キャリアコンサルティング協議会は国家資格「キャリアコンサルタント」の試験機関および指定登録機関と、国家検定「1級・2級キャリアコンサルティング技能検定」の指定試験機関です。

マンスリーコラム

2021年10月号

『ソーシャルジャスティス (社会正義のキャリア支援) 』について思うこと

今年の3月19日、日本アカデミー賞の受賞式がありました。映画好きな私は、作品賞・主演男優賞にノミネートされていた草彅剛さん主演の『ミッドナイトスワン』と、小栗旬さん主演の『罪の声』という作品に注目し、レンタルされるのを心待ちにして、2作品を一気に見ました。どちらも感動して見返すほど素晴らしい作品だったのですが、見終わったあとに非常に切なく、虚しいような、なんとも言えない気持ちになってしまいました。その理由について自己探索してみると、どちらも格差・差別・偏見・貧困・性的マイノリティーなどで苦しんでいる人々を題材にしていて、社会の中でもがきながら必死に生きていく内容だったからでした。もっと早く社会的支援を受けられていたら、こんなに長い間、苦しまなくてもよかったのではないか。公的な機関で働く私にとって、同様の問題を抱えている相談者がいてもおかしくない話で、無力感を感じてしまいました。

そのような中、『社会正義のキャリア支援』の著者 下村英雄先生の『コロナ禍での社会正義のキャリア支援』の勉強会に参加しました。下村先生は、「キャリアコンサルタントとして、一人ひとりの支援をしているだけではとても乗り越えられない壁があり、個人を取り巻く職業の問題・労働の問題・社会の問題に幅広く関心を持つと、その問題の幅広さゆえに自分のキャリア支援に疑問や限界を感じる。」と仰っていました。それを聴いて、映画を見たあとのなんとも言えない無力感の訳が分かりました。

◆ソーシャルジャスティス(社会正義のキャリア支援)とは

「経済的・社会的に恵まれずに普通と違う進路に進む人で、非主流の集団に属する人、社会の縁辺に置かれている人を対象として、十分に恵まれなかった分だけ、十分に支援を提供すること。」と、下村先生の著書、『社会正義のキャリア支援』で述べられています。

さらに下村先生は「そういった人は容易に支援を受けられない人々でもある。キャリア支援者だけでなく、企業・研究者・行政官のいずれもが、社会正義の価値観をもってそれぞれの持ち場で、それぞれが出来る実践に取り組む必要性がある。」と述べていらっしゃいます。

一見平和そうな日本でも、病気や障害、性別、結婚、出産、育児、介護、地域、経済、学歴、雇用形態などにより、格差・差別・偏見を受け困っている人は沢山います。担当する者が見過ごされがちな問題・課題に対して、積極的に関わる意識を持つことが大切だと思いました。

◆ソーシャルジャスティス(社会正義のキャリア支援)を実践するために

下村先生は社会正義のキャリア支援を実践するために、3つの可能なプラクティスを挙げています。

・存在を認める(深い意味での) カウンセリング
・自己決定の手段を増やす エンパワメント
・環境に働きかける アドボカシー

上記を踏まえて重要だと思うことは、

気持ちを表出していただかないと困っている事が分かりません。ですが、複雑な心情を持っており、自己開示していただくこと自体が難しい場合もあると思います。そのためには、ラポール形成から関係構築等のカウンセリングスキルをしっかり身に着けること。

相談者を承認することでの勇気づけ、職業訓練などの様々な社会資源を積極的に知り、情報提供することで安心と希望を与えること。

キャリアコンサルタントの倫理綱領にもありますが、組織・システムなど、環境への働きかけ。個人だけでは解決できない問題に対し組織に働きかけたり、他分野と繋がり連携をしていくこと。

以上を心がけることだと思いました。

◆ソーシャルジャスティス(社会正義のキャリア支援)について思うこと

私はキャリアコンサルタントになって今年で10年目になります。未経験で公的需給調整機関に入職し、未熟ながら今までやってこられたのは、周りの方の協力と支えがあったからとだ思っています。下村先生のお話しを聴いて「与えていただいた役割の中で出来ることは実践的に取り組もう。」と、キャリアコンサルタントとしての命題を与えられたような気持ちになりました。

今後実践するうえで大切にしたいことは、一歩踏み出してその人に関わろうとする勇気です。私の所にもコロナの影響による経済的事情によって進学をあきらめざるを得ない中高生が来ました。辛い事情を聴くことや、今まで関わっていない機関に連携をお願いしたり、活用経験のない制度の運用について上部機関に確認したりすることは勇気がいります。それでも、せっかく助けを求めて伸ばしてくれた手をしっかりつかむようにようにしよう。また手を伸ばしてくれるとは限らないのだから。そう心に留めて、これからもキャリア支援をしていきたいと思います。

引用・参考文献 下村英雄(2020)『社会正義のキャリア支援―個人の支援から個を取り巻く社会に広がる支援へ―』 (株)図書文化社 2021年6月26日21世紀ライフキャリアデザイン研究所主催 講師下村英雄『コロナ禍での社会正義のキャリア支援』公開勉強会

山口 万里子(やまぐち まりこ)

山口 万里子(やまぐち まりこ)

山口 万里子(やまぐち まりこ)
ACCN北関東支部副支部長
2級キャリアコンサルティング技能士
国家資格キャリアコンサルタント

ホテルマン、鉄道・国立大学法人の事務職を経て、産業カウンセラー資格取得を機に公的需給調整機関へ入職。職業訓練、学卒・若者支援、セミナーを担当。そのほか後進の指導や資格取得の支援に携わる。

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