キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2020年4月号

キャリアコンサルタントは「専門性」を高める時代へ

突然ですが、みなさんは、高校生の就職活動のことをどれくらいご存じでしょうか。人手不足の中で、今「高卒採用」は活発になっており、2022年の成年年齢18歳引き下げに向けますます注目されるテーマとなっています。

そんな高卒就職ですが、毎年どれくらいの高校生が就職をしていると思いますか?実は、毎年約100万人の高校3年生が卒業をしており、その内の約18%に当たる約17万人が就職を選択しています。この18%という割合は17年以上変化がなく、大学進学率が上昇している一方で就職希望者は変わらず一定割合存在し続けています。超売り手市場といわれている大卒新卒の求人倍率が1.88倍だった2019年3月卒では、高卒新卒の求人倍率は全国平均2.74倍でした。しかし、実際の進路指導室に届く求人はこの比ではなく、就職希望者が60名ほどいる普通科の公立高校に1500件以上の求人票が届いているような状況です。

では、そのような状況の中で高校生はどのように就職活動を行うのでしょうか。大学生のように自分で求人情報を探し、企業にエントリーを行い、複数内定を得る方法を高校現場では「自己開拓」と言います。他に親族の紹介で就職する「縁故就職」がありますが、この方法で就職する高校生はほとんどいません。9割近くの高校生が「学校あっせん」と呼ばれる方法で就職をしていきます。

「学校あっせん」とは、高卒新卒を採用したい企業がハローワークで高卒専用に求人票を発行し、郵送や持参などで求人情報を学校に届け、それを受け取った学校の先生の指導の下、高校生が応募をする就職活動のことを言います。この「学校あっせん」に最近話題の「一人一社制」というルールがあります。高校生は応募が開始となる9月5日以降一定期間の間、同時期に1社しか応募書類を送ってはいけないという専願制のようなルールです。内定が出た場合は、その会社に行くように指導されています。※ただし、沖縄県・秋田県は9月5日の時点から複数社応募することが可能となっており、他の都道府県も一定期間経過後に複数応募が可能となっています。

この「一人一社制」については、2022年の成年年齢18歳引き下げに向けて見直しの議論が活発になっており、昨今新聞でも取り上げられることも多くなってきました。2020年2月10日には文部科学省・厚生労働省から「高等学校就職問題検討ワーキングチーム報告書」が出され高校生の民間企業を介した就職活動についても言及されたところです。このテーマについても機会があれば話したいところですが、長くなりそうなので今回はやめておきます。

さて、話を戻しますが、このような高校生の就職活動を指導するのは学校の先生です。その先生方が行う就職指導のお手伝いを私は7年前から公立高校内でさせていただいています。高校の中での就職指導はどのようなことを行うかと言いますと、私や先生は、山のように送られてくる求人票を高校生が見やすいように一覧表にしたりファイルに整理する作業から始まり、企業の学校訪問の対応をします。

「なんかいい会社ないの?」「なに選んでいいかわからない」と言う高校生の話を聞きながら、各社の求人票やパンフレットを一緒に調べ、高校生がたった1社の大切な応募先を決めるサポートをします。応募先を決めるための職場見学への申込や日時の調整も先生方と共に行います。応募先がいざ決まれば、履歴書作成・面接指導を行い、不採用であれば2社目、3社目の就職活動をサポートします。

先生方は「高校生のために」と就職指導を熱心に取り組まれていますが、課題も抱えています。大学では高卒就職の指導方法を具体的に学ぶ授業もありませんので、高校3年生を担任して生まれて初めて高卒就職のルールや高卒用の求人票を見るという先生も少なくありません。そのような先生は「求人票のどこを注意して見たらいいですか?」「生徒がこんなことを言っているんですが、どんな会社を勧めたらいいでしょうか」など、こっそり私に尋ねてくれます。人手不足の中、増える企業の来校者対応や求人情報の整理にも追われ、教員の年齢層の若返りも進み、就職指導できる人材が不足しているとも言われています。

文部科学省から出された『学校における働き方改革に関する緊急対策』では<教師の業務だが,負担軽減が可能な業務> として「⑬進路指導については事務職員や民間企業経験者などの外部人材等,が,当該業務の一部について担う方が児童生徒に効果的な対応ができる場合もある。」と書かれています。この緊急対策の文中には、「スクールカウンセラー」「スクールソーシャルワーカー」の名称が出てくるにもかかわらず、進路指導について「キャリアコンサルタント」の名称が出てこないことを、私は不甲斐なく感じています。

