マンスリーコラム
キャリアコンサルタントに不可欠な「感性」の磨き方
「先生は引き出しが多いんですね。どうやって引き出しを増やしているんですか?」
キャリアコンサルタントを目指す方の指導をしている際に、受講者から言われた言葉です。私のデモンストレーションや支援策の例示が、想像もできないものだった、と言うのです。
私はカウンセラー/キャリアコンサルタントとしてはまだまだではありますし、突飛なカウンセリング/コンサルティングをしているわけでもありません。でも、彼らの刺激になったものがあるのだとすれば、それは、10数年この仕事を続けてくる中で大事にしてきたものから生まれたのだろうと思います。
私がカウンセリング/キャリアコンサルティングにおいて最も大事にしているのは、「感性」です。クライアントの状況を正確に把握し、さまざまな方向から考え、整理をしていくという点においては、論理的思考は非常に重要なのですが、クライアントの心に触れ、心をサポートする以上、感性ほど大事なものはないと思うのです。そう思うようになったきっかけは、前職にあります。
私は以前、フリーライターとしてさまざまな分野の著名人のインタビューをしていました。中でも多かったのが、ミュージシャンのインタビュー。彼らが生み出す音楽について話を聴いていくわけですが、これが他ジャンルのインタビューと比べてとりわけ難しかったのです。そもそも言葉にならないものを表現しているのが音楽なのに、それを言葉にしていくわけですから。
表面的に、論理的に話を聴いていたら、つまらない記事にしかなりません。アーティストならではの言葉を引き出したくてトライしたのは、音源を何度も何度も聴く、ということでした。新譜を5回、10回と聴く――アルバム1枚が1時間程度として、5時間以上はかかる作業です。でも、何度も聴いているうちに、「あっ、そうか」と"気づく"瞬間が訪れるのです。そのミュージシャンが何を訴えたいのか、何を表現しようとしているのか、彼らの心象風景はどんなものなのか。繰り返し聴くことで、歌詞が含む意味合いや音が醸し出しているものが徐々に感じ取れるようになっていくのです。まさしく「感性」のなせる業です。それこそ言葉では言い表せない不思議な感覚ですが、気づきが訪れたときの感動は今も忘れられません。
インタビュ―本番では、そのようにして気づいたことを伝えます。するとほとんどの方が、「そうなんです! わかってくれたんですね!」といった喜びの表情を浮かべて、自らの音楽と心の世界について熱く語ってくれました。
心と心が触れ合えたインタビューは、私の大きな成功体験になりました。フリーライターからカウンセラー/キャリアコンサルタントに転じたと言うと、「全く違うお仕事をされているんですね」と言われますが、私の中ではつながっています。「感性」を全開にして目の前にいるの方の心を感じながら話を伺っていくという点においては、今もあのときと同じことをしているのです。キャリアコンサルティングやカウンセリングでも、じっくりと話に耳を傾け、相手の心を感じ取るように丁寧に聴いていくと、「あっ、そうか」と"気づく"瞬間がやってきます。
キャリアコンサルティングがなかなかうまくいかない方を見ていると、「自分のやり方」や「自分目線」から抜け出せないことが多いようです。相手目線に立つことができなければ、キャリアコンサルティングは前に進みません。だからこそ、さまざまな立場に、さまざまな心のありように寄り添えるよう、相手目線になって相手の心を感じる「感性」を磨くことが重要なのです。
ベテランの男性などは、「若い女性のクライアントは苦手です。全然気持ちがわからない」とおっしゃることが多いですが、言うまでもなく、立場や生きる世界が全く違っても、その人のことをわかろうとする姿勢が、キャリアコンサルタントには不可欠です。
片っ端から映画を見る、音楽を聴く、興味のなかったジャンルの本を読む、行ったことのない場所に行く、知らない人と話す......日常生活の中でそういった非日常的アクションを起こすことが疑似体験になり、「感性」は磨かれていきます。そんな日々の積み重ねによって、「引き出し」は確実に増えていきます。そうすれば、到底わからないと思っていた人のことが、少しずつわかるようになっていきますし、"気づき"が訪れて、クライアントにとってベターであろう支援策がふっと降りてきたりするのです。
私の場合は、ミュージシャンに限らずさまざまな分野の方にお会いして話を聴いたこともプラスになったと感じていますが、今もなるべくいろいろなものに興味を持ち、非日常的アクションを起こすよう心がけています。
理論を一生懸命勉強しても、そこに「感性」が載らなければ、本物のコンサルティングにはならないと思います。いつまでも自分の心を豊かにする努力を惜しまずにいたいものです。
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