や就労に関する動きについていつも最新情報を入手し、有益な情報を提供できるように努めることが重要になります。普段、ネットで情報を収集している方は新聞や情報誌などにも目を通してみることもいいのではないでしょうか。そして人と会って直接話を聴かせてもらう機会を大切にすることで普段得られない活きた情報が手に入ると思います。

私自身が面談の時に気を付けていることは、相手が面談の時にどう感じるのかということです。例えば、聞き取りやすい声の大きさ、姿勢、ペンを相手に向けない、間を開けた話し方、最初の10分をどう使うのかなどです。相手によっては一刻も早く本題に入って欲しい、と思うでしょうし、人によっては初めて会う人に自分をさらけ出すのですから緊張もするでしょう。場を和ますため最初の10分を有効に使ってもいいかもしれません。大事なことは相手をしっかりと観察して、ゆっくりと言葉を発することだと思います。

最後になりますが、私は自分自身のコンサルティングを上手だとは決して思いませんし、後悔することも多々あります。なぜ、こんな言葉をかけたんだろう、あのときもっと早く気づくことが出来れば・・・の繰り返しです。今の私の目標は、目の前の相談者の方が【来て良かった】と思っていただけるような言葉をかけることができるようになることです。そのためには自己研鑽を積んですべてのコンサルティングスキルをブラッシュアップしていくことが必要だと思っています。

これからも【自分にできる事から】を心掛け、【話して良かった】といっていただけるようなコンサルティングを目指したいと思います。

村上 建夫(むらかみ たてお)

村上 建夫(むらかみ たてお)

熊本県在住。医療関係卸業や食品製造業を経験した後、職業訓練、若年者就職支援、海外から帰国された方への進路相談業務等をしています。これまで、製造・販売・営業職を経験してきたので様々な分野での相談に対応することが出来ることが強みです。
1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー

コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)

キャリアコンサルタントのさまざまな活動を応援します!「ACCN」のご案内はこちら


マンスリーコラム一覧へ戻る