マンスリーコラム
キャリアコンサルタントと私
私の職業経験
産業カウンセラー協会のキャリアコンサルタントの資格を取得したのが2003年ですが、それ以前の1995年から企業でリストラ担当者として従業員にキャリアカウンセリングらしきものをしていましたので、キャリアに関する仕事は25年近く経験しています。現在私は72歳なので、およそ50年の職業人生の半分の期間、キャリアコンサルティングとお付き合いしていることになります。この25年の「後半労働人生」は、公私ともに充実していました。この「後半労働人生」という言葉は、伊藤忠商事ご出身でキャプラン株式会社(伊藤忠グループの人材関係の会社)の初代社長の造語だそうですが、とても気に入っています。
さて私の「前半労働人生」は、人事労務の仕事が半分の12年、それ以外が資材・情報システム・技術契約に関する仕事で、"ひと"ではなく、"もの"や"技術・情報"を取り扱う仕事でした。今思うと、会社の中でこのように色々な仕事を経験させてもらったことが、今のキャリアコンサルタントの仕事にとても役立っています。
キャリアを学ぶために大学院へ
「後半労働人生が公私ともに充実していました」と述べましたが、その代表例は次の2つです。ひとつは、キャリアの研究のために在職中に社会人大学院に行ったことです。具体的には2003年に「キャリアコンサルタント5万人養成計画」が厚生労働省から提示されましたが、「なぜ5万人なのか、その5万人のキャリアコンサルタントをどこに配置するのか」という素朴な疑問を持ちました。当時、私自身企業から厚生労働省所轄の財団法人に出向していたこともあり、職場で役所の情報が入手可能な状況にありました。時の勢いで大学院への入学を決意し幸いにも合格、最終的には博士課程まで行きました。私の論文のテーマは「キャリアコンサルタント必要数の試算」で、学校・企業・人材の公的需給調整機関・民間人材ビジネスで合計85,000人のキャリアコンサルタントが必要という結論で、厚生労働省の数字5万人を5割以上も上回る数値になりました。
キャリアの偉大な学者に会う
もう一つ恵まれていたのは、キャリアに関する著名な米国の学者にお会いできたことです。私は前述のとおり日本産業カウンセラー協会でキャリアコンサルタントの資格を取得しましたが、JCDAの一般会員にもなっていました。そのJCDAから、「2004年のNCDAの国際大会がサンフランシスコで行われるがツアーを組んで出かける。同時通訳がついてクランボルツ博士も出席される」との連絡をいただきました。キャリアの著名な学者がご存命であることに驚くとともに、クランボルツ博士の"Planned Happenstance Theory"には関心もあったため参加することを決めました。NCDAの会議には、「人生の4L」で有名なサニー・ハンセン博士やカナダのブリティッシュ・コロンビア大学のノーマン・アムンドソン博士も参加されていました。NCDAの会場と我々の宿泊所は、スティーブ・マックイーン主演の映画「タワーリング・インフェルノ」の舞台にもなったサンフランシスコの「ハイアット・リージェンシー」という豪華なホテルで、ツアーの仲間とも親しくなり、後日、日本でキャリアコンサルティングに関する学会の折に再会することができました。
そして2016年には、「キャリア・アンカー」を提唱されたエドガー・シャイン博士の勉強会に知人から誘われ、仲間40人位とツアーで行くことになりました。シャイン博士もクランボルツ博士と同様80歳をはるかに超えておられますが、かくしゃくたる風貌とシャープな頭脳をお持ちで圧倒されました。会場は又してもサンフランシスコで、有意義な研修をうけるとともに多くの仲間と知り合いになり、楽しい時間を過ごすことができました。
キャリアについて思っていること
キャリアについて私が以前から考えていたことは、①「キャリアは意味づけるものである」(客観的に存在するものではない)②「キャリアは創るもの」(多くの中から選択するものではない )③「キャリアは語るものである」(他者から指示されるものではない)ですが、日米の多くの学者も同様な意味のことを発言されており、意を強くしています。
それと「独立行政法人労働政策研究・研修機構(通称JILPT)」の下村英雄先生から、キャリアコンサルティングは"社会正義(Social Justice)"を実現するために唱道(アドボカシィ)するのが使命であるというお話を伺って、キャリアコンサルティングという職務の奥深さと難しさを感じました。
キャリアは一日いちにち、その時その時の積み重ねにより構築されるものですが、山崎英一氏の「今日を飾れ」という詩に力強く表現されています。今日いちにちを意義あるものにせよ、それができない者は明日も飾れない、瞬間瞬間、刹那刹那を大切にする気持ちが大切だと思っています。
それと、個性を生かすという意味で、詩人である金子みすゞさんの作品「私と小鳥と鈴と」の中の"みんなちがって、みんないい"は個人のキャリアについても言えるのではないかと思います。私自身大学でキャリアの授業を行っていますが、学生には「いい会社はない。しかし、あなたにとっていい会社はある」と話していますが、意外にも納得してくれます。これは私が私自身に対して言っている言葉なのかもしれません。
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