キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2021年1月号

2021年 年頭のご挨拶

あけましておめでとうございます。

キャリアコンサルタント、キャリアコンサルティング技能士の皆様、また養成講習、更新講習実施団体をはじめとする会員団体、先生方、行政および関係諸機関の皆様には、日ごろより協議会の活動に一方ならぬご支援をいただいておりますこと、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

さて、「あけましておめでとうございます」というご挨拶の余韻が、これまでとは全く異質な感覚で残る年明けとなりました。一年前とは世界は一変し、パンデミックがきっかけとなって、私たちは見通しのつかない未来への不安を抱えながら、自分の働きかたや生き方を否応なく見つめなおす日々を過ごしています。それは過去の災害の記憶が、それに見舞われた地域を除けば、驚くほど速く風化して日常生活の中に痕跡をとどめなくなってしまう常とは異なり、自分の生活やキャリアに関する「まあ何とかなるだろう」という安定、安全の基盤が、実はひどく脆弱な幻想であったことを多くの人が実感したからではないかと思います。

昨年の年頭所感では、私たちが生きる世界を巡る日々のニュースの中に、現実的にも心理的にも簡単に解釈、予測、対処ができない事象が増えてきたことの懸念を、「既存の世界秩序の崩壊」、「地球環境の危機」、「科学技術の暴走」、「日本社会の変質」、「社会保障制度と能力格差」の5つの観点から述べました。パンデミックの危機が一過性のものではないという冷厳な事実は、そうした人類全体に関わる不連続な構造変化が迫りつつあること、そして私たち一人一人の生活と仕事にその影響が及んでいることを(程度の差こそあれ)一気に前景化して私たちの意識に浸透させたのではないかと思います。まさしくハラリが言うとおり、この1年の間に「私たちは何を望みたいのか?」(人類社会のあり方という次元ではなくとも、私たちの日常においては「本当はどんな生活をしたいのか、どんな働き方をしたいのか、私にとって本当はどうあることが幸福なのか?」)という問いが、私たちの視界の深い次元に根を下ろしたように感じています。

以前から、私たちキャリアコンサルタントが受ける相談テーマの中には、人間関係や異動、転勤、退職等にまつわる悩みやメンタル不調問題に加えて、子育て、介護、あるいは病気の治療と仕事の両立といったテーマが確実に増えつつあります。しかしながら働く人が等しく考えなければならないキャリア問題の底流に、働く期間の長期化と働き方の変化に伴う新たな課題が加わることになったことは、これまでとは質の違う社会状況が生じていることを実感させます。組織生産性への貢献、発達障害を背景に持つ相談の顕著な増加、あるいは医療や福祉領域での支援、LGBTの方々や外国人労働者への支援は既に始まっている未来ですが、60歳の相談者に対して100歳まで幸福なキャリアライフをコンサルティングするというシーンは、ほとんどのキャリアコンサルタントにとって未知のテーマのように思います。

職業指導の淵源から、キャリアコンサルティングの変遷は、社会経済環境の変化に適応困難な労働者への支援の歴史であり、その在り方自体が変化し続けた歴史でありました。現在、キャリアコンサルティング行政の最大のキーワードは「質の向上」ですが、質の向上とはとりもなおさず時代の環境変化へのキャリアコンサルティングのあり方自体を進化、深化させる必要があることを意味しています。

キャリアコンサルティングという仕事の本質は、相談者が「自分自身、自分が生きる環境、自分と環境との関係」についての理解を深め、個人にとって幸福な人生を主体的に選択することへの支援であると思います。これからの相談場面に登場するテーマを考えるとき、キャリアコンサルタントに一層求められるのは、目の前の相談者一人ひとりにとっての幸福な人生のための「生きる知恵」を、相談者と一緒に考えていくことなのだと思います。

この先の社会では、とにかく生きていくために働く居場所を確保しなければならない相談者が増えていくことでしょう。生存することが最大の課題であり、働き方や生き方の選択肢がない相談者に対して、キャリアコンサルタントが習い覚えたテクニックで、働く動機や価値観を問い詰めることは、極論すれば暴力と同じと言わざるを得ません。私たちにできることは、生存のために働くことを余儀なくされる相談者がとにかく生き残るための支援を他の専門家と協働して行うことに加えて、そうした仕事生活の中に、なお自分らしく生きることの意味を見出すことへの、真摯で慎重なお手伝いではないかと思います。

キャリアコンサルタント倫理綱領には、キャリアコンサルタントは自らの能力を超える支援を行わず、必要に応じて専門家の支援を受けることが謳われていますが、自分は何ができないかを自覚できることは、相談者に害を及ばさないという意味で、専門職(プロフェッショナル)としての最低の資質であり教養です。しかしながら自分一人の内省だけでは、その自覚は困難であることも事実です。

そのような意味で、キャリアコンサルタントにとって自らの能力の限界を正しく認識し、そのうえで必要な能力開発を正しく継続していくために有効かつ必須な学習機会は、優れた指導者の定期的なスーパービジョンを受けることです。キャリアコンサルティング協議会では、2019年度より厚労省委託事業(スーパーバイザー養成プログラムの標準化)を受託し、試行実施プログラムを終了して検証を進めていますが、今後、一人でも多くのキャリアコンサルタントの皆様が積極的にスーパービジョンを受講され、またスーパーバイザーを目指して研鑽されることを祈念する次第です。

大変化の時代、私たちの学習に「これで十分だ」はありません。昨年にも増して、激変する世界情勢、環境問題、科学技術、社会と経済システムの変化といった同時代を共に生きるリアリティとレスポンシビリティを決して見失うことなく、高め続けていきたいと考えます。どうか本年もよろしくお願い申し上げます。

キャリアコンサルティング協議会 会長 藤田 真也

キャリアコンサルティング協議会 会長 藤田 真也

キャリアコンサルティング協議会 会長
キャリアカウンセリング協会 理事長

1983年株式会社日本リクルートセンター入社。企業内研修の研究開発畑を歩み、(株)リクルートマネジメントソリューションズ執行役員(管理部門担当)、(株)リクルートエージェント(現リクルートキャリア)監査役等を経て、2014年キャリアカウンセリング協会理事長。2017年より現職。

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