キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2019年10月号

ACCN九州・沖縄支部 ウェルカムイベント講演会報告

    「キャリアコンサルタントが担う新たな使命」
~社会的孤立・排除を生まない総合的な支援体制の確立に向けて~

時代の変化とともに、キャリアコンサルタントの役割や必要とされる能力要件も変わってきます。今、注目されている「8050問題」には、今後キャリアコンサルタントも仕事で関わっていくのではないかと考え、去る8月3日に開催いたしましたACCN九州・沖縄支部のウェルカムイベントでは、認定特定非営利活動法人「NPOスチューデント・サポート・ファイス」の代表理事谷口仁史さんのお話を伺いました。

谷口さんは、佐賀大学文化教育学部在学中からボランティアで不登校、ニート等の状態にある子ども・若者へのアウトリーチ(訪問支援)に取り組まれ、卒業後、大学教授らの有志を募り「NPOスチューデント・サポート・フェイス」を設立。市民活動団体を含む幅広い支援機関とのネットワークの構築や「職親制度」等社会的受け皿の創出、社会的孤立・排除を生まない支援体制の確立を目指ざされています。佐賀県子ども・若者総合相談センター長、さが若者サポートステーション前総括コーディネーター、他政府の委員などを兼任され、NHKプロフェッショナル仕事の流儀「寄り添うのは、傷だらけの希望」に出演もされ、ひきこもり支援者のトップリーダーとして活躍されています。

キャリアコンサルタントとのつながりとしては、キャリアコンサルティング研究会及び作業部会で、困難を抱えた若者をキャリアコンサルタントがどのように支えていくのか、能力要件等の検討に関わっておられます。また、生活困窮者自立支援法が作られる際には、社会保障審議会で特別部会委員として関与され、生活困窮者自立支援制度従事者養成研修においては、就労準備支援事業において部会長を務められています。いま、政府は社会的に孤立する当事者をしっかりと伴走しながら支えていこうという方向で様々な施策がおこなわれているとのことです。

ここでは谷口さんの講演内容から、若者の現状を含めて「NPOスチューデント・サポート・ファイス(以下S.S.F.)」の活動について報告します。

日本における社会的孤立の現状

 冒頭に、長期化・深刻化したひきこもり事例が紹介されました。就職段階の一つの躓きがきっかけとなったこの事例は、無業の長期化のプロセスで、被害妄想、精神疾患を発症し、家庭内暴力、自殺企図を伴いながら深刻化していきました。懸命に支えていた家族自身も次第に疲弊し心病んでしまい、介護が必要な状態であるにも関わらず、経済的理由から支援を拒絶し、家族丸ごと孤立していたのです。本人自身も海外に留学する程、有能で経済的にも恵まれた理想的な家庭に起こったひきこもり問題。谷口さんは、この事例を通じて「ひきこもりは誰もが陥る問題であること」の理解が必要であることを強調されました。若年層も含めると115万人を超える「ひきこもり」。OECD(2005年)の調査によると「社会的孤立の状況」にある人の割合は、日本が20ヶ国中最も高い。また、ユニセフの2007年の調査でも、「孤独を感じている子ども」が諸外国に比べ圧倒的に高いのが日本とのことで、若年層の自殺率に関しても格差が激しいアメリカよりも日本の方が高い。「孤立大国ニッポン」と揶揄されるようになったのは、このような厳しい実態を表したもの。前提としてこの現状を押さえていく必要があるとのことでした。

以下の文章は、講演の内容から映像や事例等を除いた概略をまとめたものです。

佐賀県子ども・若者総合相談センターから

 これまでの支援は、子ども・若者が自ら足を運び相談を行う「施設型」支援が中心であったが、ひきこもるなどして孤立する当事者は利用すること自体が難しい。そこで必要な支援を当事者にしっかり届ける、「アウトリーチ(訪問支援)」型の発想が必要になってくる。このアウトリーチの取組が進めば、相談者が来ることを待っていた時とは異なる当事者の姿も見えてくる。

