キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2018年11月号

安室奈美恵さんの引退から学ぶキャリアコンサルティング

ロールモデルの喪失とその余響

「アムロちゃーん!!」引退報道を聞き、TVの前で号泣したのはほんの1年前の事。私が22年間愛してやまない安室奈美恵さんが引退を決めた。ファンにとって、ハンマーで頭を殴られたくらいの衝撃であった。長年あこがれ続けてきた大好きなアムロちゃんがいなくなるという言葉で表しようのない喪失感。・・・それと共にまだ心の奥底にざわめき続ける何か・・・。悲しみの奥に私の心に湧き上がる思い。

「私もこのままでいいわけがない。」

10代、20代、30代、40代のカリスマ、最高のモデル(ロールモデル)となっていた彼女の40歳という若さでの引退というニュースは、同世代の私にとって「嫌が応でも自分の人生に向き合わざるを得ない時が来た」という事実を突き付けられた様なものだった。

沖縄の血を引き、末っ子に生まれ、人見知りな幼少期を過ごし、歌とダンスが好きで、芸能界にほんの片足の指先程を突っ込み、結婚、出産、離婚を経験し、同じシングルマザーとして生きてきた私は勝手にアムロちゃんに共通点を見つけ同一視しようとしていた。

引退当日まで多くのファンが涙している報道を何度も目にした。アムロちゃんは多くの女性のかけがえのないロールモデルとなっていたのだ。道は違えど、アムロちゃんが頑張っているなら私も頑張れる。同年代のアムロちゃんがまだまだ輝いてイケているなら私もまだまだ輝けるハズ。イケてるハズ。まだまだまだまだ、、、、。

そのまだまだが突然消えた。まだまだと光を追いかけていたら突然幕が下りて暗闇になった。そんな感覚だ。目標として光を放って、行く道を照らしてくれていた存在が突如消えて、自分で暗闇を照らして道を見つけていかなくてはならなくなった。

同世代のアムロちゃんはしっかりと自分の人生に向き合い、決断をした。何を捨て、何を残すのか。これからどこへ向かったらよいのだろうか。そんな風に、私をはじめ多くのファンの心に問を残した。

・・・転機。そんな言葉が頭をよぎった。私の中のキャリアコンサルタント脳が動いた。

アムロちゃんと私に訪れた「転機」

転機は主に二つに分類することができると言われている。

一つは予期しなかったことが起きた場合、または起きるはずと思っていたことが起きなかった場合。予想に反する事態であるため、インパクトが大きいとされている。今回の出来事で多くのファンや私に訪れたのが、まさにこの転機である。

もう一つは予見しうる変化の場合。自分の意思で引き起こすキャリア開発の取り組みや、時間の経過とともに訪れる変化の対応が必要な場面による転機である。自らの意思による転職、異動などがこれに当たり、アムロちゃんの引き起こした転機がこれである。

アムロちゃんは引退宣言の際に「引退」を「私が長年心に思っていたこと」と表現している。年齢的な体力面の変化、子供の成長、環境の変化とともにそろそろ人生を見つめ直す時が来た、と決心をした。そんな印象だ。

転機というものは、いずれも意識や行動を変えることが求められる。期待や不安、時には葛藤を伴うこともあり、緊張を経て新たな安定を安寧を獲得したり、時には挫折や落ち込みを経験したりするものである。私の中に起こった不安や葛藤はその類のものであり、そこから自問自答が始まるきっかけとなった。報道を聞いてから私の頭の中である妄想が止まらない。

もしもアムロちゃんのキャリアコンサルティングを担当することになったら・・・?

「もしも、もしも、安室奈美恵さんがクライエントとして私の前に現れたら、、、?私はキャリアコンサルタントとして何ができるだろうか。」(そもそも倫理的にアムロちゃんの大ファンである私がアムロちゃんのコンサルに当たるなんてもっての他であることは重々承知だ。せめてこの場で妄想することだけはお許しいただきたい。)

「私は今まで歌とダンスを中心に活動をしてきました。芸能界を離れ、これから一般人として自分の輝ける場所を見つけたいと思うのですが、何をしてよいのかわからなくて、、、」

まず、気がかりなのは目標指向性が高いアムロちゃんだけに、引退まで突っ走ってきたその後に訪れるであろう、バーンアウト(燃え尽き症候群)への懸念である。空虚感を感じ、何もする気が起きない、気力が沸かない、そんな状態に陥っていないだろうかと心配になる。

