キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2021年4月号

キャリア選択とジェンダー ~ジェンダーの問題はキャリア選択にどう影響するのか~

私は男女共同参画センターでジェンダー平等や男女共同参画を推進する活動をしている。先日の政治家による女性蔑視発言にもみられるように日本には(世界でも)ジェンダーによる偏見や差別が日常的にある。公の場では男女平等を推進していても、根底には男はこうあるべき、女はこうあるべきというジェンダー規範が存在し、それが若い世代に再生産され、キャリア選択や人生全体に影響しているように思える。

◆ 採用におけるジェンダーによる偏見

「子どもが病気のときに仕事はどうしますか?」

これは、育児中の女性が再就職の面接で1番聞かれた質問だと教えてくれた。
男性候補者にはしない質問をどうして女性にだけ質問するのか。

「子どものことで仕事を休むのは母親」というジェンダーによる偏見から仕事への影響を確認したいのだろう。彼女はこの企業は育児に関して理解がないと感じたそうだ。

このような質問を何度も受けた女性はどう感じるだろうか。
時間に融通が利き、家庭と両立できる非正規の仕事を選択するのではないか。
こうして女性の5割以上が非正規雇用という社会構造に繋がっていく。

働いてからも仕事と家庭の両立に葛藤する人は少なくない。彼女たちの心の中には、幼少期から刷り込まれた「女は家庭」というジェンダー規範がある。夫が家事・育児に協力的でも、仕事で家事育児の時間が減ることは、女性としての役割を全うできていないと罪悪感を抱いてしまい、自己肯定感を低下させてしまう人もいる。

若い世代もジェンダーによる偏見を受けている。

下の文は、とある中部地区にある大学の冊子(2021年2月発行)に掲載された女子学生の文章の一部だ。

『私自身、全国転勤型の総合職希望で応募しても女性には結婚・出産というライフイベントがあるからという理由で、社員から転勤がない地域勤務型の総合職を勧められる経験をしたことがある』

男性にもライフイベントはある。女性だけにライフイベントの影響を理由に職種変更を勧めるのは不公平だ。こうした周囲のジェンダーによる偏見や思い込みがキャリア選択に影響する。

この現実をキャリコンとしてどう考えていったらよいのか。

◆ 大学生対象のキャリア講座でみるジェンダー規範の影響

私は年1回、大学生向けに、若いうちからワーク・ライフ・バランスの重要性を知ってもらうためのキャリア・デザイン講座を開催している。

この講座では、学生たちに内在化された「男はこうあるべき、女はこうあるべき」というジェンダー規範を見ることができる。

講座では、学生達に自分が希望する未来を書き出してもらう。希望の職種、希望年収、将来の家事分担、住みたい場所など、仕事だけでない人生全体を考えてもらう。その後、各自が書いた内容を発表し、互いに質問し合うことで、より深く自分の価値観を内省してもらう。

回答において性別による違いが大きいものが2つある。

1つは、理想の年収だ。男子学生は400~1500万円位に対して女子学生は200~500万円位と差がある。男子学生には「稼ぐ=男の価値」と考えるジェンダー規範が内在化していると推測される。

2つ目に、仕事を選ぶ基準だ。男子学生はやりがいや仕事内容を重視するが、女性は育休制度が整っているか、長く働ける環境かという現実的な制度に関する回答が多い。「本当はやりたいことは別にあるのだが、産休育休明けの復職を考えて職業選択したい」という女子学生もいた。現実的で賢明だと思う反面、親や周囲から「女の子だから安定した職に就きなさい」と言われ続けてきたことが彼女のキャリア選択に影響しているのではないかと思う。

他にも「共働きは賛成だが、子どもが小さいうちは奥さんには家に居て欲しい」という男子学生や「共働きでも私の方が8割は家事をやりたい」とケア労働に積極的な女子学生もいた。

ずいぶん前から家庭科が共修になり、名簿も男女別から混合名簿になっている。それでも若者にはジェンダー規範が内在化され、無意識的にキャリア選択に影響しているように思える。

◆ キャリア選択におけるジェンダーの問題にキャリコンはどう向き合うのか

20年以上前にもなるが、私も「女性は結婚で仕事を辞めるから」とジェンダーによる偏見を受けながら就職活動をしていた。それでも総合職での就職を夢見て採用試験を受けるが、何度も不採用通知を受け取っていた。女が出しゃばるのがいけないのかと自分を責めて落ち込んでいた時、通っていた英会話教室の外国人先生にその話をすると「結婚は男性でもするからそれを理由にするなんて、その会社がおかしい」と言ってくれた。私はその言葉を聞いて、すーっと気持ちが晴れた気がした。

このエピソードは一例だが、キャリア支援を行う立場として、ジェンダーによる偏見に出会ったら「それはあなたのせいではない」と伝えていくことが大切だと考え、実践している。

ジェンダーによる偏見や差別を個人のキャリアに影響させてはいけないと思っている。
とはいえ私にはまだ明確な解決策は持っていない。

誰もが自分らしい生き方を選択ができる社会を目指して。
私にはまだまだやることがあると、自分自身を鼓舞する。

近藤 佳美(こんどう よしみ)

近藤 佳美(こんどう よしみ)

ACCN中部支部副支部長
NPO法人浜松男女共同参画推進協会理事

2級キャリアコンサルティング技能士
国家資格キャリアコンサルタント
産業カウンセラー
精神保健福祉士

浜松市在住。大学卒業後、人事採用関連業務に従事。夫の転勤で浜松に引っ越したことを機に男女共同参画や女性活躍推進に関する活動をはじめる。現在は、NPO法人浜松男女共同参画推進協会において浜松市受託の男女共同参画推進事業(講座・相談等)を統括する他、複業として障害者福祉施設で就労定着支援員としても働いている。著書:『地域を支えるエッセンシャル・ワーク』(共著)、ぎょうせい、2021年4月出版

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