マンスリーコラム
変幻自在のキャリアを目指して~転機と気づきの先にあるもの~
皆さんはどんなきっかけで「キャリアコンサルタントになりたい」と思われたのでしょうか。
私は前職での会社破産を機に、突然自分の職業人生というものを真剣に考えさせられることになりました。今思えばこれは人生の大きな転機であり、シャインの3つの問い「何が得意か」「何をやりたいのか」「何をやっている自分が充実しているのか」について自問自答し、内観を深めていった時間だったのだと思います。ただ、当時の私には「働き続けたい」という気持ちはあっても、資格もなく小さい子供を抱えての離職の現実を前に「お先真っ暗」というイメージしか持てませんでした。そんな私が一歩を踏み出そうと思えるようになったのはハローワークで出会った相談員の方の言葉でした。
子供のいる女性が正社員で働くのなんて厳しいですよね、の問いかけに、真剣な目で「そんなことはない、女性が子供を産んで仕事をしていくのは自然なことだよ」と答えてもらったことが本当に嬉しかったのを覚えています。そして「私もこんな仕事に就きたい」と思い生まれて初めて主体的に職業を選択しました。それが「キャリアコンサルタント」の仕事です。
その後、運よく専修学校の就職センターと学生相談室で13年間、相談業務の仕事に携わることができました。
フリーター経験や浪人経験が長い人、前職とは違う業界での活躍を目指し入学してきた人、不登校や引きこもりを経験してきた人、障がいを持つ人、保護者の対応・・・これらの経験でわかったのは、たとえ寡黙なクライエントであっても心の中まで沈黙に支配されているわけではない、ということです。彼らの心の中には色鮮やかな思いが眠っていて、それがたまたま、自分の言葉で相手に伝えることができていないだけなのだと知りました。そして「自分には無理かもしれない」「こんな自分が社会人として通用するのか」そんな悩みを吐露する若者と一緒に問題に向き合うことで私自身にも変化が起こりました。
一つめの"変化"は「会社の破産という経験が、私にとっての宝だと思えるようになったこと」です。当時はしんどくて語りづらい、こんな思いは二度としたくないというネガティブなものでしかなかったのに、「危機」に直面している学生にリアルな体験談やリファー先も含めた情報を自分の言葉で伝えられたことは、結果としてコンサルティングの幅を広げることにつながったと思います。
もう一つの"変化"は夢に向かってひたむきに努力する学生と向き合ううちに、私自身の職業的アイデンティティについても模索するようになったことです。「自分は何がしたいのか」「このままの自分で本当によいのか」という気持ちが強くなり、キャリアの理論学習を進めるうちにダグラス・ホールが提唱する「プロティアン・キャリア」に出会い、惹かれました。私の座右の銘が「人間(じんかん)いたるところに青山(せいざん)あり」で、置かれている環境でベストを尽くしつつ職業人生を送りたいと願ってきたからこそ、心に響いたのかもしれません。
このまま相談業務で仕事を続けていくかと思われた私のキャリアですが、3年前に予期せぬ転機がおこりました。
教員として教務部への異動を打診されたのです。
会社の破産で悩んでいたころの私からは想像もできない展開で驚きましたが、同時に頭によぎったのは今まで相談に乗って夢を叶えていった学生達のことでした。今まで彼らから教えてもらったことを、今度は教員という仕事を通して恩返ししたいと思いました。「挑戦したことがなくて不安なのなら、やってみたらいい」今まで学生に声がけしていたセリフを体現するチャンスだと思ったのです。
このような経緯があり、現在は留学生に対してビジネスマナーを教えています。育ってきた環境、文化の違う留学生との出会いはまた新しい気づきや学びをもたらしてくれています。私の役割は、彼らが異国の地でも自分らしさを失わず、柔軟性を持ちながら働き続けていくための準備、まさに彼らの「プロティアン・キャリア」を支えていくことです。
自分で決心してきたこととはいえ、見知らぬ土地で生活をしていくことは相当な苦労があり、それを間近で見ている身としては切なくなることも多くあります。日本人がやりたがらない時間帯や重労働でも笑顔を忘れずアルバイトに行き、ひたむきに慣れない日本語で思いを伝えようとする姿に心を打たれることも少なくありません。そして、日本語の流暢な学生であっても、その見た目から外国人だというだけで言葉がわからないと決めつけられ、アルバイト先で嫌な思いをしている学生がいることも知ってほしいと思います。コロナ禍の影響で自由に帰国することもできず、空腹に耐えながら母国の食事時間まで待ち、深夜にオンラインで家族と食事をとる学生達の苦労が報われてほしいと心から思います。
現在開催している東京オリンピックのコンセプトのひとつに「多様性と調和」がありますが、日本で学んでいる留学生の現状を知らない人が多いからこそ、皆が知らない、知りにくい素顔を知ってもらえるよう発信していくのも今の私がすべきことではないかと考えています。
このような思いを持ちながら続けてきたキャリアコンサルタントとしての活動も、あっという間に16年目を迎えました。
今年度からACCN東北支部長を拝命し、支部が以前から掲げてきた「東北のキャリアコンサルタントを東北の人で支える」というスタンスを守りながら、今まで以上に支部を知っていただくために、SNSなどを利用して情報を発信しながら仲間と活動しています。
ACCNは初学者からベテランの方まで、キャリアに携わる者同士、同じ方向を向き、進むことのできる「開かれた組織」です。支部では今年度もオンラインでの勉強会を多数予定しております。
ぜひ、ご一緒に学んでまいりましょう。皆さまとお会いできることを楽しみにしております。
コラムの感想等はこちらまで(協議会 編集担当)
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