mc201910z.png

子ども・若者育成支援推進法に基づく法定協議会において、県内唯一の指定機関を担うS.S.F.が受託・運営している総合相談窓口には、年間62,000件の相談がある。その中核となっているのが0歳から30歳まで幅広く相談を受けることができる「佐賀県子ども・若者総合相談センター(佐賀県こども未来課委託)」で、17,269件と一番相談件数が多い。紹介元は61%が専門機関、行政機関という特徴を持っている。既存の施設型の相談窓口ではなかなか解決ができないケースが中心。だからこそ、アウトリーチの取り組みが必要とされている。全体の63.7%のケースで本人が抱えている問題だけではなく、家庭環境、生育環境に課題が認められる。中には虐待、DV、保護者の精神疾患、貧困、そうした環境の要因が自立に影響を大きく与えている。そこを含めたアセスメントが必要であり、本人の対応だけを行うと間違った方向に導いてしまう。問題が複合化をしており、複雑に絡みあうことで解決が困難になっている。実際、全体の84.7%のケースで複数項目での困難が認められている。専門性を背景とした個別対応には一定の限界があること、また、一つの組織、あるいは、教育、医療、福祉、労働等、単一分野での支援の限界も視野に入れていく必要があるだろう。

佐賀県ひきこもり地域センター(愛称:さがすみらい)の相談から

当センターは、佐賀県健康福祉部障害福祉課の委託事業として、平成29年度に開設された。2年間で7,800件超える相談があった。全国トップクラスの相談件数が掘り起こされたのは、やはりアウトリーチ(訪問支援)があるから。実態を分析すると長期化・深刻化の傾向が浮き彫りになっている。ひきこもり歴が10年以上にわたる者が42%占めていた。支援者側が反省しなければならない項目としては、支援歴である。初回の聞き取りで把握できた分だけで、62%の方が過去に専門家あるいは専門機関の支援を受けている。その多くは就労段階、職業紹介の段階の専門機関。やっぱり、何とかしなきゃ、働かなきゃ、こういった時に、実は支援者側の受け止め方が上手くいかずに孤立し、長期化、深刻化している。だからこそ、キャリアコンサルティング研究会においても、こうしたひきこもり問題に対する対応の方法が議論され、作業部会の議論も踏まえ、報告書としてまとめられている。

相談の組織体制の対職種連携

S.S.F.が、入り口段階の組織体制を工夫した点は多職種連携である。臨床心理士、公認心理師、キャリアコンサルタント、精神福祉士、社会福祉士、産業カウンセラー、学校心理士、多職種連携である。多様な分野の有資格者を集めたのは、一つは当事者たちの問題が深刻化しているからである。深刻化する問題についてはしっかりとそれぞれの分野で培われた知見を最大活用する必要がある。但し、単一の職種で窓口を固めてしまうと見立ての偏りというリスクが発生する。実態調査で示されたように、問題は複合化をしているので、専門性を通したフィルターで当事者を見るとどうしても一部の側面にしか光を当てられずに、偏った見立てで支援計画が立てられることになり、支援計画が破綻してしまい結果が出ない。  

だからこそ、入り口段階で徹底的に議論できる環境、組織に多様性を組み込むことによって実現しようという観点を持った。しかし、いろいろな窓口を回って、うまくいかなかった当事者を引き受けているので、専門性、多職種連携のみでは解決策としては十分ではない。

拒絶感、警戒感へのアプローチの方法

そのために工夫されているのが、当事者の拒絶感、警戒感へのアプローチの方法である。

支援者が当事者に対応するときに重視するのは当然関係性であるが、S.S.F.が重視するのは、相対的要素を含めて情報収集、分析することである。当事者本人の周りには、家族関係があり、また、学校や社会生活上で様々な人たちが関わる中で、傷つきが発生し、いよいよ「誰も信じられない」とひきこもるなどして社会的孤立が発生をしている。どんな家族に育てられたのかによって、対人関係のイメージ自体変わってくる。非常に暴力的な父親に育てられたとすれば、暴力に対する恐怖の念、そこから、周りを見てしまう。それから、いろいろな先生方の出会い、あるいは地域の方々からの働きかけがある。それによって、当事者が受け入れられる支援者像自体が変わってくることに着目した。

