キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2020年7月号

企業組織にとってのキャリアの重要性を考える

日本企業の多くは、事業環境が大きく変化する中で、大規模な組織の構造変革が必要であり、組織能力の構築が求められています。このような環境の中で、企業組織におけるキャリアコンサルティングの重要性は、更に高まっているのではないでしょうか。

私は、コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービス株式会社にて、キャリアコンサルタントとして働いています。企業内のキャリアコンサルティング導入を促進するための手がかりとなればと思い、現在取り組んでいる弊社のキャリア形成支援についてご紹介をさせていただきます。

企業内キャリアコンサルティングの導入を促進するために、3つの視点で考えていきたいと思います。

1.所属組織から求められていることは何か
2.キャリアコンサルタントとして何が出来るか
3.キャリアコンサルティング導入のメリットは何か

1.所属組織から求められていることは何か

所属組織から求められていることを理解するために、私はコカ・コーラ ボトラーズジャパングループの事業背景を理解することからはじめました。キャリアコンサルティングを導入した結果、どんな課題を解決するのか、経営課題から考えることが重要だと考えています。

2018年にコカ・コーライーストジャパンとコカ・コーラウエストの東西2大コカ・コーラボトラーを含むグループ会社が統合し、「コカ・コーラ ボトラーズジャパン」に商号変更となりました。市場環境が変化する中で、高い競争力を確立すべく、プロセス、システム、組織構造の抜本的な変革が必要であり、2019年5月に策定された中期計画における重要戦略に基づき、組織能力の向上に取り組んでいます。

このような事業背景の中で、役割・成果に応じた等級・報酬制度となり、社員に求められる役割・成果も大きく変化しました。社員は、定型業務の代わりに、課題を解決するためのコンサルティング能力が求められています。また、変化が激しい環境の中でも、私たち社員は自律的にキャリアを形成していくことが重要です。

そこで、組織の課題を明確にするために、社員45名にヒアリングを行いました。その結果、大半の社員がキャリアに関する悩みを抱えていることがわかりました。激変する環境の中で、社員は目の前の仕事には前向きに取組んでいるものの、組織の方向性や自身の役割を十分に理解することが出来ず、悩みや不安を抱えていました。

2.キャリアコンサルタントとして何が出来るか

コカ・コーラ ボトラーズジャパングループには、社員が主体的にキャリアを考え、その実現に向けた能力開発を会社・上司が支援するキャリア開発推進の取組があります。

そこで、既存のキャリア開発施策と連動させ、継続的に社員の能力開発・キャリア形成支援に取り組むことで、キャリア開発を強化したいと考えました。

キャリアコンサルティングの導入を所属組織内で提案した結果、組織変革の実現に向け、自ら考え行動する人材を育成することを目的として、トライアル導入出来ることになりました。選抜者7名に向けて、一人約60分、計5回の面談を通じて、キャリアコンサルタントが、現状の課題や周囲に言えない悩み、将来のキャリアビジョンを直接聞きながら、組織と社員個人の中立的な立場でキャリア実現を支援しました。

キャリアコンサルティング導入の際に、注力したことは下記3つです。

【1】キャリア面談のトライアル化(説明ではなく実践)

当初は、キャリアカウンセリングやコーチングに対して、後ろ向きなイメージを持っている社員もいました。カウンセリングを実際に体験してもらうことで、効果や価値を理解してもらい、社内にキャリアコンサルティングを理解、浸透させることをめざしました。

【2】キャリアカウンセリングの効果を可視化

アンケート及びインタビュー調査で、対象者の意識変容を可視化出来るようにしました。本人の許可を得た上で、全社の部門責任者会議にて報告を実施しています。

キャリアコンサルティングを継続的に実施していくためには、投資対効果を明文化し、効果を理解してもらうことが重要性です。

【3】キャリア面談内容の『守秘義務』を明文化

守秘義務を保ち、安心して本音を話してもらうためにはどうすればよいかを第一に考え、部門責任者含め、管理職に守秘義務の合意を取るとともに、『守秘義務』を明文化して組織内に通達しました。

