キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2020年12月号

VUCA時代のwell-beigキャリアコンサルティング

◆「ケア」を取り入れたら、表情が優しくなった

ちょっとした傷でも痛みというのは辛いものだ。ささくれ、書類で切った指、口内炎...。それが、もっと大きな傷だったら、ダメージは測り知れない。でも、その痛みは、目に見えない。本人でさえも自分の傷に気づいていないこともあるし、蓋をしていることもある。

キャリアコンサルティングの仕事を約10年続けてきた中で思うのは、キャリアコンサルティングをするうえで、まず必要なのは「ケア」ではないか、ということだ。相談者は、なぜ、相談に来るのか。そこには何かしらの痛みがある。その痛みをケアしないままでは、本当の意味でキャリアコンサルティングは進まない。

現在、教育領域でのキャリアコンサルティングを行っているが、学生も様々な背景を持っている。例えば、就職活動がうまく行っていない時、聞いていくと何かしらの傷つき体験によって、思わぬ不安を抱えていることがある。

ある事情から定期的に相談に通っていた学生の変化が忘れられない。私は、その学生の何が、その特徴的な行動をさせるのか知ろうとして、経験と気持ちをひたすら聞いた。変えようとするのではなく、その経験にどんな意味があると思うか、どんな成長をしたか、どうなりたいかをたずね続けた。時に、リフレーミングしたり、その学生の強みをフィードバックした。まず、この相談室を安全基地としてほしかった。そうして関り続けたある日、表情が優しくなっていることに気づいた。周囲を敵と思っているような言動は和らぎ、言葉遣いや話す内容が変化するのに伴い結果も出てきた。

私が心掛けたのは「ケア」することで心の壁を取り除くことだった。心の奥深くに潜ったものを出してもらい、何の評価もせず共有する。そして、ポジティブに捉え直せるよう問いかけていく。そうすることで、自然と自己効力感が上がり、本人が満足できる方向に進めるようになって行った。

◆先が見えない時代だからこそ、well-beingに価値をおきたい

私は、キャリアコンサルティングにおいても、まず「ケア」が大切だと考える。健やかなメンタルヘルスあってこそ、未来を考えることができるからだ。小さい傷もあれば、驚くような大きな傷を負った相談者に出会うこともある。そして、それは、目の前の現在の相談者の言動に何かしらの影響を与えている。何か違和感があったら、背景を知ることだ。それが出発点になる。

health(健康)とheal(癒す)は同じ語源、古英語hal(完全な)から成り、癒すことで完全な状態「health」になるとされている。また、cureは病気の原因を取り除き治すという意味なので、問題解決志向。一方、careは手当てや世話、大切にするという意味もあり、問題を抱えながらも、QOL(生活の質)を高めていく方向性を持つ。

VUCAの時代と言われて久しいが、変動性、不確実性、複雑性、曖昧性は、新型コロナウィルスの出現によって加速している。このような先の見えにくい現代社会では、「問題解決」に限界がある。何が問題かさえ曖昧な中、何が解決か、ますます答えが見えにくい世の中にあって、メンタルヘルスを健やかな状態にするのは、cure(問題解決)ではなく、care(手当て)なのではないだろうか。

そんな中で、大切にしたいのは「well-being」という観点だ。well-beingは、WHOの健康の定義で「肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない。」とされている。また、well-beingは、ポジティブ心理学の中核概念でもあり、「幸せ」と訳されることもある。その幸せには2種類ある。「目に見える幸せ」と「目に見えない幸せ」だ。キャリアコンサルティングは、キャリアデザイン、キャリア形成というように「形」をめざすものとなりやすい。しかし、本当の幸せは一人ひとり異なり、目に見えないものなのかもしれない。

◆キャリアコンサルタント自身のセルフケアからはじめよう

人は、真にケアされた時に、どこかにある幻のキャリアではなく、目の前にすでにあるキャリアに気づき、受け入れ、現実的な一歩を踏み出せると考える。では、どうしたら「真のケア」ができるのだろうか。それには、まず自分自身をケアすることである。キャリアコンサルタントが、相談者をケアするためには、自分自身のセルフケアが最も大切だ。

今回、小さな口内炎の痛みに耐えながらコラムを書いた。こんな小さな傷でも本人にはとても辛い。そして、痛みは見えない。そんな日常の一コマから、つらつら思うことを書かせていただいた。

心のちょっとした痛みを共有して、その中に強みや役立つことを探していくこともキャリアコンサルタントのwell-beingにつながると考えている。痛みは、そのまま強みだ。なぜなら、痛みを知っているからこそ、人の痛みが分かるから。ACCNをはじめとした職能団体は、そんな仲間を探せる場でもある。先の見えない今、キャリアコンサルタントにとっても、ケアは必要だ。私自身、セルフケアも大切にしていきたいし、well-beingを高めるピアキャリアコンサルティングの場も大切にして行きたいと思っている。

村上 加代子 ( むらかみ かよこ)

村上 加代子 ( むらかみ かよこ)

ACCN北関東支部副支部長
国際医療福祉大学キャリア支援センター キャリアコンサルタント
国際医療福祉大学大学院修士課程2年
一般社団法人職場のメンタルヘルス支援委員会 理事

1級・2級キャリアコンサルティング技能士
国家資格キャリアコンサルタント
公認心理師
ポジティブ心理学コンサルタント

人材派遣会社勤務時に当時の標準レベルキャリアコンサルタント資格を取得するも、直後にリーマンショックの影響でリストラに遭う。ハローワーク相談員を経て、大学キャリア支援センター勤務。人は、どうしたら真にポジティブになれるのかを探求したく大学院での研究活動を行う。誰もがのびのびと能力を発揮できる社会づくりをめざしている。

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