当事者にとって、どんな存在だったら一番受け入れやすいのか。当たり前のことではあるが、そこを徹底的に追及するというのが、S.S.F.の関わりの大前提である。社会的に孤立している当事者には共通する思い、感覚、感情がある。「どうせ、俺のことなんか誰もわかっちゃくれない」。そうした強い否定的な考え、感覚、感情が根底に共通している。だからこそ、周りの善意の助けの手を思いっきり払いのけるのである。「どうせ俺らのこと理解してくれてないから、説教するだけでしょ」「嫌な思いさせられるだけでしょ」「だったら会いたくなんてない」と思っている。そうであれば、まずはこの気持ちを前提として、強引なアプローチではなく、本当に心を開いてもらう観点が必要である。特に若年層の場合は、価値観のチャンネルを合わせる対応がとても重要である。子どもたちが好きだと思っていることがあれば、好きと言える。興味関心があるものがあれば、支援者も積極的に関心を持つ。そうした価値観レベルの情報を前提にする関りを持たないと閉ざした心を開いていくことはできない。

価値観のチャンネルを合わせる組織体制

価値観のチャンネル合わせは重要な要素であるが、価値観が多様化しているだけでなく、価値観自体が急速に変化を遂げている時代。そうなると世代がひとつでも違えば、「なんで、こげなごと考えるっちゃろね(こんなことを考えるのか)」となってしまう。つまり、世代間のギャップが生じやすいということを前提としなければならない。

価値観のチャンネルを合わせやすい「世代」というところまで加味して組織体制をつくる必要があると考えた。支援、介入、困難度、本人の状態だけでなく、家族機能というところにも着眼をして、役割分担を図るようにしている。

現在全体で260名の登録スタッフの内80名が有給職員である。世代構成をみると、7割が20代、30代、比較的若い世代で構成されている。「お兄さん」「お姉さん」として認識される「ナナメ」の関係性は価値観のギャップが生じにくい。そういった世代で入り口の突破口を開けないだろうかと考えた。もちろん、家族支援や出口段階に向けて併せて重視しているのは、40代以降の世代が持つ経験、知恵等の力。スタッフの残りの3割は40代~70代まで各世代を意識的に雇用している。このように、専門性だけでなく、世代間の連携、世代的な多様性を一つの組織内に組み込むことで、従来の公的支援の限界を突破しようと測ったのが、S.S.F.のスタートである。

佐賀県内の関係者団体とのネットワーク

しかし、実態に即した支援を行うためには、一つの組織にできることの限界があるということにも真摯に認め、向き合い、対策を打つ必要がある。S.S.F.の法定協議会以外にも多くの関係者関係団体とのネットワークを構成している。一例を紹介すると、平成15年の立ち上げと同時に作ったのが、青少年サポートネットワークin Sagaであるが、700団体以上の協力を得て、情報の一元化を図ったネットワークである。特徴は緩やかな連携である。主義・主張、やり方は関係なく、子ども達のために、当事者のために情報だけは同じテーブルにつけませんか?という取り組みをしたところ、初年度は30団体から700団体まで膨れ上がった。

 佐賀県は82万人しかいないので、700団体を補足すれば全体像が見えてくる。まずは地域全体を俯瞰的に見ることによって、どこにどう力を入れればいいのか、足りない社会資源は何かということをまず明らかにしたかった。そして、課題については、その認識を共にした人たちと解決のためプロセス、新たなネットワークを創るプロセスに移った。

「若者の味方隊」と「職親制度」

一つは150種の職業人のネットワーク「若者の味方隊」。子どもたちが働くことについて疑問に思ったことを気軽に聞ける、そういったボランティアネットワークである。

次の段階に創ったのが、「職親制度」で職業体験等を受け入れる「理解ある」事業主の集まりで、県内180ヶ所をすでに超えている。なぜ、「理解ある」を強調するかというと、繊細な配慮が必要な当事者にS.S.F.は対応しているので、そのような当事者に見合った受け皿づくりが当然大事になる。例えば5年間引きこもって、やっとの思いで、「よし、頑張ろう」と相談の窓口行って、いきなり職業訓練はハードルが高い。まずは、そうした当事者が行けるような雰囲気の体験先が必要となる。また、5年ぶりに人と会って緊張して、挨拶もできなかった。そんな時、従業員の方が「ほら、挨拶もできんから就職できんのだ」と、このような説教をされたら、「外って恐いな」と、また、引きこもり状態になってしまう。だから、当事者が何故にそういった緊張をもっているのか、上手くコミュニケーション取れないのか、というところを一定配慮して下さる「理解ある」事業主の方に協力をいただいている。