言葉で説明しても、「キャリアコンサルティング」の効果を理解してもらうことが難しいのが現状です。関係者から理解を得るために重要なことは、投資対効果を明文化するということだと私は考えています。

3.キャリアコンサルティング導入のメリットは何か

キャリア面談を実施した結果、8割以上の対象者より、新しい気付きが得られ、ありたい姿・行動目標が明確になった、という意見が得られました。

対象者が回答した面談の効果トップ3は、1位.主体性の向上、2位.自己理解・自己認識の向上、3位.キャリアビジョンの明確化、でした。

<対象者からの感想(一部抜粋)>

・面談の結果、経営者のメッセージを自分事として捉えることが出来るようになった
・自身の目標を本気で考え抜くことが出来ていなかったが、目標が明確になった
・現在の組織ではやりたいことを実現出来ないと思っていたが、自身の先入観であったと気づいた
・忙しい中で面談をすると仕事が遅れると思っていたが、逆に仕事の能率が上がった

◆今後のさらなる目標や課題

段階的な全社導入を目指して、2020年は、次世代リーダー選抜社員約60名を対象として必須のキャリア面談を実施していく予定です。また、部門責任者、上長、キャリアコンサルタントが一体となって、次世代リーダーのキャリアビジョンを明確化し、一人ひとりに合わせたキャリアパスプラン・育成計画の立案、実行を行うことで、社員のキャリア実現を支援したいと考えています。

私は、これまで個々の社員と向き合いキャリア形成支援を行ってきました。その中で、事業や組織の変革を実現しない限りは、社員のキャリアを実現することは出来ないと痛感をしています。企業内のキャリアコンサルタントとして、組織の変革を推進するためには、経営に関する知識を強化することが必要だと考えています。ビジネスモデルや経営戦略を理解した上で、組織と個人の両方に寄り添えるキャリアコンサルタントに成長していきたいと思っています。

企業におけるキャリアコンサルティングの導入を促進するためには、下記の視点が大切だと私は考えています。

・キャリアコンサルティング導入の結果、どんな組織課題を解決するのか、経営課題から考えること
・経営者及び現場社員の両者の視点を持ち、中立的な立場で両者のメリットを創出すること
・キャリアカウンセリングで得られた社員の生の声を活用し、組織課題の解決を推進すること

激しい環境変化の中で、社員が困難を乗り越えながらも、自律的に成長するためには、日々の不安や迷いを受け止めながら、仕事経験を振り返ることで成長実感を得ることが出来るように組織的にサポートすることが必要だと考えています。弊社のみならず、多くの企業でキャリアコンサルティングの重要性が高まっているのではないでしょうか。

日本では、まだキャリアコンサルティングの効果や重要性が十分に認知されていない現状があります。キャリアコンサルタント同士、情報交換する中で、社員に対するキャリアコンサルティングを導入したいが、経営者や現場からの賛同が得られないという声を複数聞きました。キャリアコンサルティングの導入に取り組んでいる弊社の事例を多数の人に知ってもらうことで、弊社のみならず、企業内キャリアコンサルティングを促進する手掛かりになればと思っています。

石井 裕美子(いしい ゆみこ)

石井 裕美子(いしい ゆみこ)

コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービス株式会社 
ケーパビリティ開発マネージャー
ACCN神奈川支部副支部長
キャリアカウンセリング協会認定スーパーバイザー
2 級キャリアコンサルティング技能士
全米NLP協会公認 NLPトレーナー

約 10 年人事採用業務を経験、1,500 人以上のキャリア面談や転職サポートに携わった後、経営者に交渉して「キャリア相談室」を新規開設、若手社員のキャリア面談を年間約250件以上実施。2019年6月に、コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービス株式会社に転職、人材開発・組織開発を推進すると共に、企業内キャリアコンサルティングの導入に力を入れている。

コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)

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