担任として高校生と向き合ってきた先生方の生徒さん一人一人に対する理解は深く、その関係性には就職指導だけで関わる専門家としては太刀打ちできないもがあると思います。一方で、キャリアの専門家として客観的に高校生に向かい合う事で、先生の持たない専門知識や経験を活かした就職指導ができているという自負もあり、この領域でキャリアコンサルタント活躍の可能性を確信しています。個人的には、地域の2~3校の進路指導業務を1名のキャリアコンサルタントがサポートする体制を社会に実現したいと考えています。

そのためには高校現場に関わるキャリアコンサルタント皆の質を高め、先生と高校生たちに「進路指導においてキャリアコンサルタントが必要だ」と感じてもらうことが重要です。

実は、私のように高校の就職指導の現場に関わるキャリアコンサルタントは全国に点在しています。しかし、このポジションは3年程度で制度が打ち切られたり、報酬が少ないことなどから、継続する方が少なく、ノウハウがたまりにくいという課題があります。そこで、私たちは2015年から高校現場で就職指導を行いたいキャリアコンサルタント向けの勉強会や講座を開いていています。

なぜかというと、高校現場は特殊で、大学のキャリアセンターや企業領域での経験がいくら豊かでも、学校の先生と共に10代の就職指導を行うというのは全く別の知識、スキルが求められるからです。

キャリアコンサルタントの資格を取得した時、多くの方が「これでキャリアに関わる仕事ができる」と夢膨らませたことでしょう。でも、みなさんは気づいているはずです。資格取得は入り口に過ぎないと。キャリアコンサルタントが真に活躍するために、私たちは今「専門性」が求められています。カウンセリングスキルを学んだだけ、キャリアの理論を知っているだけでは通用しません。企業領域でも、大学領域でも、みなさんがそれぞれ関わっている領域で「専門性」が問われています。

この「専門性」は大学教授が書き出してくれるのを待つものでも、たった一人個人で磨き上げ完成できるものでもないと思います。同じ領域の現場で活動するキャリアコンサルタント同士が集まり、全体の資質向上のために知識やスキルを体系化していくことが欠かせません。

キャリアコンサルタントは今、大きな転機にあるのではないかと思うのです。資格取得者を増やすフェーズはひと段落し、「で、キャリアコンサルタントは何ができるの?」という社会からの問い=期待に応え、キャリアコンサルタントの使い方を自ら指し示すフェーズへと。この社会からの問いに我々キャリアコンサルタント自身が答えられない限り、活躍の場は生まれません。

「資格を取ったんだから、活かす場=仕事をください」と受け身でいるのではなく、私たちキャリアコンサルタントは一人一人が「資格を活かす場=仕事を自分でつくる」という姿勢を忘れてはならないはずです。若年者支援という大きな分野の中には、今日お話した「高校の進路指導」という領域があり、その中に「高卒就職の指導」というものもあります。

当然、若年者支援の領域だけでなく、みなさんが活躍するそれぞれの領域の中にも「高卒就職」のようにキャリアコンサルタントが専門性を高めることで活躍できる分野があることでしょう。そういったテーマは数えきれないほどあるからこそ、現場で想いをもつキャリアコンサルタントが集まり専門性を高めていける仕組みをACCNが作っていかなければならないと思うのです。

吉田 優子(よしだ ゆうこ)

吉田 優子(よしだ ゆうこ)

2級キャリアコンサルティング技能士
株式会社アッテミー 代表取締役
大阪府教育委員会「大阪府の高校生における就職活動の在り方懇話会」ゲストアドバイザー
岡山県「地域課題解決支援プロジェクト(高校生の地元就職促進)」コーディネーター

上智大学教育学科を卒業後、楽天株式会社に入社。2012年からは大阪府の公立高校内で就職希望の高校生への進路指導に携わる。現場での就職支援は、就職難の時期から求人増加状況の現在まで8年間続けている。高校現場の経験を活かした企業向け高卒採用セミナーの参加者はのべ800名を超え、高卒採用活動のコンサルティング実績は中小企業から東証一部上場企業までを有する。
「高校生向けジョブツアー申込サイトATTEME~求人エントリーまで直結~」(α版)をリリース。本サイトは中小企業庁主催「JapanChallenegGate2020~全国ビジネスプランコンテスト~」において経済産業大臣賞を受賞。

コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)

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