生活困窮者自立支援ネットワーク

このように地域の課題は地域でネットワークを立ち上げることで解消しているが、もう一歩踏み込めば、明かに地域にできることの限界がある。そこで全国組織の立ち上げにも積極的に関与している。

その一つは生活困窮者自立支援全国ネットワークである。3人の代表理事の一人は抱樸(元北九州ホームレス支援機構)の奥田理事長で、我々も発起人の一人である。佐賀でできないことも福岡であれば解決できることがある。連携を取るためにはまずは相手のこと知らなければ、支援計画を立てるときも選択肢にすら入らない。開催する研究交流大会等を通じて予め全国各地の最先端の取組を学ぶ機会を提供している。そうした意味でも、ACCNもそのような連携ができる集まりだろうと思っている。

どんな境遇の子どもも見捨てないという強い覚悟

他にも沢山のネットワークを立ち上げているが、S.S.F.は行政ではなくNPOなので、始める時は手弁当でスタートしている。なぜ、ここまで労力のかかることを一NPOがやるのか。それは、「どんな境遇の子どもも見捨てない」という強い覚悟を持って、この分野の取り組みを進めなければならないという思いがある。「これぐらい仕方ない」「いや~これは、自分の手に負えないので、誰かにやってもらおう」「言うこと聞かん奴が悪い」「来なきゃ来ないでいい」というような感じで先送りにしたことが、結局世代を超えて連鎖をし、そのすそ野が広がり、より解決が困難になったのが今の時代である。そうであれば、その悪循環を我々の世代で絶つ。その強い覚悟が必要だと思っている。特に、問題解決能力持った人たちが専門職の認定を受けるわけだから、特にそうした覚悟必要だろうと思っている。その見地に立てば、一人でできることって限られていると思う。だから、できる人に頭を下げてでもチーム作って、組織作って、ネットワーク作って、その中で少しでも解決可能性を高めていこうではないか、という考え方がS.S.Fの組織づくりの根底にある。

キャリアコンサルタントへのメッセージ

今後、キャリアコンサルタントの役割は、領域が広がっていき、仕事も増えてくる。活躍の可能性はますます高まってくるということであるが、その際には、ひきこもり等孤立する当事者の理解、対応のノウハウの知識は、欠くことができない。今日共有させて頂いたように、就労支援の段階でトラブルが起こり、それがきっかけとなり、長期の引きこもりとなっている現状がある。この現実を受け止め、見立ての在り方も再検討する必要がある。

もう一つの大事なこととは、支援のプロセスで積み上がるエビデンスを基に制度、地域、社会を変えていくといった観点が必要だろうと思っている。やはり、今の格差社会はどこで生まれているのかという問いも必要である。

佐崎 和子(さざき かずこ)

佐崎 和子(さざき かずこ)

約10年間の専業主婦期間を経た再就職が「主婦の再就職支援」だったことをきっかけに、女性が働くこと、働き続けることを応援したいという思いを持ちながら、資格を取得し仕事をしてきました。キャリアコンサルタントの資格は所属団体の第1期生として取得し、需給調整機関で約10年間、学生に対する就職支援、女性の再就職支援等13年以上のキャリアコンサルティングの経験があります。キャリアコンサルタントがその資格を活かして社会的役割を担うためには、広く、深い主体的な学びと経験が重要と考えています。

2019年4月より、ACCN九州・沖縄支部長を務めています。どうぞよろしくお願いします。【ACCN九州・沖縄支部のfacebookはこちら】

資格:
国家資格キャリアコンサルタント
1級キャリアコンサルティング技能士
産業カウンセラー
社会保険労務士

コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)

キャリアコンサルタントのさまざまな活動を応援します!「ACCN」のご案内はこちら


マンスリーコラム一覧へ戻る