まずは「今ここ」での思いを十分に傾聴し、不安や迷い、もやもやした思いを吐き出しカタルシスを得るとともに、自己に関する整理へと進んでもらいたい。

アムロちゃんは現在41歳。レビンソンの発達段階で言うところの「中年期への過渡期」であるとも言えよう。「過渡期」とは、新しいキャリアの計画と飛躍を考えるチャンスにできる、いわば「人生の踊り場」であるとレビンソンは表現している。

「人生の踊り場」。アムロちゃんの転機を語るのに相応しい、実に上手い表現である。

過渡期とは次の段階へ進む準備期間とされており、安定期と比べ、不透明で不安定な時期であると考えられている。しかし、この時期は言い換えれば、そこでいったん立ち止まり、改めて自分を振り返り、自己と環境を見つめ直すことでパワーアップし新たなスタートを切ることができる事を意味している。

この時期をどのように捉え、どのように過ごすかが重要である。

アムロちゃん自身にとって働くこととは? 「輝ける場所」とは? 今までは何を大事にしてきて、今後の人生では一番何を大切にしたい?等、価値観を明確にしていくだろう。その際、自分史の作成やライフラインチャートを利用するのも効果的だ。様々な体験とその時去来した思いを十分に振り返ってもらい自己理解に役立ててもらいたい。アムロちゃんの人生の中で様々な事を乗り越えてきた事、成功体験、沢山あるだろう。過去の自分をモデリングすることで見えてくることがある。

そして芸能界以外の職業理解や長期的視点としてキャリアプランやライフプラン(マネープラン)も必要だが、アムロちゃんは引退に至るインタビューの際、「引退後のことはまだ何も決めていない」と話していた。そして「何が起こるか楽しみです。」と、見えない未来に対し、不安よりも期待、わくわく感を表現していたのが印象的だ。「プランド・ハプンスタンス」そんな言葉が頭をよぎる。

アムロちゃんはすでに体験から知っているのだ。明確なキャリアプランは必ずしも必要ではない。偶然の出来事や出会いを通じポジティブ思考で味方につける事で、道が作られるという事を。ならば、今の段階で無理に将来設計を考えるのではなく、流れや出会いを通じてゆっくりと現状を味わい、未来の方から訪ねてきてくれるのを待つのも良いだろう。

キャリアコンサルタントとして生きる。~アムロちゃんが教えてくれた事~

ああだこうだといろいろ妄想をしてみるが、結局はご本人に会ってお話を聴かないと何もわからない。何が必要で何が適切な支援なのかは今の段階では判断することはできない。支援すら必要としていないかもしれない。

ただ私達キャリアコンサルタントの前に、いつ、どんなクライエントが訪れるのかはわからない。今回の様に(今回は妄想だったが)芸能界、スポーツ界からのキャリアチェンジの相談も増えるかもしれない。まだ見ぬクライエントの為にも常にアンテナを広げ、学びを深め、適切な支援ができるよう自己を高めておく必要がある。

アムロちゃんはキャリアコンサルタントとして生きる私に力をくれた。

今回のアムロちゃんの引退というショッキングな出来事が、私にとっても次のステージに上がるための大切な転機となる様、自分自身の人生の踊り場でしっかりと研鑽というステップを踏みながら次のチャンスの到来に向けて準備したい。

引退から2か月。アムロちゃんは今どこで何を思っているのだろう・・・。

津堅 由見子(つけん ゆみこ)

津堅 由見子(つけん ゆみこ)

1976年生まれ。三重県在住。シングルマザー。
18歳~21歳までモデルとして活動。ショーや雑誌、CM(チョイ役)に出演するも適性なく挫折。適性とは?適職とは?と自己に向き合い心理学に興味を持つ。引退後、個人事業主として英会話教材のフルコミッション営業に従事し全国NO.1セールスを達成。営業技術のトレーナーや部下のカウンセリング等も担当。
その後、民間の人材業界への転職、結婚、出産、離婚、解雇、親の介護等の転機を経験。現在は行政機関にてキャリアコンサルタントとして活動し年間2000件以上の相談に当たる。今までの経験を全て血肉とし、特に困難事例や心理的に課題を抱えたクライエントへの支援を得意とする。
【保有資格】2級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー、CDA等

コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)

キャリアコンサルタントのさまざまな活動を応援します!「ACCN」のご案内はこちら


マンスリーコラム一覧へ戻る